糖質は、アルコールと一緒にとると血糖値の上昇が抑えられる
糖質を大量にとると太るというのは周知の事実です。それでは、アルコールは太るのでしょうか?
「食事などで糖質をとると、血糖値が上がります。すると、その血糖値を下げようと膵臓からインスリンが分泌されます。このインスリンは血中の糖分を脂肪に変換して体にため込む働きがあります。それが太る理由です。
特に、血糖値が急激に上がって下がると、脂肪をため込みやすくなるので、急上昇させずに、できるだけ緩やかにすることが、肥満予防をはじめ、生活習慣病の予防のためにも大切です」(青木晃先生)
以前に「飲酒で血糖値が上がる」と聞いたことがありますが…。
「1990年代頃には、そのように漠然と言われていました。しかし、2007年にオーストラリアの研究により、ビール、白ワイン、ジン、水でお酒と血糖値の関係を検証したところ、次のような結果が発表されたのです」
その実験とは、これらの飲み物と①同時に6枚切りの食パンを3枚食べた場合と、②飲んだ1時間後にマッシュポテトを食べた場合の、血糖値の上昇の様子を観察するというもの。
その結果、水と比べて、いずれのお酒でも血糖値の上昇を抑えることがわかったのです。
出典/Am J Clin Nutr. 2007;85(6):1545-1551
中でも、食パンと同時の場合は白ワインが、1時間後にマッシュポテト食べた場合はビールが、最も血糖値の上昇を抑えました。
「それはどうしてか? 考えられているのは、飲酒によりそのアルコールを分解する過程で消費されるNADが関与しているというものです。
NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とはNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)から作られる酵素で、NADが減ると肝臓での糖新生が抑制されることが知られています。飲酒によりNADが減るため、糖新生が抑えられて、血糖値の上昇が抑制されるというわけです」
これは、お酒好きにはちょっとうれしい報告です♪
「確かにお酒は血糖値を積極的に上げるものではないことがわかりました。しかしながら、もちろん“適量”であることを忘れてはいけません(笑)」
なので、糖尿病の人でも、飲むなら糖質の少ない辛口の白ワインなら量を調整すればOKかも? 種類を選ぶなどして、お酒と上手に付き合うことが大切のようです。
お酒にもカロリーがあり、飲みすぎれば太ります!
よくお酒は「エンプティカロリー」なので太らない…と思っている人も少なくありません。それは本当なのでしょうか?
「エンプティカロリーというのはカロリーがないという意味ではありません。栄養素がないことで、カロリーはあります。ただし、お酒に含まれる純アルコールのカロリーは、アルコール代謝で約70%は消費されてしまいます。よって、同じカロリーの脂肪や糖質をとったときよりも、太りにくいとは言えます。
カロリーオフの落とし穴
それでは、昨今はやりのカロリーオフのお酒なら太らないですよね?
「実はそうとは限りません。カロリーオフといっても実際は完全にゼロkcalではないからです。まず前提として、酒の定義ではアルコール(エタノール)が1度(1%)以上含まれていなくてはなりません」
その上で、各表記の国が定めた基準値を見てみましょう。
●カロリーゼロ:100mℓ当たりのエネルギーが5kcal未満であること。
●カロリーオフ:100mℓ当たりのエネルギーが20kcal以下であること。
●糖質ゼロ :100mℓ当たりの糖質が0.5g未満であること。
●糖質オフ :100mℓ当たりの糖質が2.5g以下であること。
●プリン体ゼロ:100mℓ当たりのプリン体が0.5mg未満であること。
「例えば、カロリーゼロは100mℓ当たり5kcal未満を指すので、350mℓ缶の場合、17kcalでも『カロリーゼロ』を表示できるわけです。特にビール(発泡酒含む)の場合、カロリーオフの表示が多く、すると350mℓ缶で70kcal、500mℓ缶なら100kcal近くあることになります。
つまり、カロリーゼロ、糖質ゼロと表記されていても、実際はゼロではないので、飲みすぎれば太ることになります。
また、カロリーを抑えるために人工甘味料を使っているものも、膵臓からのインスリンの分泌が促進されることがあります。そうすると血糖値が下がり、空腹感が増して、つい飲みすぎ&食べすぎにつながることもあります。
しかしながら、通常のものに比べればカロリーも糖質も抑えられているわけですから、同じ量なら太りにくいかもしれません。
最近の糖質オフのビール(発泡酒)は醸造方法の工夫によって、糖質を減らすことに成功していて、味もライトではありますが、おいしく飲めるのでよいのではないでしょうか」
世界各国で、さまざまな『酒と肥満に関する研究』がされています。その結果、やはり『過度の飲酒はおおむね体重増加につながる』というのが結論のようです。
「一緒にとる食事やつまみには、糖質や脂質をとりすぎないように工夫しながら、適量を上手に楽しみましょう」
【教えていただいた方】
医療法人晃和会「ウェルエイジングクリニック南青山」理事長。元・順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座准教授。日本健康医療学会常任理事、日本抗加齢医学会評議員など歴任。日本のアンチエイジング医学の第一人者。ソムリエ、ワインエキスパート・エクセレンス、SAKE DIPLOMAの資格を持ち、ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン渋谷校」の校長も務める。医療監修を担当した『美しい女は呑んでいる』(主婦と生活社)が好評。
取材・文/山村浩子