受診が必要な症状の目安は? 出血が見られたら早めの受診を
「お尻に異変を感じても、恥ずかしさから受診をためらってしまう人が少なくありません。でも、便器が真っ赤になるほどの出血がある場合は、痔核の悪化、もしくは大腸がんの可能性があります。特に、1日10回以上の出血を伴う下痢が続く場合は、潰瘍性大腸炎などの大腸疾患の疑いがあります。早めに受診してください」と高橋先生。
もしも急に、肛門内に戻せない腫れが現れて出っ張ったままになり強い痛みを伴うときは「嵌頓(かんとん)痔核」かもしれません。あるいは肛門の近くに血豆ができてしまう「血栓性外痔核」も強い痛みがあります。どちらも急性症状で、内服薬や軟膏で炎症と痛みを取り除くことができます。
嵌頓痔核
肛門の外に飛び出した内痔核が腫れて、肛門に戻らなくなってしまう
血栓性外痔核
肛門の近くに血豆ができてしまう
また、肛門周囲の皮膚に熱感を伴う腫れが生じたり、発熱、肛門の奥の強い痛みを伴う場合は、細菌感染がもとで肛門周囲に膿がたまる「肛門周囲膿瘍(のうよう)」が疑われます。肛門周囲膿瘍から痔瘻(じろう)に移行する可能性もあるため、まずは炎症を抑えて、肛門の周囲にたまっている膿を出してあげる処置が必要です。痔瘻は圧倒的に男性に多い肛門疾患ですが、下痢しやすい人は注意しましょう。
<こんな症状が見られたら、迷わず受診!>
・便器を真っ赤にする出血が続いている
・激しい痛みがあり、痔核が悪化している気がする
・肛門の近くの皮膚に熱感を伴う腫れがあり、大きくなってきた
・肛門の周辺、または肛門の奥に激しい痛みがある
・肛門周囲の腫れに発熱を伴う
・排便時に肛門が切れるのを繰り返している
初めての診察ではどんなことをするの?
まず初めに問診、肛門周囲の視診、次に医師の指を肛門に入れてチェックする指診を行います。なかでも重要なのは、肛門の内側の病変の有無を診る指診。肛門がキュッと締まったままだと、中の様子が見えないので、肛門鏡という器具を挿入して診察します。
「肛門鏡を使うと、肛門内の裂肛、内痔核の有無や重症度をチェックできるほか、痔瘻の『膿のトンネル』の入り口がわかるケースもあります。また、直腸内にポリープ(腫瘍)がないか、出血が起きていないかどうかも確認できます。指診の際、医師の指に血がついたときは、特に50歳以上の方は大腸がんなどの可能性が大きくなるので、大腸内視鏡検査を受けるようにすすめます」
人によっては、肛門付近に病変がなくても、直腸内に便がたくさんたまっている状態を「つらい」と感じ、「肛門が痛い」と訴えるケースもあるのだそう。そのため、痛みの原因が腸内に腫瘍や出血が起きているせいなのか、それとも便が滞留しているせいなのかをチェックするためにも、肛門の指診は欠かせないのです。
主な治療法は?
症状の程度にもよりますが、まずは保存的治療として、食生活や排便習慣の改善について指導するのが第一歩。
便秘がちな人は食物繊維が豊富な野菜を十分に摂取して、食事を抜かさないことがポイントです。ただし、不溶性食物繊維(根菜、きのこ、ブロッコリー、玄米など)に偏ると便が硬くなりやすく、出にくくなるので、とりすぎないように要注意。一方、便が緩い人は乳製品、発酵食品、果物、甘いお菓子、カフェイン、アルコールなど、便を軟化させる食品をとりすぎないように気をつけましょう。
高橋先生によれば、「どちらのタイプにもおすすめなのが白米、1日2膳しっかり食べることがポイントです」とのこと。実は、白米に含まれるデンプン成分には、便の形状を安定化させる作用があるのです!
「また、『排便は毎日あるべき』とこだわらなくても大丈夫です。かなり十分な食事をとっていなければ、毎日の排便は無理ですし、週3回程度、すっきりと排便できているのであれば問題ありません。むしろ痔を予防・改善するには、『しっかりと便意を感じてからトイレに行くこと』『便が出たらさっさとトイレから出ること』が大事です」
このように食事内容や排便習慣を改善しても、痔の症状の改善がみられない場合、あるいは苦痛を伴う症状がみられる場合は、薬を処方します。薬には注入軟膏、坐剤、内服薬があります。
「通常、軟膏の成分には、ステロイド入りの炎症を落ち着かせるタイプと、痛みを軽減するタイプの2種類があります。例えば、内痔核が肛門の外に大きく脱出したまま激しい痛みを伴う『嵌頓痔核』を起こした人には、炎症を取り除くステロイド入りの軟膏や鎮痛作用のある内服薬を処方します。すると2週間ほどで腫れがひいて、徐々に痛みも軽くなってきます。一方、肛門が切れてズキズキと痛いという人には鎮痛作用のある処方を行い、便が硬い人には、便を柔らかくして便通をよくする緩下剤を処方します」
便を柔らかくする薬といえば、一般的には酸化マグネシウム剤が知られていますが、高齢者や腎臓の機能が悪い人は、血液中のマグネシウム濃度が異常に高くなってしまう状態に陥る心配があり、「近年では便秘薬の種類が増えてきたので、その人の持病の有無、ライフスタイルなどに応じて便秘薬を選択できるようになりました。併せて、便秘の予防・改善、排便習慣を整える生活指導のアドバイスも行っています」
手術が必要なのは、どんなとき?
薬の処方、食事・排便習慣の改善など、保存的治療をしても症状が長引いたり、悪化してしまう場合は手術を検討します。
「痔核でしたら、Ⅲ度以上(内痔核が排便のたびに肛門の外に脱出し、毎回指で押し戻す必要が出てくる状態)が手術の適応です。飛び出してくる痔核を戻すことがストレスになっている人、QOLに支障をきたし、『内痔核の脱出、指で戻す症状を改善したい』と本人が希望する場合に手術を行います。一方、複数の内痔核があって症状が進んでいたとしても、『私は痔と仲良く付き合っていきたい』と手術を希望しない場合は、無理に手術をしなくてもよいと思います」
そうはいっても、内痔核が大きくなって出たり入ったりすると、「随伴裂肛」(内痔核や肛門ポリープが排便時に肛門の外に引っ張られて、痔核や肛門ポリープの根元の粘膜が裂けてしまう状態)といって、排便のたびにものすごく痛くなるケースがあるのだそう。
「便が硬いことが原因となって裂肛を引き起こす場合は、お通じをよくして便の柔らかさが保てるようにすることで、症状がよくなります。でも、大きな内痔核が肛門の外に出たり入ったりを繰り返し、痔核や肛門ポリープが切れてしまう随伴裂肛のケースでは、原因となっている内痔核や肛門ポリープを切除しなければ、裂肛を繰り返してしまいます。そうした場合は手術するほうがよいでしょう」
また、裂肛を繰り返すために、指が入らないくらいに肛門が狭くなっている人、肛門周囲に「膿のトンネル」ができてしまった痔瘻の人も手術が必要です。
<こんなときは手術が必要>
・内痔核を指で戻す状態が続いている、内痔核が戻りにくくなってきたなど、本人が症状をストレスに感じて手術を希望するとき
・裂肛を繰り返したために、肛門が狭くなってしまったとき
・大きな痔核が肛門から出たり入ったりを繰り返し、痔核の根元が傷つく「随伴裂肛」を起こしたとき
・痔瘻になり、肛門周囲に「膿のトンネル」ができてしまったとき
【教えていただいた方】
東京女子医科大学卒業。亀田京橋クリニックにて、全国でも珍しい直陽と肛門の疾患に特化した「女性のためのこう門・おつうじ外来」を担当。専門分野は肛門疾患、排便機能障害、分娩後骨盤底障害。女性たちの便秘や痔、便失禁、直腸脱などのトラブルに対して、専門的な治療とともに生活指導を行っている。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵