「ネガティブな感情」は、てきめんに免疫力を落とす!
仕事で無理が続いたあとに、なぜか決まって風邪をひく…そんな経験はありませんか? じつは免疫が働くシステムはとてもナイーブ。「特に、リンパ球の中のNK細胞、T細胞、B細胞(第1回参照)は、ちょっとしたことで、とたんに元気を失ってしまいます」と、免疫について詳しい、順天堂大学医学部免疫学特任教授の奥村 康先生。
私たちの免疫力を下げてしまう、その気になる要因とは?
【原因その1:加齢】
免疫力は40代で半減、70代で10分の1に!
年齢とともに、運動能力や視力、聴力などが低下するように、免疫細胞であるリンパ球、中でもNK細胞は特に、年齢とともにその働きが低下します。若い頃は簡単に治っていた風邪も、歳を取るとなかなか回復しない…というのも、まさにこの現れ。
「免疫力は20歳ころをピークに、徐々に低下していきます。40代では20代の約半分に、70歳代では10分の1にまで落ち込むといわれています。年齢とともに、がんの罹患率が上がったり、新型コロナウイルスやインフルエンザで重症化しやすいのも、免疫力が低下するからなのです」
◆年齢による免疫力と感染症疾患の推移
何もしなければ低下する一方の免疫力。でも食事や生活習慣の改善で、免疫力の衰えに歯止めをかけることは可能です!
【原因その2:栄養バランスの乱れ】
タンパク質と食物繊維は必須!!
毎日食べる食事で私たちの体は成り立っています。偏った食事、栄養バランスの悪い食事は特に、免疫力にも直結します。特に大切なのは、タンパク質と食物繊維だと奥村先生。
「細胞の材料となるタンパク質が不足すると免疫細胞が作られにくくなります。また、腸の中にすむ腸内細菌の餌である食物繊維が不足すると、腸内環境が悪化して免疫力に大きな影響が。免疫力を高める食材を欠かさずとること、そして3食きちんと食べるといった、食生活の基本を整えることがとても大切なのです」
【原因その3:不規則な生活】
生活リズムの乱れは免疫力を直撃する!
第3回でもお伝えしたとおり、免疫力と自律神経はとても密接な関係があります。朝寝坊の宵っ張り、あるいは慢性的な寝不足など、生活リズムが乱れていると、自律神経のバランスが崩れて免疫力が低下してしまいます。
「とはいえ、夜勤など、仕事などで夜に働かなくてはならない人もいます。そういう場合は、食事内容を充実させたり、ストレスをためないように気をつけたり、また、その人なりの生活リズムの中で睡眠時間をしっかり確保するなど、できる範囲で免疫力を高める工夫をしてください」
【原因その4:過度なストレス】
特に“悲しみのストレス”は万病のもと
ストレスを感じると、自律神経の交感神経が優位の状態に。これが長時間続くことで、リンパ球の数が減り、免疫力が低下してしまいます。
「肉親を亡くすなどといった大きな悲しみのストレスを受けると、NK細胞がてきめんに下がります。ネガティブな感情、つらいストレスは、上手に解消する方法を見つけましょう。近年は、笑う時間を持つことでNK細胞が活性化することもわかっています」
【原因その5:薬の飲み過ぎ】
免疫力こそ最良の薬と心得るべし
体に侵入してきた敵(細菌やウイルス)が強すぎて、自分の免疫だけでは撃退が難しい場合に用いるのが薬です。しかし、安易に薬を摂取しすぎると、もともと持っている免疫システムを弱体化させてしまうことに…。
「特に抗生剤は、細菌感染や炎症などにはとても効果がありますが、一方で、腸内の有用菌まで殺してしまいます。服用は医師の指導のもとで適切に行うことが肝心。ちょっとした不調なら、すぐに薬に頼らず、まずは食事や生活習慣を改善して、健康維持に努めましょう」
次回、第5回は、気になるあなたの免疫力をチェック!
監修/奥村 康さん(おくむらこう・医学博士)
順天堂大学医学部免疫学特任教授。アトピー疾患研究センター長。スタンフォード大学リサーチフェロー、東京大学医学部講師、順天堂大学医学部教授、同大学医学部長などを経て、現職。免疫学の国際的権威である。著書多数。
イラスト/しおたまこ グラフ作成/ビーワークス 取材・文/山村浩子