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髪が抜ける抗がん剤治療を行うべき?再発の確率は?遺伝子検査で予測可能に!

増田美加さん

増田美加さん

1962年生まれ。女性医療ジャーナリスト。約35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』ほか。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員

乳がんになったときに、再発する確率はどの程度か? 脱毛などの副作用がある抗がん剤治療は行なうべきか? 治療の選択に悩みます。その判断材料になる遺伝子検査が保険適用になり、比較的安価でできるようになりました。遺伝子検査によって、何がわかり、メリットは何があるのか…。もしも、のときのために知っておいてください。

遺伝子研究の発展でさまざまな遺伝子検査が登場

 

ヒトの遺伝子データを解析するコンピュータ技術が急速に発展したことによって、その人の体質や遺伝性疾患のかかりやすさなどの解析が、以前より低コストで行えるようになってきています。

 

そのひとつの成果として、乳がんになったときに自分に最適な治療を選択する遺伝子検査が一般的に行えるようになりました。2023年から保険適用になっています。

 

今、乳がんは日本女性の9人に1人がかかる、女性で最も多いがんです。検診によって早期発見される人も増えている中で、乳がんと診断されて最初に悩むのが治療法の選択です。

 

早期乳がん治療の基本は、手術です。そのうえで、再発を予防するための抗がん剤などの薬物療法が治療の選択肢となるケースが多いのですが、その選択に迷うのです。

 

「できれば、脱毛などの副作用のある抗がん剤はやりたくない」「でも、再発して命を危険にさらすことは避けたい」と、乳がんを告知されると考えます。

 

脱毛など副作用がある抗がん剤はできればやりたくない!

 

乳がん診断後、どの薬を選ぶかの選択は、乳がんのタイプによって異なります。乳がんタイプは、「ホルモン受容体」と「HER2(ハーツー)」というタンパク質がそれぞれ陽性か陰性かで4タイプに分かれます。

 

この4タイプのうち、治療の選択が難しいケースがあります。例えばホルモン受容体が陽性で、HER2が陰性の乳がんタイプの方は、ホルモン療法だけか、あるいは抗がん剤を併用するかの選択になってきます。

 

抗がん剤治療は、脱毛や吐き気などの副作用があるため、再発を防ぐ効果が高ければ行う意味はありますが、再発を防ぐ効果が低い場合には行いたくないというのが本音です。本来なら、再発を防ぐ効果があると見込まれる患者さんにのみ、行うのが望ましいのですが、これまでは再発を防ぐ効果がどの程度か特定することができず、効果が不確かでも、抗がん剤治療を行わざるを得ませんでした。

 

私たち患者は、事前にリスクを知って自分に合った効果のある治療を選びたい。不必要な治療はしたくないまして、副作用が強い抗がん剤を選ぶときはなおさらです。

 

不必要な治療はやらなくてすむ

 

保険適用になった遺伝子検査「オンコタイプDX」(オンコタイプ DX 乳がん再発スコア®プログラム)は、患者の乳がん細胞に含まれる遺伝子を解析して、再発の確率を数値で予測できます。同時に、脱毛などの副作用がある抗がん剤を手術後に行う必要があるかどうかを判断するための材料になります。

 

オンコタイプDXは、自分に本当に必要な治療だけを選択できる、待ちに待った検査なのです。こうした検査によって、乳がん治療は一人一人の状態に合わせたオーダーメイドの治療にかなり近づいてきたといえます。

 

この検査を受けられる対象は、ホルモン受容体陽性、HER2陰性のタイプで、脇の下のリンパ節転移が0~3個の患者さんです。乳がん全体の6~7割の人がこの対象に当てはまります。

 

具体的には、手術で切除したがんの組織を調べて、再発にかかわる21種類の遺伝子を解析します。結果は、0~100の数値「再発スコア」で示され、点数が高いほど再発しやすいのですが、抗がん剤の効果もより大きいことがわかっており、抗がん剤を行うことが推奨されます。

 

25以下なら再発の可能性が低く、抗がん剤を使用しても、それ以上再発を減らす効果は少ないと考えられます。ただし、50歳以下の人、またはリンパ節転移がある(陽性)人は、25以下でも抗がん剤の効果がある程度見込める人が含まれます*。遺伝子検査の結果を自分の治療選択に生かす場合にも、一人一人の状態に合わせて、医師と相談して治療を決めていくこと(シェアードディシジョンメイキング・共同意思決定)が大事です。

 

一見、乳がんが大きく、抗がん剤が必要と思える人がオンコタイプDXの検査で再発リスクが低かったり、逆に、がんが小さく抗がん剤は不要と思えた人が、再発リスクが高く、その結果、抗がん剤治療を行ったり、ということもあります。

 

これまでこの検査は、自由診療で約45万円でしたが、2023年の保険適用で約13万円(3割負担の場合)になりました。費用負担が軽減され、受けやすくなりました。

 

*Sparano JA, et al. Clinical and Genomic Risk to Guide the Use of Adjuvant Therapy for Breast Cancer. N Engl J Med. 2019 Jun 20;380(25):2395-2405. doi: 10.1056/NEJMoa1904819. Epub 2019 Jun 3. PMID: 31157962; PMCID:

 

乳がん治療のオーダーメイド化がさらに進む

 

私の知人で、こんな女性がいます。乳がんで手術したJ子さん(50歳)は、術後の病理検査でがんの悪性度や大きさなどは、ある程度わかりましたが、術後の抗がん剤治療を行ったほうがいいかどうかを最後まで迷っていました。

 

それは、再発リスクが高いかどうかが、はっきりしなかったからです。主治医からは「J子さんの場合は、私の家族でも抗がん剤をすすめるかどうか悩む」と言われたそうです。そして、オンコタイプDXをすすめられ、検査を受けました。

オンコタイプDXを勧められ、検査を受けたJ子さんの例

結果、再発スコアがやや高めだったため、J子さんは、抗がん剤治療を併用することを決めました。術後6年たちましたが、再発せずにいます。
J子さんは、「保険適用になってよかった。自由診療だったら高額なので、検査するのをためらっていたと思います。検査で具体的な数値が出て、納得いく選択ができました。医師と相談しながら、私だけのオーダーメイド治療ができたと感じています」と話しています。

 

【オンコタイプDXでわかる治療決定に必要な情報】

 

1.「がん再発リスクと抗がん剤の効果予測」
抗がん剤治療を受けた場合、再発がどの程度抑えられるかの予測が0から100に数値化されます。一般的には、25以下の数値では再発の可能性が低く、抗がん剤を行っても再発や死亡リスク低下につながらないことがわかります。

 

2.「ホルモン療法だけを受けた場合の予後予測」
乳がんの手術後、標準的な5年間のホルモン療法だけを受けた場合にどの程度、再発(または死亡)のリスクがあるかを予測できます。

 

3.「抗がん剤の上乗せ効果」
標準的なホルモン療法に、抗がん剤を加えた場合、再発や死亡のリスクをどの程度抑えられるかの予測ができます。

 

 

イラスト/かくたりかこ

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