【教えていただいた方】
加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。脳科学、MRI脳画像診断の専門家として、胎児から90歳以上の超高齢者まで1万人以上を加藤式脳画像診断法で脳の使い方や脳相を診断。脳の成長や個性に合わせた学習指導や適職相談など、薬だけに頼らない脳が成長する治療を提供。著書に『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる! おとなの音読』(きずな出版)など多数。
人生経験の豊かさゆえに「大人は“暗記”が苦手」
仕事で会った人の名前が覚えられない、スキルアップのための勉強がなかなか身につかない…。
こんな経験がある人は多いと思いますが、それを「年齢による脳の劣化」と考えるのは待ってほしい、と加藤先生。
「ものを覚えるのが苦手になるのは脳の機能低下ではなく、若い頃と脳の使い方が変わってくるからです。子どもの若い脳と大人の脳の一番の違いは無意味記憶ができるか否かです」(加藤俊徳先生)
無意味記憶とは、意味をなさない、意味がない言葉でも聞いたままに覚えられる力のこと。
「わかりやすい例を挙げましょう。試しに『ポテトサラダ』を反対にして言ってみてください。おそらく小さな子どもほどそれをすぐ覚えて口に出せるでしょう。
でもポテトサラダについて作り方や味のバリエーションなど、関連したさまざまな事柄ごと記憶している大人にとっては、反対から言う『ダラサトテポ』は意味をなしません。そのため非常に覚えづらいのです。
人は大人になるにつれてさまざまな経験や知識を積んでいき、それに伴って思考力、判断力、決断力などが磨かれていきます。そして言葉の持つ意味が関連づけられていきます。
それと反比例するように、意味をなさないものは記憶に残りづらくなっていくのですね。
無意味記憶ができなくなってくるのは、個人差はありますがだいたい20歳を越えたあたりからと考えられます。そして思考力や判断力などの能力が上がっていき、だいたい30歳くらいでようやく大人脳として完成。そこから50代で脳の機能はピークを迎えるともいわれます。
脳細胞自体はもちろん子どもの頃のほうが多いのですが、機能と細胞の数は単純には比例しないということなのです。
脳を体力や筋力にたとえてみるとよくわかります。
体力や筋力のピークは女性は14歳くらい、男性は17歳くらい。つまり中高生です。でもプロのアスリートで非常に脂がのって第一線で活躍している人はもっと年齢が上ですよね。20代後半から40代の人だっています。
たとえ体力や筋力がピークであっても若すぎるうちはそれを生かし切れず、そこから経験と努力を重ねていくなかで、能力をどんどん進化させていくことができるのです」
年をとると記憶力が落ちてしまうふたつの理由
「そうはいっても、実際記憶力は落ちているし、新しい知識を身につけるのにも時間がかかるし」という声が聞こえてきそうですが…。
「その理由はふたつ考えられます。
まずひとつは、脳の使い方が変わってきているのにもかかわらず、学生時代と同じ勉強法をしていること。
参考書に付箋を貼ったり、要点にマーカーを引いたり、といった暗記が中心の学習法はいわば無意味記憶のためのもの。脳の使い方が変わってしまっている大人にとっては身につきづらいのです。
もうひとつは、年齢と経験を重ねたことで脳の使い方に偏りが出てきて、脳が本来の力を発揮できていないということ。
記憶力というのは年齢とともに低下するわけではないというのは今の脳科学でわかっていますが、脳は特定の部分ばかり使っているとほかの部分が弱くなり、全体としての機能が落ちてしまうことがあります。
裏を返せば、脳の使い方の偏りを修正し、今の自分の脳に合った勉強法を見つけられれば、何歳からでも成長できるということです」
脳の場所ごとの連携プレーによって、大人の脳はぐんぐん伸びる!
大人ならではの脳に合った勉強法をする前に、まず知っておきたいのが脳には場所ごとに役割があるということ。
「私はそれを脳番地と名付けました。脳番地は大きく分けて8つあり、それぞれ働きが異なります」
8つの脳番地とは
思考系脳番地…思考、意欲、想像力などを司り、物事を考えるときに働く。
理解系脳番地…目や耳から入る情報を理解する。物事を推測して理解しようとする際に働く。
記憶系脳番地…物事を覚えたり思い出す際に働く。情報を蓄積させて使いこなす。
感情系脳番地…喜怒哀楽を感じ、表現する。
伝達系脳番地…コミュニケーションを通じて意思疎通を行う。
運動系脳番地…体を動かすこと全般にかかわる。
視覚系脳番地…目から入る情報を脳に集積させる。
聴覚系脳番地…耳から入る情報を脳に集積させる。
「『頭がいい人』というのは、これら8つの脳番地がそれぞれの役割を十分に果たし、かつ脳番地間の連携がスムーズな状態を指します。
勉強とは記憶力の勝負ですが、だからといって記憶系だけを鍛えたり酷使すればいいのかというと、そうではありません。この部分は単独ではなかなか働かず、思考系や理解系との連携によってよりよく働くという特性があります。
大人は『意味記憶』が優位になると前述しましたが、意味記憶というのは、耳や目から入ってきた情報を理解し、考え、そして記憶として定着させるということ。
つまり『覚えよう』と記憶系脳番地だけを使うのではなく、積極的に『理解しよう』と思考系や理解系の脳番地をともに働かせることが、大人の脳の特性にかなった覚え方といえるのです。
大人になって働くようになると、一日の多くの時間を仕事に費やし、脳を働かせます。
そうすると、例えば営業職の人は伝達系、研究職の人は理解系といったように、よく使う脳番地が偏ってくることがあります。
情報処理のスピードも決断も速いため、それ自体は悪いことではないのですが、それ以外の部分が使われないことでサビついてしまうことも。
そうなると脳番地間の情報伝達もスムーズでなくなり、脳の機能が十分に発揮できないということになってしまうのです。
大人の脳のコンディションを整え、機能を底上げするには、8つの脳番地をしっかり働かせて偏りを調整していく、ということを意識するといいでしょう」
イラスト/藤田マサトシ 取材・文/遊佐信子
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