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がん治療でこだわるべきは、治療法よりも「筋肉」

2人に1人が生涯でがんになるといわれる今、誰にでも突然やってくる自然災害になぞらえて「がん防災」を提案する、がん治療医の押川勝太郎先生。今回はがん治療で大切な「体づくり」について。新しい治療法がいろいろ出ていますが、最も大事なのは治療法そのもの以前に、「治療が成功しやすい体であること」。そのためにするべきこととは?

めざましく進化しているがん治療。けれど効果には個人差が…。

がん治療は近年、めざましい進化を遂げています。

そのひとつ、「抗がん剤の副作用である吐き気は、かなり抑えられるようになってきている」というのはこの連載の第2回でお伝えしました。

 

抗がん剤自体も新しい薬が登場し、成果を上げています。

「分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤、という名前を聞いたことがある方もいるでしょう。これらはともに、広い意味で抗がん剤の仲間です。

 

従来から使われている抗がん剤(抗悪性腫瘍剤)は『古典的抗がん剤 (あるいは細胞障害性抗がん剤)』といい、白血球の値が下がり、吐き気の副作用が強いものでした。

古典的抗がん剤は、世界中からいろいろな化合物を集め、動物実験をやったあとにがん治療に使えるかを研究して作りますが、実際に標準治療として使えるようになる確率は1万分の1という、非常に効率の悪いものでした。

 

しかも実際に治療に使う際は、“効くか効かないかはやってみなければわからない”。

言ってみれば、無差別に攻撃をしかける絨毯爆撃のようなイメージです」(押川勝太郎先生)

 

これに対して分子標的薬は、どんな増殖メカニズムからがんが増大するのか、それをブロックするメカニズムを調べてから薬剤を作る、という画期的な仕組みだそう。

 

「これができるのは、バイオマーカー検査のおかげです。

バイオマーカー検査によって、このがんにはこの分子標的薬が効く、というめどがある程度つくようになりました。

それによって、意味のない治療をしなくてすむという大きなメリットも生まれました」

 

もうひとつの免疫チェックポイント阻害剤は、免疫細胞の目を逃れているがん細胞に働きかけ、再度免疫を活性化させてがん細胞を攻撃させるようにする薬です。

 

「分子標的薬も免疫チェックポイント阻害剤も保険適用のがん標準治療で、使えるがんの種類も広がってきています。

 

ただひとつ問題は、とても高額であるという点。

例えば分子標的薬は、ひと月で100万円もかかる場合があります。

国の高額療養費制度があるので収入によって負担の上限額はありますが、それでもかなりの負担になることは間違いありません。

 

また、こうした治療は受けられる病院が限られている、というのも現状の大きな課題です」

そして、他の治療法と同様に、受けられる人と受けられない人がいること、治療の効果が出るか否かは個人差があることも知っておくべきことだと言います。

 

「分子標的薬も免疫チェックポイント阻害剤も、最良の治療法ということではなく、あくまで選択肢のひとつ。

 

例えば、同じがん種の人の『この分子標的薬でがんが小さくなった』という体験談を参考にするのはいいのですが、それに自分を当てはめすぎて考えると、期待が大きい分その治療法に自分が当てはまらなかったり、効果が出なかったときの落胆が大きくなりがち。

 

がんは、同じがん種であってもかなり個人差があります。たとえ事前の検査でこれらの治療法が選択できない、となっても諦めずに、他の治療法を探してほしいのです」

 

記事が続きます

がん治療の基本は筋肉! 大事なことは治療法以前に「体力」と「筋力」

がんになると「どの病院のどの医師のもとで、どんな治療を受けるか」といったことに目が向きがちですが、「それにもまして大切で、どこにいても誰でもできることがあります」と、押川先生。

 

それは体力と筋力をつけることです。

ランニングマシンや筋トレのイメージイラスト

がんになるとふさぎ込んでしまう人は多いですが、副作用でつらい場合は別として、じっとしていたってよくなるものではありません。

むしろ活動量が落ちることで筋肉が減り、転倒からの骨折で寝たきりになって誤嚥性肺炎で命を落とす…ということがよくあるのです。

 

がんそのものではなく、がんの間接的な影響で亡くなってしまうのは何ともやるせないことです。

 

また、第4回でもお伝えしましたが、栄養がしっかりとれていて体力・筋力がある人のほうが抗がん剤が効きやすく、副作用が出にくい傾向があります。

つまりがん治療が成功する確率が高いのです。

 

がんになっても日常生活を維持し、その人らしい毎日を送るためにも体力・筋力は絶対に必要。がん治療の基本は筋肉です

 

そうした観点から、今、がん治療の現場では「がんリハビリ」に力を入れるようになっています。

 

「がんリハビリは、がんと診断された直後から始めるのがベストです。

受診している病院にがんリハビリがあればそこで。

なければ、住んでいる地域のがん拠点病院にあるがん相談支援センターで、どこでがんリハビリを受けられるか聞いて、リハビリだけ別のところで受けるというのも選択肢です(ただし現状、外来では保険適用外)

 

時々、大きな大学病院なのにがんリハビリを提案してくれないところも。

 

「大学病院は自分たちの専門分野の研究を進める場所なので、専門外のことにあまり目が向かない傾向があり、治療医がリハビリの重要性に思い至っていないということは往々にしてあります。

 

そういうときはぜひ、患者さん自らが『やりたい』と医師に伝えてみてください」

 

そうした病院主導のリハビリのほかに、自分でもできるそう。

 

「体力、筋力をつけるには有酸素運動と筋トレを両方やるのがベスト。

トレッキングなどの趣味がある人は、治療中でも体調がよければぜひ継続してほしいですね。

 

記事が続きます

とはいえ、屋外の運動は天候や季節に左右されがちなので、誰でもどこでもできるという点で、私はスポーツジムをおすすめしています。

ジムに行けば有酸素運動も筋トレも両方でき、生活のリズムが整ったり、がん以外の人間関係が築けることも。

コミュニティに参加することが長寿に関係するということは、近年の研究で明らかになっています。

 

継続してジムに行くコツとしては、『週2日』などと決めずに『行けるときには全部行く』としてしまうこと。

そう決めておけば、行くか行かないかで悩んで疲れてしまうことがありません。

 

もちろん、運動すると疲れます。

 

でも『予防の観点からも大事』と第3回でお伝えしたように、がんになっていなくてもがんになってからも、運動は自分への投資になるのです」

 

 

【教えていただいた方】

押川勝太郎
押川勝太郎さん
腫瘍内科医師
公式サイトを見る
Instagram

宮崎善仁会病院・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門。NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。がん化学療法の専門家として、6年前からYouTubeチャンネル「がん防災チャンネル」を主宰し、がんに関する正しい情報を発信し続けている。著書に『新訂版 孤独を克服するがん治療 患者と家族のための心の処方箋』(サンライズパブリッシング)などがある。

 

イラスト/macco 取材・文/遊佐信子

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