認知症と聞くと、親世代の心配をしつつも、自分もいつかなるかもしれないと不安になることはありませんか? そんな不安を相談したり、認知症予防のためにできることを教わることができる「健脳カフェ」で認知症最前線を学ぶセミナーがあると聞き、参加しました。
セミナーには、認知症治療の第一人者である新井平伊先生と、認知症の母親と生活をともにしている、にしおかすみこさんが登壇されました。まず最初は、認知症予防・治療の最前線について、新井先生がお話されました。
アルツハイマー型認知症を防ぐには、下記の三つの段階がある、と新井先生は話します。
一次予防⇒発症させない
二次予防⇒発症を遅らせる
三次予防⇒発症後進行を遅らせる
「残念ながら、一次予防の“発症させない”ことは現代の医学ではまだできません。発症した後の三次予防の治療の手立てはあるものの、間の二次予防について今まではあまり対策がされていない状態でした」(新井先生)。
そこで二次予防を何とかしていこうと活動しているのが、「健脳カフェ」なのだそう。二次予防、つまり発症をできるだけ遅らせるためにできることにはどんなことがあるのでしょうか。
◆認知症予防のための4つのポイント
認知症を予防するためには、大まかに考えて次の4つが柱になる、と新井先生は話します。
・生活習慣の改善
・薬物療法
・腸内環境の改善
・音の波による神経細胞の刺激
どんなものなのかをそれぞれご説明いただきました。
【1】生活習慣の改善
「2019年にWHOが、認知症になる前に気を付けたい12項目のガイドラインを出しています」(新井先生)。なかでも特に「適度な身体活動」「禁煙」「適正飲酒」「栄養バランスのとれた食事」が効果的な予防策とされています。
【2】薬物療法
アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβという脳内で作られるたんぱく質の一種が脳に蓄積することで起こる、という説が主流です。
最近では、このアミロイドβを除去し、進行を抑制する効果が期待される「レカネマブ」という新薬の開発が発表されました。厚労省も製造販売を正式に承認し、今後公的医療保険の適用対象となって年内にも使えるようになる見通しというニュースも入ってきています。
「新薬を使うと、今までの薬よりももっとゆっくり症状が進みます。今は軽度認知症の方に使える薬ですが、もし将来この薬をもっと早い段階で使えるようになったら、もしかしたら発症しないで済むかもしれないですね」(新井先生)。
【3】腸内環境の改善
ストレスがあるとお腹が痛くなるといった、脳と腸がお互いに密接に影響を及ぼし合うことを示す「脳腸相関」。逆に、腸が病原菌に感染すると脳で不安感が増すなど、腸の状態が脳の機能にも影響を及ぼすとされています。
そこで注目されているのが、ビフィズス菌MCC1274。これを摂取すると酢酸などの代謝産物が腸から吸収され、脳内の炎症反応を抑制することで認知機能が改善すると考えられています。MCC1274を用いたサプリは、「唯一国際的に認められ、エビデンスがあるものです」(新井先生)とのことで、こちらも上手に活用することが大切なようです。
【4】音の波による神経細胞の刺激
「研究で、目や耳からの刺激で、脳の神経細胞が動き出すことが発見されています。アミロイドβの排出を促す細胞が活性化されることで、アミロイドβを減らすことができるのではと期待されています」(新井先生)
中でも注目なのが、40Hzの音のガンマ波サウンド。実験ではこのガンマ波サウンドを聞いて脳を刺激することで、認知機能が改善する可能性を示しており、今後の展開に期待ができそうです。
◆認知症を恐れるだけでなく、しっかりと向きあっていく社会を作っていくことが今後の課題に
次は、新井先生とにしおかさんのトークセッションをスタート。テーマに沿ってお話をいただきました。
まずは、認知症予防で課題と感じることについて伺いました。
「日本はケアスタッフの熱心さは世界でも高レベル。でも、予防は世界レベルに追い付いていないと感じます」(新井先生)。
「私は今48歳で、独身だし社交的でないので、もし認知症になったら孤立してしまいそう。孤独死して誰にも知られないままだったらどうしようかとかネガティブに考えるほうなので、元気なうちに認知症の知識を持って予防したいですね」(にしおかさん)
予防のためにできることの知識を得たり、不安な気持ちを誰かと話したり、相談したり。そういった場所があると確かにいいですよね。それができる場所として、「健脳カフェ」をたちあげた新井先生。
「健脳カフェのように、認知症を予防したい、元気だけれど不安がある方が通える、と居場所があるのはすごくいいですね!欲を言えば、母があまり外に出たがらないので、家から近い場所にあるといいな、と。でもオンラインがあるので、そちらを活用してみたいです」(にしおかさん)
「人間は社会生活、人とのつながりが一番大切なので、健脳カフェで人とつながり合っていくのが予防になっていきます」(新井先生)
健脳カフェのような場所があると、不安な気持ちからどう予防したらいいかというポジティブな気持ちになりますね。ここで、新井先生とにしおかさんに、認知症とこれからの社会に対して期待することを、パネルに書いていただきお話しいただきました。
「誰しも、認知症になったらどうしよう、と怖れる気持ちがあると思います。でも、健脳カフェなどで楽しく交流しながら予防策がとれるようになると、“認知症を迎え撃つ”という気持ちになれますよね。そうやってみんなと一緒になって、社会を構築していけたらいいなと思います」(新井先生)
「認知症の方や、家族など認知症の方に寄りそう側の方のケアももちろんですが、まだ元気で予防することでずっと元気でいられる人の幅が広ることこそ、社会を明るくすることにつながると思うんですよ。だから、元気でいられる人に対するケア方法や施設がもっともっと充実するといいなと思います」(にしおかさん)
◆健脳カフェの認知症予防プログラムを体験!
最後に、にしおかさんが健脳カフェの認知症予防プログラムを体験しました。健脳カフェは運動、栄養相談、対話、レクリエーションなどができますが、その中から手軽にできる運動の「ラクティブ」、最新技術で脳を刺激する「ガンマ波サウンドルーム」、コミュニケーションをとりながら楽しめる「卓球」を行いました。
・ラクティブ
筋力向上のための簡単な運動プログラム。体力に自信がない人でも無理なく参加できる内容で、座りながらできる運動も多く、年齢を問わず楽しみながら体を動かせます。
にしおかさんは、普段健脳カフェを利用されている方と一緒にインストラクターさんから動きを教わり体験。「じんわりときいてくる動きですね!」と体を動かす充実感を得ながらアクティブに動いていました。「できない動きもあるけれど、みなさんとできるのがいいですね」(にしおかさん)。
・ガンマ波サウンドルーム
ガンマ波変調技術が搭載されているスピーカーの「ガンマ波サウンド」を体験できる部屋で、新井先生とにしおかさんが体験。はたから見ると、普通にテレビを見ているだけのようですが、実はその中にガンマ波サウンドが含まれています。周りで聞いていても、全く違和感がありませんでした。
「ガンマ派サウンドは強いモードで少し気づく人もいますが、慣れればほとんど気になりません」(新井先生)「全然わからないですね! 母も治療というと身構えてしまうけれど、これなら自然に取り入れて予防できそうです」とにしおかさんも興味津々でした。
・卓球
にしおかさんが卓球を体験。ゆるやかに打ち合い楽しみながらできるので、普段利用されている方にも人気なのだそう。にしおかさんも、「ラリーを続けるのは難しいですね!」と言いながらも、楽しそうに試合をしていました。
プログラムをいくつか体験したにしおかさんは、「楽しみながら体も脳も動かせるというのはいいですね! いろいろなプログラムを組み合わせると良さそう。こういう健脳カフェが広がってほしいです!」と良さを実感した様子でした。
いつ誰が発症するか予想がつかない認知症ですが、日常に取り入れられることで楽しみながら予防するというのは、無理なく続けられそうでいいですね。怖れすぎず、できることから取り入れてみてはいかがでしょうか。
◆資料提供/健脳カフェ
取材・文/倉澤真由美