前回の、大人の目に起こりがち「黄斑前(上)膜」とは?/目の病気⑤とおなじ黄斑部で起こる病気ですが、失明することもある「加齢黄斑変性」について、眼科医の板谷正紀先生にお話を伺いました。
お話を伺ったのは
板谷正紀さん
Masanori Hangai
眼科医、医学博士。医療法人クラルス理事長、板谷アイクリニック銀座院長。硝子体手術と緑内障手術のエキスパート。
加齢黄斑変性
物が歪んで見え、失明することもある病気
網膜の中でも、視力を司る重要な働きをしているのが黄斑部です。ここが加齢などにより変性するのが、加齢黄斑変性です。欧米ではつねに中途失明の原因の上位で、日本でも近年増加しています。
「黄斑部は光が集まる部分で酸素を大量に消費しています。そのためつねに高い酸化ストレスにさらされていて、その害から目を守っているのが、網膜の土台である網膜色素上皮細胞と脈絡膜の毛細血管です。この土台が加齢により弱り、黄斑が傷つくのが加齢黄斑変性で、物が歪んで見えたり、視野の真ん中が見えなくなるのがおもな症状です」
黄斑を傷つけるメカニズムには、本来存在しない血管が発生する「滲出型」と、網膜色素上皮細胞やその周辺組織が傷む「萎縮型」のふたつのタイプがあると板谷正紀先生。
「滲出型は症状が急に進むのが特徴で、最近は薬(抗VEGF薬)などでコントロールできるようになりました。一方、萎縮型はゆっくり視細胞が失われていき、まだ有効な治療法がありません。生活習慣の改善、抗酸化サプリメントなどの予防的治療で進行スピードを抑えていきます」
正常な黄斑部
網膜の土台を支えているのが網膜色素上皮細胞。その下に毛細血管が走り、網膜に酸素や栄養を供給しています。
滲出(しんしゅつ)型の加齢黄斑変性
脈絡膜の毛細血管から、本来ない新生血管が増殖して、これが出血や滲出することで起こります。
委縮型の加齢黄斑変性
網膜色素上皮細胞や周辺の組織が委縮し、10~20年かけて徐々に黄斑部の視細胞が死滅していきます。
硝子体(しょうしたい)
眼球内を満たす透明なゼリー状の物質で、眼球の形を保ち、入ってくる光を通す役割が。
網膜(もうまく)
眼底に広がる薄い膜で、光や色を感じ取る神経細胞が集まっています。
黄斑部(おうはんぶ)
網膜の中心にある視細胞が集中している部分で、物を見るピントを合わせるところ。
中心窩(ちゅうしんか)
黄斑部の中心にあるくぼみ部分で、最も高精度な視覚があります。
硝子体、網膜、黄斑部、中心窩のほか、代表的な目の病気に関係する部位の説明は、あなたの症状はどれ? 40歳を過ぎたら注意すべき目の病気は?/ 目の病気①をご参照ください。
イラスト/いいあい<イメージ> コタケマイ(asterisk-agency)<解剖図> 構成・原文/山村浩子