記憶という“荷物”が増え、ありかがわからなくなる!
「昨日テキストを読んだところなのに…」「ここまで出かかっているのに…」。そんな“大人の勉強あるある”で、もどかしい思いをしている人も多いのでは?
「脳が老化して記憶力が落ちているからだ」とネガティブな気持ちになりそうですが、「落ちているのは記憶力ではなく、覚えたことを引っ張り出すための検索力です」と加藤先生。
「年齢が上がるほど記憶力は落ちていくと思っている人は多いのですが、記憶そのものが消えてなくなるということはありません。
記憶していることを探し当てる、つまり検索する力が鈍っているだけです。
大人は人生経験が長い分、脳にしまわれている情報量も膨大。
家の片づけにたとえるとイメージが湧きやすいと思いますが、生活していくうちに荷物がどんどん増え、『あれはどこにしまってあったっけ?』というものが出てくる。
捨ててはいないのだから家の中のどこかにはあるはずなのに、ありかがわからず出すことができない…。まさにその状態といえます」(加藤俊徳先生)
「学生時代のほうがもっと勉強していたけど、すぐに思い出せた」という人も多いかもしれません。
「大人はただでさえ学生よりも記憶の積み重ねが多く、しかも勉強だけしていればいいというわけではありません。
日々の仕事、家のことなど、たくさんの必要な情報がどんどん脳へ送られてきます。それらの“荷物”に埋もれてしまって、勉強した内容がまた奥へと行ってしまうのです」
「その日のうちに思い出す」で検索力を上げる
こうして埋もれていく記憶を埋もれたままにしないためには、「定期的に引っ張り出す作業が大事」と加藤先生。
「引っ張り出すとは、思い出すということ。つまりは復習です。
私たちの記憶は、一時的な記憶である短期記憶と、長い期間の記憶である長期記憶に分けられます。
学習した内容が長期記憶に保管され、それを自在に引っ張り出すことができる、これが『勉強が身についた状態』といえます。
しかし前述のとおり、大人の脳の長期記憶に保管されるのは、勉強のことばかりではありません。
そのため、長期記憶があふれ返って何がどこにあるのやら、という状態になりがちです。
脳には、繰り返し入ってくる情報は長期記憶に送られやすく、また引っ張り出しやすくなるという特性があります。
だからこそ、勉強には復習が大事なのです。
朝に20分間の勉強時間を取ったとして、それでいっぱいいっぱいという人も多いでしょう。
記憶が定着しやすい1時間以内の復習は現実的に厳しいと思いますが、せめて24時間以内、その日のうちにを意識しましょう。
復習といっても、またテキストを広げて同じところを読んだり書いたり、といった学生時代の王道的な方法でなくてもいいのです。
脳は連続性のあることに対して、よく働くという特性を持っています。
朝勉強した内容を昼間に思い出すという程度でもOK。『あの単語覚えたな』と思い出して、記憶に“鮮明さ”を与えられればいい。
これを繰り返すと、一度学んだことを長記記憶として定着させやすく、かつ思い出す=引っ張り出す回数が多いことで、ほかの記憶に埋もれてしまうことなく、保管庫の“取り出しやすい場所”に置いておくことができるのです」
検索を広げて「意味記憶」を増やす
勉強を進めるうえでもうひとつ大事だと加藤先生が言うのが、私たちがネット検索するのと同じ、いわゆる「検索」の力。
「これは、自分の勉強にとって必要と思う情報を自ら探し出して取りに行く力のことです。
ひとつの単語や言葉の意味、背景などの関連情報を自分で調べる。そこから関連した言葉にどんどん検索ワードを広げていく。
また、『この人はこう言っているけど、こっちの人はどうだろう?』と疑問を持ったり比較をしてみる。
そうした検索の積み重ねはまさに好奇心そのものです。好奇心に裏打ちされた検索は、そこに意味が加わります。
大人の勉強は意味記憶がポイント。
検索力をつけることは、意味記憶を増やすことにつながり、勉強が一気に進みますよ」
【教えていただいた方】
加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。株式会社「脳の学校」代表。脳科学、MRI脳画像診断の専門家として、胎児から90歳以上の超高齢者まで1万人以上を加藤式脳画像診断法で脳の使い方や脳相を診断。脳の成長や個性に合わせた学習指導や適職相談など、薬だけに頼らない脳が成長する治療を提供。著書に『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる! おとなの音読』(きずな出版)など多数。
イラスト/藤田マサトシ 取材・文/遊佐信子
加藤先生の話題の書籍はこちら!