【教えていただいた方】
東京女子医科大学卒業。医療法人 淳信会 ホリスティキュア メディカルクリニック院長。米国コロラド州NTI認定栄養コンサルタント。米国PHYTOMEDIC LABS認定栄養&酵素セラピスト。産業医。 2014年、米国ベストドクターズ社日本支部から「医師が自分自身や家族が病気になった場合受診したいベストの医師」として、Best Doctors in Japanに選出される。
♦糖や脂質の代謝に関与する「マグネシウム」
更年期と言われる世代になると、「痩せにくく、太りやすい体になる」とよく言われます。
その理由は、「女性ホルモンの減少の影響」とか「基礎代謝が落ちるから」など、いろいろありますが、いずれにしても、基本的に「食事」は肥満に大きく関わる要素です。
(イメージphoto/Thought Catalog on Unsplash)
一般に言われているような、高カロリー・高糖質はもちろん肥満を招く大きな原因ですが、これらに加えて、太りやすい食事の要因として、「マグネシウム不足」が考えられます。太っている人の中でも、特に内臓脂肪の多い人にその傾向が強いようです。
マグネシウムとは、カルシウムやナトリウムと並ぶ、必須ミネラルのひとつ。
体内のマグネシウムの約60%は骨や歯に、それ以外は筋肉や脳、神経に存在し、骨や歯を作ったり、神経の伝達や筋肉の収縮を手伝ったり、体温や血圧をコントロールしたり…。
身体機能のバランス調整に深く関わっているミネラルです。
また、300種類以上の酵素を活性化させ、体内のさまざまな代謝や化学反応をサポートします。
さて、マグネシウム不足がなぜ、肥満につながるか…。
それは、エネルギー代謝に関わっているからです。
マグネシウムは、アデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれる、体内のエネルギー源として必要な成分を作るのに必要なミネラルです。
ATPはエネルギーに関する体内のすべての行程に必要な物質です。体内のグルコース(糖)からエネルギーを生産するのにも関与しますので、ATPの働きが弱いと太りやすくなってしまいます。
また、マグネシウムが不足すると、脂質を分解する酵素の働きが鈍くなり、中性脂肪の増加や善玉のHDLコレステロールの減少につながり、内臓脂肪の増加、脂質異常を引き起こす原因のひとつとなります。
♦血糖値を抑えるインスリンの働きをサポート
糖質のとりすぎにより、血液中に余分な糖があふれた状態、すなわち高血糖も肥満の原因として挙げられます。
人間の体は、高血糖になると、血糖を下げるホルモンであるインスリンを分泌します。
インスリンは、血中のブドウ糖を細胞に取り込んでエネルギーに変換する働きをサポートし、血液中の糖をコントロールします。
マグネシウムは、こうしたインスリンの働きにも関与しています。
最近はさまざまな研究で、マグネシウムが不足すると、インスリンの働きが悪くなることがわかってきました。
インスリンがうまく働かず、ブドウ糖が血中にあふれた高血糖状態が続くと、やがては糖尿病につながる恐れがあります。
なお、メタボリックシンドローム(通称メタボ)とは、腹部肥満(内臓肥満)に加えて、高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい状態を指します(日本の診断基準では、高血圧・高血糖・脂質代謝異常のうちふたつ以上が見られると状態をメタボと言います)。
マグネシウム不足は、脂質代謝異常、および高血糖につながることから、メタボ予防にもマグネシウムの不足の改善が重要だと考えられます。
♦未精製の穀物、大豆、海藻、魚介を意識して
厚生労働省による「令和元年 国民健康・栄養調査報告の概要」によると、50代の女性が1日に摂取しているマグネシウムの量(平均値)は233mg。
これに対して、「日本人の食事摂取基準 2020年版」で示されている30~64歳女性の1日の推奨量は290mg。
1日におよそ60mgのマグネシウムが不足していることになります。
以前は、「通常の食生活を送っていればマグネシウム不足になることはない」と言われていましたが、現代の日本人はマグネシウム不足。その原因に、食生活の変化が考えられます。
マグネシウムは、玄米や麦、雑穀などの精製度の低い穀物、大豆、海藻類、魚類などに多く含まれています。
近年はこうした食品を多く使用した「和食」を食べる機会が減っていることが、マグネシウム不足の原因のひとつと考えられます。
不足しないよう気をつけましょう。
また、塩も「粗塩」にはマグネシウムが多く含まれています。
一方、「精製塩」は塩化ナトリウムが99%の高純度の塩。マグネシウムも取り除かれています。
できれば、塩は粗塩を使用したほうがマグネシウム摂取にベターです。
〈マグネシウムを多く含む食品〉
・精製度の低い穀類(玄米、大麦、雑穀)
・大豆食品(豆腐、油揚げ、納豆、枝豆、きな粉)
・海藻類(ひじき、昆布、わかめ、青のり)
・ナッツ類(アーモンド、ピーナッツ、カシューナッツ、胡麻、チアシード)
・そば
・ココア
・干しエビ
マグネシウムは、大豆や海藻類などから取りやすい栄養素です。また、ナッツ類にも含まれているので、おやつにナッツをつまむ、ご飯に胡麻をふりかけるなどして、毎日、毎食、ちょい足しをするのがおすすめです。
[取材後、担当編集者も晩酌のおつまみをマグネシウムが摂れるものにするよう心がけてみました。上の写真はある晩のおつまみの一例。ひじきの煮物、ミックスナッツ、わかめときゅうりの酢の物、冷ややっこ(おぼろ豆腐)。どれもスーパーやコンビニで手軽に買えるものばかり。市販のものを上手に活用し、必要なミネラルを摂り入れたい]
♦マグネシウムをサプリでとるときは成分量のチェックを!
またストレスも要注意
アルコール、糖質、脂肪の代謝にマグネシウムを使用するため、これらの摂りすぎによりマグネシウム不足になる恐れがあります。
また加工食品や清涼飲料水に含まれるリンの多量摂取もマグネシウムの吸収の妨げに。
タンパク質不足(1日30g未満)もマグネシウムの吸収スピードを遅くする要因になりますので注意しましょう。
そのほか、ストレスもマグネシウム不足を引き起こす原因に。
マグネシウムは「抗ストレスミネラル」ともいわれ、精神を落ち着かせてくれる働きをしますが、ストレスがかかることで体内のマグネシウムは減少してしまいます。
精神的なストレスのほか、激しいスポーツや重労働など、肉体的ストレスもマグネシウムの消耗につながります。
マグネシウムは、カルシウムとペアになって、体のさまざまな機能のバランスを保つ働きをします。
そのため、このふたつのミネラルは、バランスよく摂取することが大切。
カルシウムとマグネシウムの摂取比率は2:1が理想といわれます。
カルシウムを過剰摂取してしまうと、マグネシウムの働きが悪くなることがあるので、カルシウムのサプリメントをとる場合は成分の量をチェックして。
専門家に相談するのがベストです。
取材・文/瀬戸由美子