世界最高峰の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスのコースのうち、1区間だけを走るアマチュア・レースである、
エタップ・デュ・ツール。
このレースへの参戦に向けて、私は仲間たちと即席ながらチームを組み、半年間さまざまなトレーニングを積んできました。
そうして7月半ばに迎えた渡仏の日。
それぞれ別の便で日本を発ち、ジュネーヴ空港で全員集合、レンタカーに自転車と荷物を積み、国境を超えて一路フレンチアルプスへ。車は点在する有名リゾート地を縫うように山間をひた走り、森林の中にひっそり佇む宿に到着。そこで私たちを迎えたのは、見事なツリーハウスたち! 四日間、ここが私達の合宿所です。
「鳥の巣」と名付けられたツリーハウス。ダイナミックにして美しい外観です
気候変動は今、世界的に最も注目すべき深刻な問題となっています。世界規模で呼びかける運動に参加するのもいいけれど、個人が日常で取り組めることも沢山あります。
そうした問題を身近に感じる私が、自然に寄り添うライフスタイルの延長として選んだ宿が、このオーガニックなツリーハウスでした。
室内は北欧デザインで統一され、とても快適
「自然との共生」というテーマが貫かれた宿は、環境に配慮したしつらい、アメニティ、食事と全てがオーガニック。トイレは水の代わりにおが屑を使ったドライトイレという徹底ぶり。
そのフィロソフィーに共感するのはもちろん、こうした宿なら、不快な化学物質の臭いがする芳香剤などに苦しむ恐れもなく、安心して体調を整えられます。それも、今回この宿を選んだ大事なポイントのひとつでした。
ワイルドな外観と対照的に、室内はシンプルながらもラグジュアリー仕様です。テラスにはサウナ、ジャクジーがあり、心地良さが追求されています。
このホテル、Cacanes entre Terre et Cielのオーナー君に「こんなツリーハウス作るの、大変だったでしょう? かなりクレイジーだと思うよ?」と言ったら「『クレイジー』ってのはよく言われるな」と笑ってました。
こういう意識の高い若者達が、これからは地球を護っていくんだろうな。
趣味の良いナチュラルテイストの洗面所
あまりの心地良さに、出かけるのが億劫になるほど。何もしないで一日ここで無為に過ごしたい。
バカンス=空っぽという意味の通り、頭を空にしてゆったりと過ごしてこそバカンス。ヨーロッパでは当たり前の文化ですが、何十年経ってもこればかりは日本に浸透しません。
ああもったいない。人生はこんなに心地良いものなのに。
樹上に浮かぶロマンチックなサウナ
テラスでフランスらしいシンプルな朝食。搾りたてのオレンジジュース、近隣の酪農家から届く牛乳、山盛りのパン、地元の蜂蜜などが並ぶ
とはいえ、残念ながら今回はバカンスが目的ではないので、午前中だけプチ”バカンス気分”を味わった後は、後ろ髪を引かれながらもトレーニングライドへGO!
ダイナミックなアルプスの景色の中を走る
さすがは自転車が文化として認められた国、たくさんの自転車が車道を走っています。車はスピードを落とし、幅を広く空けて自転車を抜いていきます。サイクリストへのリスペクトがあり、日本のように「自転車ウザい」という意識も、幅寄せされることもありません。
移動する私たちの車を勢いよく追い抜いていった一団のロードレーサーたち、よく見たらなんとグルパマFDJという有名なプロチーム。こんなに簡単にプロ選手達のトレーニング風景に出くわすのも、ヨーロッパならではです。
トレーニング中のプロチームに出会う
この日のディナーは夕日に輝くモンブランを眺めながらのバーベキュー。男性陣が率先しててきぱきと準備をしていきます。
普段私は殆ど肉を食べないのですが、郷にいれば郷に従え。滞在中はアルプスの伝統料理をありがたく頂戴しました。
地元の専門店で、この地ならではの極上の食材とワインを買い込んでBBQの準備!
とここまで書いてふと気がつきましたが…これはどう見てもバカンスですね(笑)
今回の旅はバカンスが目的ではないと書いたけれど、かといってストイックなトレーニングとレース参加だけが目的でもありません。
自転車の旅とは、訪れる土地の文化や、人や、自然に触れる旅です。生身の身体で風を感じて風景に包まれて走るからこそ、その土地を肌で感じることができる。それが、自転車の旅の醍醐味。
日没時、刻々と表情を変えるモンブランをテラスで眺める時間が忘れられない
翌日もトレーニングライド。
しかし、私には思いがけない不調との闘いが待っていました。出発3週間前に患った肺炎が完治せず、この日は再び体調を崩し、車内で寝て過ごすはめに。この素晴らしい空気、自然に包まれた環境の中で過ごせば、あっという間に病も癒えるはず、と思ったのですが、そうは問屋が卸しません。
午後は会場のある町・アルベールヴィルへ。1992年の冬季オリンピック開催地です。
ゼッケンを受け取り、標識の前でポーズだけは決めてみたものの、依然として顔色も体調もさえない私。この日は早々に宿舎に戻ります。
アルベールヴィルから、ヴァル・トランスまでの135キロのコースが、今年のエタップの舞台!
泣いても笑っても、明日は、ついにエタップがスタート!
しかし、こんな体調でどうなることやら……。
国別にエタップ参加者の名前が掲示される。わずか十数名の日本人のうちのひとりが私
最後にちょっとお知らせです。
今回のエタップ合宿でも実践したように、サイクリング、食、ローカル文化、魅力的な宿、地元の人々との出会い。そんな”忘れられない体験”をフルで味わうことこそが、私たちの目指すもの。それを日本でも実現したいと、元オリンピック代表選手・宮澤崇史と、ライド・イベントを企画しました。
10月13日に愛媛県松山市で開催する「瀬戸内アートライド」です。
「瀬戸内リトリート青凪 文化音楽芸術祭」の1パートとして行われるこのライドツアー、松山のアートスポットと自然を巡り、ローカルフードを楽しみ、山頂に聳えるラジュグアリーホテル「瀬戸内リトリート青凪」でゴール。安藤忠雄建築として有名なこのホテルは、10 月12〜14日の3日間だけ美術館に変身し、同芸術祭の会場となっています。
サイクリングをアートとして捉え、芸術祭にジョインしてアーティスト達と交わる、そんな特別な自転車遊びの一日、ご興味ある方はぜひチェックしてみてください。
自然に包まれた美しいホテル、瀬戸内リトリート青凪は、建築家・安藤忠雄氏の作品