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【医師に聞きました】話題のがんリスク検査は、受けたほうがいい?

がんになる前からがんの大まかな常識を知って備えておくことで、発病時によりよい選択につなげてほしい。そんな願いを込め、がんを自然災害になぞらえて「がん防災」を呼びかける、がん治療医の押川勝太郎先生。最近目にする機会が増えた「がんリスク検査」、気になっている人もいるのでは? でもそれらは意味がないどころか、デメリットも大!

リスク検査はあくまで「リスク判定」で、がんの有無はわからない

日本における自治体のがん検診の受診率は5割以下(厚生労働省「2022年 国民生活基礎調査」がん検診受診率より)

受診しない人の理由はそれぞれかもしれませんが、「忙しくて受ける時間がない」「痛みや不快感がイヤ」という人は多いのではないでしょうか。

 

そんな多くの人が気になっているであろう「がんリスク検査」。

「自宅で尿や血液を採取して送るだけなので手軽」「少量の血液を採取するだけなので体への負担が少ない」とうたっているものもあり、がん検診よりハードルが低いイメージも。

 

がんは早期発見が大事といわれるだけに、日本人に多い何種類ものがんのリスクが一度に判定できるとあっては、「受けたほうがいいかな?」と思ってしまいそうです。

 

でも「リスク検査はがんの早期発見にはつながりません」と押川先生はバッサリ。

 

「検査によって1回数千円から高いものだと20万円近くするものもありますが、すべて保険適用ではなく自費検査です。

 

では、なぜがん検診のように保険適用になっていないのか?

それは、国が認めて保険適用にするまでのデータが集められていないから。

早期発見で死亡リスクを下げるのに有効である、という科学的根拠が確認されていないのです。

 

そもそもがんリスク検査は、あくまでも『がんのリスクが高いか低いか』を評価するもの。がんであるかを診断するものではありません。

 

例えば全身の15種類のがんリスクがわかる、とうたう検査で『高リスク』と判定が出たとしても、はたして何がんのリスクなのかまではわからない。

つまり『場所は知らないけど全身のどこかにがんリスクの高い部分がありますよ』ということで、それって裏を返せば何もわからないのと同じことなんです。

 

しかも、高リスクと判定が出て病院で検査を受け直すにしても、症状がなくリスクだけでは自費になってしまいます(通常の検診異常では精密検査は健康保険適用)。

さらに、検査をしてもがんが見つからないとなると『リスク検査で高リスクと出たんだからどこかにあるはずだ』と、ないことが確定できるまで検査を繰り返すことになりかねません。

 

それは悪魔の証明を求めるようなもので、ひどい場合にはがんノイローゼになってしまう人もいるのです」(押川勝太郎先生)

 

反対に低リスクと判定が出ても、それはそれで“危ない”場合も。

 

「症状があっても『低リスクだからがんのはずはない』と思い込み、受診を先延ばしにする人がいます。

また私の実際の患者さんで、低リスクだったからとがん検診を受けないでいたら、大腸がんがわかったときにはかなり進んでいたという方も実際いました。

 

がん検診は症状がない人が受けるもの、というのは前回お話しした通りですが、

症状があるのにがん検診やリスク検査を受診の代わりにするのは、かえってがんの発見を遅らせることにもなるんです」

 

記事が続きます

 

研究は進みつつも早期発見への実用化はまだ先

「でも、中には早期発見の実用化を目指してきちんと研究が進められている検査もあります」と押川先生。

 

その代表が「リキッドバイオプシー」。

これは、血液中に流れ出ているがん細胞やがん細胞のDNAの断片(CTCctDNAなど)を検出する検査です。

一般のクリニックではCTC検査を実施しているところも多く、1回5分の採血で全身のがんリスクがわかると話題にもなりました。

 

数万~十数万円と高額な検査だけに「信頼できるのでは」と期待する人も多いようですが…。

がん検診のイメージイラスト

「確かに一部のリキッドバイオプシー検査は、大腸がんなどにおいては治療方針を決めるための判断材料としてすでに使われています。

どういうことかというと、リキッドバイオプシー検査の結果を『この患者さんのがんには免疫療法がいいのか、分子標的薬がいいのか』といった治療方針を決めるのに役立てるのです。

 

でも、これはあくまで『すでにがんが確認されたあと』の話であって、リキッドバイオプシー検査が役立つのはがんの早期発見よりも治療中の話。

また一部のがんでは早期発見への実用化にかなり近づいてはいるのですが、検診として使えるのはまだ先です。

 

がん研究の進歩は著しく、いくつか新しい技術で早期発見に実用的と期待されるものが出てきてはいるのですが、そのどれもが実際にがん死亡率低下を確認する必要があるので、まだ実用化へは遠く、既存のがん検診にとって代わるものではないんです」

 

 

「線虫検査の結果はあてにしてはいけない」はがん診療現場の常識

血液検査よりもさらに手軽で痛みもないと注目されている、尿を採取するリスク検査。

嗅覚に優れた線虫が尿に含まれるがん細胞特有のにおいを感知し、リスクを判定するというものですが、これにも押川先生は「NO」を掲げます。

 

「実は2023年、衝撃的な学会発表がありました。

それは、線虫検査の会社が発表している成績と実態に大きな隔たりがあった、というものです。

 

線虫検査の感度(がんの人をがんと判定する確率)は8割以上、特異度(がんではない人をがんではないと判定する確率)は9割以上としています。

ところが実際に3つの病院が線虫検査で高リスクと出た350人の精密検査をしたところ、実際にがんと診断が下ったのはそのうちわずか8 人。つまりたった2%でした。

しかもそのうち2人は線虫検査の対象である15種類のがんには含まれない甲状腺がんだったのです。

 

そして、それとは逆に、がんと診断された10人の尿を線虫検査したところ、全員が低リスク=つまり陰性と判定されたのです」

 

記事が続きます

なぜ発表されている数字と実態がこんなに違うのでしょうか?

 

「調査の母集団にからくりがあります。

がんとわかっている人を母集団にしているから高い感度と特異度が出るのであって、無作為に選んだ一般人のデータではない。

つまり一般の人にとっては参考にならないということなんですね。

 

がん治療の現場にいる医師の間では、線虫検査の結果は当てにならないというのはすでに常識です。

なのに受ける人が続出していて、線虫検査で陰性と出たからと精密検査での胃カメラを拒否するなんて人も出ているんです。

 

リスク検査はあくまでリスクを測るもの(しかし本当にリスクを測れているのか疑問です)。

その結果を生活改善などに生かすという点では受けるのは自由ですが、油断や間違った思い込みにつながるようでは本末転倒。

ましてや、がん検診の代わりにするというのは間違いなのです

 

 

【教えていただいた方】

押川勝太郎
押川勝太郎さん
腫瘍内科医師
公式サイトを見る
Instagram

宮崎善仁会病院・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門。NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。がん化学療法の専門家として、6年前からYouTubeチャンネル「がん防災チャンネル」を主宰し、がんに関する正しい情報を発信し続けている。著書に『新訂版 孤独を克服するがん治療 患者と家族のための心の処方箋』(サンライズパブリッシング)などがある。

 

イラスト/macco 取材・文/遊佐信子

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