美と健康のために食事に気をつけている人が増えている一方、実は「食物繊維が不足している」という残念な調査結果が! それはいったいなぜ? 新たな知見も増えてきた今、第6の栄養素ともいわれる食物繊維のことを正しく知って、必要なものを効率よく摂取しましょう。
お話を伺ったのは
青江誠一郎さん
Seiichiro Aoe
大妻女子大学家政学部 食物学科教授。日本食物繊維学会理事長。雪印乳業技術研究所研究員などを経て現職。近著に『最強! 毒出しごはん』(河出書房新社)
食物繊維の不足は穀類離れが大きな原因
厚生労働省の調べによると、日本人の食物繊維の摂取量は、約60年前と比べて激減しています。
「背景にあるのは、食の欧米化が進んだこと。また、昨今の糖質制限ダイエットのブームで、穀類の摂取量が減ったことも原因と考えられます」(青江誠一郎先生)
食物繊維が豊富な食材というと野菜のイメージですが、「実は穀類のほうが豊富で、主食として食べると一度にたくさんとれるので、効率がいいことも利点です」。
食物繊維は消化酵素で消化されないため、以前は不要なものと考えられていました。しかし、現在では大きくふたつの働きが明らかになり、第6の栄養素として、その重要性が注目されています。
「ひとつは、便量を増やし、腸壁を刺激して毒素の排出を促す働き。もうひとつは、腸内細菌のエサになって短鎖脂肪酸を産生し、腸内環境を整える働き。その結果、免疫力を強化するなど、食物繊維は美容や健康の増進に大いに役立っているのです」
日本人の食物繊維は足りていない!
食物繊維の1日の摂取量は1955年には約22.5gでしたが、2015年には14.5gにまで減少(厚生労働省平成27年「国民健康・栄養調査」より)。
その要因と考えられているのが、穀類の摂取量の減少です。下の食物繊維の摂取量の推移グラフでもわかるように、緑黄色野菜や果物はそれほど変わっていませんが、穀類は約7gも減少しています。
「食生活の欧米化などによる、米をはじめとした穀類離れが背景にあると思われます」
食物繊維の摂取量の推移
いも類などあまり変わっていない食材もありますが、減少が顕著なのは穀類です
食物繊維は吸収されないのに実は働き者!
食物繊維は人の消化酵素で消化しにくく、小腸を通って大腸まで達する成分で、現在は第6の栄養素と考えられています。ごぼうなどの筋っぽい繊維質から、海藻のようなネバネバしたぬめりの成分、水に溶けてゲル状になるものなど多くの種類があり、それぞれ性質や働きが異なります。
「特に注目してほしいのは、『水溶性食物繊維』と『不溶性食物繊維』、そして食物繊維と同じように働く難消化性デンプン『レジスタントスターチ』です。これらをバランスよく摂取することで、美容や健康の増進効果がさらに期待できます」
日本食物繊維学会では食物繊維と同じような働きをするものを、「ルミナコイド」と定義しています。特に注目したいのが★印の3つ!
食物繊維による健康効果も見逃せない!
食物繊維はその種類により、さまざまな働きをします。小腸では余分な糖質や脂質などの吸収を抑え、大腸では便のカサを増やし、ぜん動運動を促して不要物を排出。便秘の改善は美肌や肥満解消につながります。
また、腸内細菌のエサになり、短鎖脂肪酸を産生することで腸内環境が整い、そのいい影響は全身に及びます。「生活習慣病やがん、認知症の予防、うつ症状の改善に役立つことも報告されています」
「腸内の掃除」をし、また腸内細菌のエサになる働きをする食物繊維。その効果は肌から内臓、脳にまで及びます
イラスト/斎藤直樹(ベリーマッチデザイン) 取材・原文/山村浩子