【教えていただいた方】
表参道内科眼科。医学博士。日本眼科学会認定専門医。日本眼科学会、日本眼科手術学会、日本眼科医会、東京都眼科医会、港区医師会会員。 「クリニックは、東邦大学眼科名誉教授が開設した所で、眼科の中でも、専門は白内障、網膜硝子体疾患を得意としています。日本大学病院教授、准教授が非常勤で、高度な大学医療レベルを保っています。内科を併設していて、網膜疾患を発症した方が、かかりつけ医ではコントロール不良の、高血圧や糖尿病を管理しています。私は、医局の人事異動で配属され、全体のサポートとしてかかわってきました」
老眼鏡をかけると老眼が進むって本当? ズバリ答えます!
「結論から言うと、本当に老眼であれば老眼鏡はかけたほうがいいですね。目が見えにくいのを我慢する必要はないんです。
眼鏡をかけずにいると、常に目の調節力を頑張って働かせたり目を細めて無理にものを見ることになるので、眼精疲労の原因になります。
なるべく早くかけるに越したことはありません」
と教えてくださるのは、眼科医で医学博士の宮澤優美子先生。
高度な大学病院医療レベルを保つ「表参道内科眼科」にて外来を担当しています。
自身も経験してきた大人世代の目のトラブルに詳しく、最新の学会情報にも敏感な頼れる医師です。
でも、早くから老眼鏡をかけると老眼が早く進むという説もありますが?
「それは誤解です。都市伝説でしょう。
老眼は自然な加齢現象で、老眼鏡をかけてもかけなくても進んでいくもの。
ずっとやせ我慢していて、60歳くらいで初めて老眼鏡をかけようとすると、かなり度数が進んでいるせいで『クラクラしてかけていられない!』ということもあるんです。
できれば、老眼と気づいた早いうちから慣れていたほうがいいと思いますね」
これって老眼? 自宅でできる簡単セルフチェック法
そもそも老眼とは、加齢に伴う目の生理的な調節障害で、ピントを合わせる調節力が低下した状態です。
どんな人でも老眼になります。近視の人でもレーシック手術をした人でも、です。そして徐々に進行していきます。
「老眼は、早い人は30代後半から始まります。45歳を過ぎると手元の見えにくさを実感する人も多いはず。でも、45歳前後ってまだ若いつもりなんですよ。私もそうだったんですが、見えにくくなったことを『まだ諦めたくない!』とじたばたする。
それで無理をし続けてしまって、50歳に近づいてようやく眼鏡をかけるようになるんです。
理想は、見えにくいと思ったらまず眼科を受診して、視力検査をすること。
眼科では「近方視力検査」で老眼の診断をしますが、指標の印刷物の文字を30cm(厳密には33cm)の距離で見て細かく測定します。
老眼になっているかどうかを確認するだけなら、自宅ででもできますよ」
自宅でできる老眼のセルフチェック法とは?
実は簡単。
スマホや本、新聞などを手に持って文字を読みます。そのときの自分の姿を鏡に映して見てください。
①目を細めて見ていないですか?
細めて見ること自体、老眼の始まりです。
②目から30cm以上離して見ていないですか?
(近視の人は、眼鏡やコンタクトレンズをつけたままにしてください)
②を厳密にチェックするには、読むものを目の高さにし、定規などで30cmをきちんと測ります。
ピントが合う距離が30cmならギリギリ老眼。30cm以上離さないと見えない場合は、しっかり老眼になっているといえます。
老眼治療薬の未来! 10年後の可能性とは?
「老眼をそのままにしておくことは、個人の生活の質を落とすだけでなく、経済に与える影響が大きいという報告がありました。
老眼で視覚の質が落ちれば、その結果、労働生産性が落ち、世界的な損失は巨額になる。老眼を矯正するだけで莫大な経済効果があるというのです。
そんなことから老眼治療は今とても注目されている分野。
現在の老眼治療は、老眼鏡と老眼コンタクトレンズの使用で約80%を占めていますが、10年後には老眼治療薬の使用が増えていくでしょう」
今、日本国内で認可されている老眼治療薬はありませんが、アメリカなどでは認可薬が使われ始めています。
「2021年に老眼の症状を改善する初めての点眼薬がFDA(アメリカ食品医薬品局)に認可されました。1日1回の点眼で、1時間から6時間の効果が見られるそうです。とはいえ縮瞳薬(瞳孔を縮小させる薬)なので、夜間の車の運転時には適さないタイプですし、副作用の報告も。
国内で老眼治療薬が使えるようになるには、もうしばらくかかりそうです」
見えにくさを感じたら早めに眼科を受診し、適切な対策を。無理をしないことが、快適な生活を続ける第一歩です。
取材・文/蓮見則子