疲れた脳では「わかった!」が起きにくい
定期テストの前や受験のときは夜遅くまで勉強していた…。そんな学生時代の経験があったり、仕事や家事が終わった夜しか時間が取れないという現実もあり、勉強時間を夜に回しているという人も多いのでは?
でも結論から言って「夜の勉強はおすすめしません」と加藤先生。
「まず、一日働いて疲れている脳は活性が下がった状態。つまりファイアリング(=発火。脳科学用語で神経細胞の情報伝達が活発になること)を起こしにくくなっています。
※詳しくは第2回参照。
疲れていて何かを見たり読んだりしてもきちんと頭に入ってこない、という経験は誰にでもあるでしょう。
このような状態で学習をしても、定着しづらいのは当然です。
また、夜に無理やり勉強時間を取ろうとして睡眠時間を削ってしまうと、日中もぼーっとしがちに。
大人の勉強には好奇心や楽しいと思う感覚がとても重要ですが、寝不足で疲れた脳ではそうした反応も起きにくい。
『夜になるほど頭がさえる』と言う人がいますが、多くの場合それは錯覚。寝不足によって日中の脳の活性度が低いために、少し動き出すと『頭がさえ出した』と勘違いしているだけなのです。
現代人は一日中忙しく、脳を『閉じる』ということが苦手です。
でも体と同じで、脳もしっかり休ませる必要があります。夜は今日やったことを整理する時間にあてて、無理に勉強するくらいならその時間を睡眠にあてるのが正解。
大人が勉強をするなら、朝です。
十分な睡眠をとったあとの朝の脳は元気で、ファイアリングを起こしやすい状態。つまりはパフォーマンスの高い脳になっています。
夜だらだらとやるよりも、勉強のスピードも定着率も格段にいいのです」(加藤俊徳先生)
日付が変わる前に寝て8時間睡眠の確保を
朝型にシフトすることで脳のコンディションがよくなるのは、加藤先生自らが身をもって実感しているそう。
「私は毎晩22時前を基本にして、どんなに遅くなっても22時半には寝ており、翌朝7時に起きます。
寝る時間を決め、そこから逆算して食事の時間、仕事を終える時間なども決め、20時を過ぎたら仕事のことは考えない、ということも徹底しています。
この習慣を始めたのは、実は50代後半から。ここ3年間は徹底しているのですが、そうするようになってから若いときより脳のコンディションがよいのを実感しています。
睡眠時間を気にせず夜まで働いていた頃は、その日に来たメールをすべて返し終わってから仕事を終わりにするという働き方でした。
でも『もう少し考えてから返信をすればよかった』というようなことも、実際ありました。
朝型に切り替えた今は、以前は夜3時間かけてやっていたことが朝20分ですむようになり、効率も全然違うのです。
私が参加しているアルツハイマー協会主催の国際学会や国際睡眠学会では、寝ることは単に休むだけではなく、体の持つ排泄機能を高めるためにもとても重要であると盛んにいわれています。
脳の老廃物がきちんと排泄できないと、結果的に認知症のリスクを高めるということも近年わかってきました。
タバコよりも睡眠をとらないことのほうが毒とさえいわれているのです。
とはいえ、仕事や通勤時間の都合もあり、22時に寝るのは現実的に難しいという人もいるでしょう。
そういう場合でも日付が変わる前にはなんとか寝て、睡眠時間は7時間を切らないようにしてほしいと思います。
それが将来の脳を決めると言っても過言ではないのですから」
脳は「連続性」に強い! 毎朝20分間の勉強を
でも、朝だと十分な時間が取れない、という声も聞かれそうですが…。
「大人の勉強は何時間もかけてやらなくてOK。20分間でいいのです。
脳は連続性のあることに対してよく働くという特性を持っています。
勉強している事柄についての情報をこまめに脳に与えるほど、脳は『重要な情報』だと認識して、記憶として定着しやすくなります。
だから1回の時間はわずかでも、それを毎日続けることが大事。朝勉強した内容を昼間に思い出す、ということも記憶の定着に効果的です。
また、脳は期限を決めるとよく働くという特性も。期限、つまり締め切りを決めるとギュッと集中して働きます。
脳が集中して作業しやすい時間は20~30分なので、脳の仕組みにもかなっているのが朝の20分間なのです。
早起きが苦手という人もいるでしょう。でも20分だけなら、スマホを“なんとなく”見る時間を減らすだけで、そこまで起床時間を早めなくても確保できるのではないでしょうか。
時間の余裕がある週末に3時間まとめて勉強する、というやり方も否定はしません。
でも、大人の脳に合わせたやり方で効率よく勉強するなら、朝20分間、それをできるだけ毎日続ける。
もし長く勉強時間が確保できるときがあったとしたら、ぶっ通しで勉強を続けるのではなく、こまめに休憩を挟むことがポイントです。
20分を超えて勉強を続けているとどうしても使う脳番地に偏りが出て、脳が疲れてきます。すると、ファイアリングが起きにくく、起きたとしてもピークが弱くなってしまいます。
時間をかけて勉強しているわりにもったいないことになってしまうのです。
それに対して、20分ごとに5分程度の短い休憩を挟むと脳がリフレッシュでき、ファイアリングのピークが強くなります。
集中していると1時間があっという間、ということもあるかもしれませんが、時間をかけて勉強できるときも、こまめに休憩を挟むことを意識するといいですね」
【教えていただいた方】
加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。脳科学、MRI脳画像診断の専門家として、胎児から90歳以上の超高齢者まで1万人以上を加藤式脳画像診断法で脳の使い方や脳相を診断。脳の成長や個性に合わせた学習指導や適職相談など、薬だけに頼らない脳が成長する治療を提供。著書に『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる! おとなの音読』(きずな出版)など多数。
イラスト/藤田マサトシ 取材・文/遊佐信子
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