バセドウ病による眼症に悩まされたライターSの治療と手術の軌跡を4回に分けてご紹介。3回目となる今回は「眼症が後遺症に」編です。
③眼症が後遺症に
明らかに変わってしまったこの目つきであきらめる…?
眼科医から「バセドウ病眼症が非活動期になってからでは効果が出にくい」と説明された、まぶたへのステロイド注射。しかも「回を追うごとに効果は徐々に穏やかになる」とも聞いていたのに「私の場合はもしや…」と期待を捨てきれずに計3回受けました。保険適用のため、1回1000円台と治療費が手軽だったこともあります。でも、やはり効果はなく、注射の痛みとまぶたに内出血があっただけ(内出血は1週間ほどで消えました)。
〈発症前〉
〈発症後〉
バセドウ病発症から3年。多汗や抜け毛などの症状はすっかり治まり、抗甲状腺薬は1日2錠から2日に1錠服用と減ってきた頃には、涙目やびっくりしたような目つきといった目の不調にも慣れてきました。というより、50歳も過ぎればシワやたるみで若い頃とは顔の印象が変わるのも当然。この目つきも、そんなエイジングの一種とあきらめることにしたのです。
◆涙目に悩まされ、写真も苦痛に
眼球が出ていると風が当たりやすいのか、普通に外を歩いているだけで涙がポロポロ、そのせいでアイメイクがいつも取れていました。また、写真も苦手に。少しでもびっくり目に見えないよう薄目にしたりと、当時の写真を見返すと普通に写っている顔がなかなかない。撮ってもすぐ削除していたのです。「もともと目が大きいから気にならないよ」と慰めてくれる友人の言葉にかえって落ち込んだことも。
◆バセドウ病眼症を悪化させる生活習慣は?
「喫煙がいちばん悪化につながります。そのほか、ストレスや睡眠不足などにも気をつけてほしいもの。規則正しい生活を送ることが大切です」(後関先生)。「喫煙する人ほど眼症の症状は重くなり、一度炎症が治まっても再発しやすいことが知られています」(鹿嶋先生)。実は、ライターSはこれらにまみれた生活を送っておりました。仕事が重なると朝方近くまで原稿を書き、なかなか終わらずイライラしてタバコもスパスパ。そんな日はいつも以上にまぶたが重く、翌日はよりいっそう目が腫れぼったくなっていた記憶が…。
●教えてくれた先生方
鹿嶋友敬さん Tomoyuki Kashima
眼形成専門医師・医学博士。オキュロフェイシャルクリニック 東京院長。今までに日米通算で5,000件以上の眼窩・眼瞼疾患の手術を担当。海外の学会で年4回ほど講演を行い、つねに最先端の知見を追求している
後関利明さん Toshiaki Goseki
医師・医学博士。カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)臨床フェローでの研修を終了し現職、北里大学医学部眼科学講師。専門は神経眼科、小児眼科。斜視手術、眼球運動障害・複視の治療を中心とした神経疾患に精通
自分の目つきをあきらめていたライターSでしたが、あるひと言がきっかけで転機が!
◆この目を治すことが出来るかも!?
そんな後ろ向きな気持ちが変わったのは今年の3月。久しぶりに会った両親が私の顔を見るなり、「その目つきはどうにかならないのか」と。あなたの娘は年をとったのだと伝えるも、「目の印象が明らかに悪くなった」と言うのです。その言葉から、考えないようにしていた「この目をどうにかしたい」気持ちがまた強くなり、「バセドウ病 眼球突出」などのキーワードでネットを検索。すると、眼窩(がんか)の脂肪を切除する眼窩減圧術を行っているという、クリニックのサイトにたどり着きました。
眼窩減圧術はステロイド注射を受けた眼科でも実施していたようですが、よほど重症の場合に適用、しかも「骨を削る手術で入院が必要」とパンフレットに書かれていたので、私には関係ないと思っていました。それが骨ではなく脂肪を切除、しかも日帰りで? がぜん興味がわき、夢中になって隅から隅まで読みました。さらにそのクリニックで手術を受けたという人たちのブログも発見。眼症に悩んでいた日々のこと、手術を受けたあとの目の写真…。大いに共感して参考にもなり、私もこの手術を受けたい! と思ったのです。
◆眼形成眼窩外科ってどんな治療をしているの?
ライターSが手術を受けたクリニックは眼形成眼窩外科が専門。聞き慣れない診療科ですが、一般的な眼科が眼球を対象にした診療を行っているのに対し、そのまわりにあるまぶたや眼球の奥の眼窩など、眼球の外側を対象にしています。「この分野を専門とする医療機関や医師は全国的にも少ないのが現状で、全国各地から患者さんが訪れています。眼科と形成外科の知識から、目の機能面だけでなく美容面にも配慮した治療を取り入れています」(鹿嶋先生)
オキュロフェイシャルクリニック 東京
東京・銀座でバセドウ病の眼球突出、眼瞼下垂、顔面神経麻痺(まひ)、逆さまつ毛、外傷修正手術などの眼形成治療を行う眼科・形成外科医院。http://www.oc-tokyo.com
◆非活動期になったバセドウ病眼症の治療は?
バセドウ病眼症が非活動期となってからの眼球突出を治す治療法は、眼窩に増えた脂肪の体積を減らす手術「眼窩減圧術」しかありません。
「骨の減圧には100年ほどの歴史があります。脂肪減圧は、国内外での臨床経験を生かした独自の術式です。眼窩には筋肉や視神経、血管などが集中しているため、この部位へのアプローチはハイリスクとされていますが、顕微鏡を使った手術で眼窩に増えた脂肪そのものの切除が可能に。術後の負担も軽く、眼球をへこませる程度も調整できます」(鹿嶋先生)
次回最終回は、「眼症を克服!」編です。お楽しみに!
イラスト/中野久美子 原文/佐藤素美