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認知症の人に何度も同じことを聞かれたら、どう答えればいい?

認知症になるとさまざまな症状が見られるようになります。そんな認知症の人の脳の中はどうなっているのでしょうか? そして、それにどのように対処したらいいでしょうか? 認知症専門医、「メモリーケアクリニック湘南」院長の内門大丈先生に伺いました。

認知症の人は新しいことを記憶するのが苦手

(注)以下、特別な注意書きがない場合は認知症=アルツハイマー型認知症とします。

 

認知症の第一段階に現れる症状が、もの忘れ=「記憶力の低下」でしょう。「今日は何曜日?」「月曜日ですよ!」という会話の後、また数分で同じことを聞いてくることがあります。

 

「認知症の患者さんの症状には、よく短期記憶力の低下が見られます。短期記憶を司るのは脳の中の『海馬』という部位です。海馬は側頭葉の奥にある大脳辺縁系にあります。ここの神経細胞に障害が発生すると、最近あったことを記憶できなくなります」(内門大丈先生)

 

誰でも老化によって、若い頃よりも記憶力が低下します。しかしそのような老化によるものと、認知症によるものでは違いがあるといいます。

 

「それは、ほんの数分前のことを忘れたり、体験したこと自体を忘れてしまう点です。よくいわれているのが、今日食べた朝食の内容を忘れるのは老化によるもの忘れ。一方で、食べたこと自体を忘れてしまうのが認知症…というものです」

 

 

記憶には3ステップあると内門先生。

 

ステップ①では新しい情報を記銘(記憶)=脳のタンスの引き出しにしまいます。

ステップ②ではそれを保持引き出しを閉めて保管します。

ステップ③では保持されていた記憶を想起(思い出す=引き出しを開けて取り出します。

 

単なる老化によるもの忘れは③の、しまってあるがスムーズに取り出せない(思い出せない)状態です。この場合、思い出すのに時間がかかるものの、何かのヒントがあったり、ひょんなタイミングで思い出したりします。

 

しかし、認知症の場合は①、そもそも記銘(記憶)することができていないのです。ですから、その体験は“なかったこと”になっています。

 

 

「さっきも言ったでしょ!」はNG!

ではそんなとき、まわりの家族はどのように対応したらいいでしょうか?

 

「何度も同じことを聞かれると、1回2回は同じように答えていても、それが度重なるとつい、『さっきも言ったでしょ!』と声を荒らげてしまいがちです。

 

でも、本人には悪気はなく、そもそもその記憶がないわけなので、家族に強く指摘されたり叱られることで、悲しさやつらい気持ちでいっぱいになってしまいます。

認知症4回 サムネ

 

そうすると、怒られるのを避けるために、自分の殻に閉じこもって、会話を控えるなどして孤立していきます。また、家族もどうせ話してもすぐ忘れてしまうのだからと、家族の会話から外してのけ者にしたり、ダメ人間扱いをしてしまうことも。これも孤立につながります。

 

これが続くと、本人は不安や恐怖、混乱によって、うつ状態になってしまうこともあります。

 

このような状態になると認知機能はもっと低下していきます。つまり、もの忘れを指摘したり、故意に『今日は何曜日?』と試すようなことは、なんの治療効果もないばかりか、むしろ逆効果になるわけです」

 

特に初期の場合、家族はその変化を受け入れられずに困惑します。そこでつい、それが何かの間違いであってほしい、少しでもしっかりしてほしいと思うがゆえに、試すようなことをしがちです。しかし、それ以上に本人も困惑していることを知っておくといいかもしれません。

 

何度同じことを質問されても、何度でもにこやかに答えてあげるのが正解! 「わからなくても大丈夫なんだ。怒られないんだ」と思うことが安心感につながり、症状の悪化を少しでも防ぐことができるかもしれません。症状の悪化が防げなくても、心安らかに楽しく生活できることは間違いありません。

 

「認知機能が低下している方でも、“気になること”は覚えられるようです。特に顔の表情は印象に残りやすいので、にこやかに答えることが重要です。またイヤなことをされた人のことも覚えている傾向があります」

 

対処方法として、例えば食事をしたことを忘れていたら、代わりに体の負担にならないおやつを出してみる。つまり忘れることを利用する、という方法もあります。

 

 

人は人によって傷つき、人で癒されます

このように、一番にすべきことは「当事者の孤立を防ぐこと」だと内門先生。

 

「実際に、ある90歳の女性ですが、認知症になりほぼ引きこもりのような生活をしていました。それが娘さんに連れられてクリニックに来て、薬物療法を開始し、同時にデイサービスや訪問介護のリハビリを行うようにしました。

 

すると徐々に笑顔が戻ってきました。記憶障害が治ったわけではありませんが、気力が戻り、生活に楽しさを感じられるようになっていきました。

 

人は人によって傷つきますが、癒してくれるのも人なのです。それを医療の現場にいると、よく感じます。そんなときは私はよく人薬(ひとぐすり)を使いましょうと提案します」

 

誰もが認知症になる可能性があります。「自分が当事者だったら…」という視点で向き合えるといいですね。

 

 

【教えていただいた方】

内門大丈
内門大丈さん
認知症専門医
公式サイトを見る

(うちかど ひろたけ) 医療法人社団 彰耀会理事長。「メモリーケアクリニック湘南」院長。 横浜市立大学医学部を卒業後、同大大学院博士課程(精神医学専攻)を修了。横浜での病院勤務、「湘南いなほクリニック」院長を経て、2022年より現職。認知症の人の在宅医療を推進し、認知症に関する啓発活動や地域コミュニティの活性化に取り組む。『家族で「軽度の認知症」の進行を少しでも遅らせる本』(大和出版)など著書多数。

 

イラスト/東 千夏 取材・文/山村浩子

 

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