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「緩和ケア=末期がんのためのもの」ではない!【がんの誤解をバッサリ斬る!】

がんは自然災害と同じように「誰にでもやってくるもの」として、「防災」の必要性を説くがん治療医の押川勝太郎先生。都市伝説や間違った思い込み、古い常識がいまだに幅を利かせているがん治療の真実を、押川先生が解説。今回は終末期のイメージが強い「緩和ケア」について。実は「最後ではなく最初から受けるべきもの」なのだとか。

痛みや苦痛は早い段階で対処するのが正解

「緩和ケア」という言葉にどのようなイメージを抱いていますか?

テレビドラマなどで見るイメージから、「もう打つ手がなくなった患者さんのためのもの」と思っている方も多いのではないでしょうか?

 

「代表的な緩和ケアのひとつに、医療用麻薬を使用した痛みの緩和があります。が、医療用麻薬のモルヒネを投与されて意識が混濁する…という怖いイメージがいまだに横行しているのは非常に残念です。

 

そもそも医療用麻薬は、がんの痛みを取るための大事な治療法のひとつです。

それがなぜ『末期がんの人に使う』というイメージなってしまったのかというと、以前から日本の医療現場では麻薬の使用についての制限がとても厳しいという事情がひとつの要因です。

 

例えば医療用麻薬を使用するときは医師も薬剤師も、都道府県知事から『麻薬施用者免許』を取得する必要があり、特別な保管庫から出すときには看護師、薬剤師がそれぞれ別個にチェックし、使用した空アンプルも回収して数もきっちり記録します。

人手の少ない夜間に使おうにも薬剤師を呼び出し…という感じで、使用のハードルがとても高かった。

 

そうなると医師側としてもなかなかおいそれとは使いづらく、がん患者さんの病状が進み、痛みでどうにもならなくなってからやっと使う…ということが多くなり、それが『最後に使う』イメージにつながってしまったようです」(押川勝太郎先生)

 

医師と入院患者のイメージイラスト

 

痛みや苦しさは血液検査ではわからず、数値化されないために、医師側も患者の深刻度がわかりにくいというのも、使うタイミングが遅くなる要因のひとつだそう。

 

「日本人は我慢強い人が多いのか、苦痛があっても医師に言わない方もいます。でも痛みや苦しさは、できるだけないほうがいいのです。

(ちなみに、海外で消化器内視鏡検査をする場合、苦痛に耐えられず全身麻酔でやることがあり、麻酔医が別個に担当することもあります)

 

痛みや苦しさが大きいと活動が低下し、QOLが下がります。

早い段階で医療用麻薬や効果の高い痛み止めなどで苦痛をやわらげるほうがQOLが下がらず、結果的には寿命が延びるということがわかっています。

つらさはため込まずに、緩和ケアは積極的にやるほうがいいのです」

 

告知を受けたときから始める「早期からの緩和ケア」

緩和ケアは本来、早い段階から受けるべきもの、というのが近年広まりつつある考え方だそう。

 

「がんは精神的な苦痛がとても大きい病気です。

がんと診断された方は、告知されると大きなショックを受け、『そんなはずはない』と信じたくない気持ちが起き、そこから『なぜ自分ががんに』と怒りが湧く。

ジェットコースターのように非常に大きな感情の波に揺さぶられます。

 

がん防災 緩和ケアのイメージイラスト

気持ちが大きく落ち込んだときに、緩和ケアのサポートがあれば、治療に前向きに臨むことができます。

 

 

実は緩和ケアの有効性や重要性は10年以上前から言われていて、治療の初期から適切な緩和ケアを受けることで、患者さんのQOLがよくなり、その結果寿命も延びるということがわかっています。

 

例えば「診断時からの緩和ケア」も重要ですが、私は診断前の不安な気持ちやつらさに対応する『アクティブ緩和ケア』を推奨しています

 

でも、「緩和ケアを希望しても、主治医から『抗がん剤治療と緩和ケアは同時並行できない』と言われた」というケースも意外と多いよう。

 

「問題はそこなんです。

現場の医師でさえ、まだ早期からの緩和ケアの重要性に思い至っていなかったり、意味を誤解している部分があって、『まだ痛みも出ていないから必要ない』『緩和ケアの段階ではない』として、患者さんが希望してもOKを出さないケースが実際にあるのです。

また緩和ケア外来のある病院が、まだそう多くないという現状もあります」

 

でも、だからといって諦めることはせず、自分で情報収集することが大事です。

 

「自分が受診している病院に緩和ケア外来があればそこへ、なければ自分で探して紹介状を書いてもらうというのも現実的な手段です。

がんの拠点病院であれば、がん相談支援センターが病院内にあるので、まずはそこへ行って相談してみてもいいでしょう。(実はその病院外の患者も受け入れてくれます)

 

ちなみに、日本ではがんの緩和ケアは保険適用で受けられます。

 

患者さんの中には『緩和ケアだけは待ってください』という方もいますが、そうした方はがん治療を諦めたくない、という誤解があるようです。

 

でも、緩和ケアに時期は関係なく、『苦痛緩和の専門家』にも治療にかかわってもらうという意味だと考えてください。

 

もし自分や身近な人ががんになったら、緩和ケアは最初から治療と同時並行で受けられるという選択肢を覚えておいてほしいと思います」

 

 

【教えていただいた方】

押川勝太郎
押川勝太郎さん
腫瘍内科医師
公式サイトを見る
Instagram

宮崎善仁会病院・腫瘍内科非常勤医師。抗がん剤治療と緩和医療が専門。NPO法人宮崎がん共同勉強会理事長。がん化学療法の専門家として、6年前からYouTubeチャンネル「がん防災チャンネル」を主宰し、がんに関する正しい情報を発信し続けている。著書に『新訂版 孤独を克服するがん治療 患者と家族のための心の処方箋』(サンライズパブリッシング)などがある。

 

イラスト/macco 取材・文/遊佐信子

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