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自己中心的に見えるのは大人の発達障害「ASD(自閉スペクトラム症)積極奇異型」の可能性が

「自分の話したいことだけしゃべりまくる」人が時々いますが、それは大人の発達障害のひとつである「ASD(自閉スペクトラム症)」の積極奇異型の人かもしれません。そんな人の困り事について、医学博士で発達障害を専門とする司馬理英子先生に伺いました。

「大人の発達障害の困り事のなかに、『自己中心的に見える行動をとり、人とのコミュニケーションを上手にとれない』ということがあります。今回はそんなASDの積極奇異型の人によく見られる困り事と、その解決策を探っていきます」(司馬理英子先生)

 

※大人の発達障害について基礎知識は第1回参照。

 

ASD積極奇異型のH美さんの場合

振る舞いが自己中心的に見える

H美さん(48歳)は中学生の娘が一人と夫の3人暮らし。営業職のリーダーとしてバリバリに活躍するキャリアウーマン。仕事はとても優秀です。

 

今の職場の内容はH美さんにとって、とても興味がある分野なので仕事熱心。話すことが大好きなためセールストークも得意です。仕事に強い信念があり、そのため営業成績は常にトップです。

しかし、実は人との距離感を上手にとったり、社会的なやり方を理解していない面もあります。

 

感情表現が大げさでカッとしやすく、部下の失敗を大きな声で叱責してしまうことも。自分が正しいと思ったことは、部下も上司も関係なく、自分の言い分や正当性を訴えます。

大人の発達障害 ASD 積極奇異型 イラスト

思ったことをそのまま言ってしまうので、社内で浮きやすく、部下などにも避けられ、実は社内であまり仲のいい人がいません。

 

会話のキャッチボールができず、一方的に話す

また、その場を仕切りたがる傾向があり、常に会話の中心にいないと気がすまないところがあります。友人との会食でも、自分のことや自分の興味のあることばかりを一方的に話しまくりがち。

本人は思う存分しゃべったので大満足で、楽しい時間を過ごしますが、他の人があきれていたのには気づいていません。いつもこの調子なので、友達関係が長続きしないことも。

 

また、家庭では、子どもにはこう育ってほしいという気持ちが強く、細かくルールを決めて、勉強や習い事のスケジュールをびっしり入れます。子どもが自分の思い通りに動かないとイライラして、つい大きな声で叱ってしまうことも。

そのため、小学校まではおとなしく従っていた娘も、中学生になり、最近は反抗するように。

 

こうした家庭での態度は夫に対しても同様で、自分のこだわりを押しつけがちなので、夫婦関係もギクシャクしています。

 

【ASD積極奇異型の特徴〇は受動型と共通

●人とかかわるのが嫌いではなく積極的

●思ったことはそのまま言う

●振る舞いが自己中心的に見える

●人との距離感が独特で、強引なときもある

●感情表現が大げさで、カッとなりやすく、衝動的

〇相手の気持ちがわかりにくい

〇言われたことを真に受ける

〇興味のあることにのめり込む

〇自分の規則やルールを守ろうとする

〇予定変更が苦手

 

「積極奇異型の人は、その名の通り積極性が強く、人とかかわることが嫌いではありません。しかし、相手や場面を問わず、自分の思ったことをそのまま言ってしまうので、きつい人という印象を与えます。また、会話がキャッチボールにならず、自分が話したいことだけを一方的に話すので、引かれたり、周囲を困惑させることがあります。

 

H美さんの場合、仕事内容が彼女の興味に合致したことで、持ち前の積極性とおしゃべり好きが功を奏し、仕事は成功しています。このタイプにはセールスマン系で成功する人がよくいます。

 

しかし、職場や友人、家庭での人間関係ではうまくいかないことも多いようです」

 

 

【周りのサポート】

「自分の環境内に、H美さんのような人がいる場合は、こうした脳の癖がある人もいることを理解して、嫌な人だと決めつけず、自分自身が嫌な気持ちにならない工夫をするといいと思います。

大人の発達障害 ADHD多動・衝動型 イラスト

例えば、会議などで、ずっと一人でしゃべっていたら、『ちょっと私にも話させてください』などと、優しい口調で言ってみてはどうでしょうか?

 

ただし、ASDの人は遠回しの言い方では理解できないことがあるので、今の状況のどこがよくないのかを具体的に説明することが大切です。

 

こうしたタイプの人はつい夢中になってしまいますが、優しくそれを指摘すれば、人との距離感の取り方や会話のルールについて学習していくと思います」

 

 

【当事者へのアドバイス】

「トライしてほしいのは、『人の話を聞く』練習をすることです。相手が話し終わるまで、きちんと聞きます。

 

そして、会話のキャッチボールをする練習をしてみます。例えば、『昨日は何をしていたの?』『ライブに行ったの』『誰の?』『〇〇さんの』というように、ひと言ひと言でやり取りしてみます。信頼できる人や家族などに協力してもらい、具体的に話す内容をマニュアルにしておき、実際に声に出してみます。

 

また、『私、ついしゃべりすぎちゃうので、長くなったら言ってね!』と最初に言っておくのもいいでしょう。

 

子どもを追い詰めない会話のポイントは、褒めるときにはしっかり褒めることです。『〇〇をよく頑張ったね』というように、具体的な成果を挙げて、そのプロセスを褒めます。そして大きな声を出さないこと、『~しなさい』という命令口調をやめるようにします。

 

子どもは親の所有物ではありません。親の意見を伝えるときは、子ども自身はどう思っているのかにも耳を傾け、敬意を払う心がけが必要です。

 

子どもとの関係、子育てについては一人で抱え込まずに、夫や父母、ママ友などに相談してみることも大切です。スクールカウンセラーや臨床心理士などの専門家に頼るのもいいと思います。必ずしも自分と同じ意見の人ばかりではないことを理解する努力をしましょう」

 

※ASDの受動型のA子さんの場合は第3回参照

 

【教えていただいた方】

司馬理英子
司馬理英子さん
医学博士
公式サイトを見る

司馬クリニック院長。岡山大学医学部・同大学院卒業後、1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てながら、ADHDについて研鑽を深め、1997年に帰国後、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。著書は『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)をはじめ、『わたし、ADHDガール。恋と仕事で困ってます』(東洋館出版社)、近著『もしかして発達障害?「うまくいかない」がラクになる』(主婦の友社)など、多数。

 

イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子

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