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認知症による妄想や幻覚。よく起こる事例とその対処法は?

話を聞いていると、どうもそれは作り話? 鏡や人形に話しかける。そんな被害妄想や幻覚の症状が現れると、家族もかなりうろたえてしまいます。そんなときの対処法を、認知症専門医、「メモリーケアクリニック湘南」院長の内門大丈先生に伺いました。

妄想は不安やつらさから身を守る手段かも!?

「認知症の症状としてよくあるのが、『財布がない。あなた盗んだでしょ?』と、家族を疑うようなことを言い出す、近所の人に『お嫁さんが意地悪をする』と言いつける、『浮気したでしょ!』と責め立てるといった、被害妄想や作り話をすることです。

 

このベースにある原因は記憶障害や寂しさです。置き場所を忘れたことを認めたくない気持ちや不安、ありもしないことを言い出すのも、抜け落ちた記憶のつじつまを合わせることが生み出した被害妄想の可能性があります」(内門大丈先生)

 

「認知症の人は直前のことをよく忘れます。今日は何日か何度も聞いたり、ごはんを食べたことを忘れることもあります。そもそも、新しいことを記憶することができないので、これらも本人にとっては真実なのです。

 

作り話をして、自らの失敗を家族や他人のせいにすることがありますが、これも抜け落ちた記憶を、イメージや思い込みで補おうとしている行動です。ある意味、噓は誰もが持つ自己防衛本能といえます。

 

特に義母・嫁という立場だと、険悪なムードになることもありそうです。疑われたら誰でもいい気持ちはしませんが、真に受けずに、病気によるものだという冷静な対応が必要です。

 

存在しないものが見える「幻覚(幻視)」は、脳の視覚を司る部分の障害が原因です。

また、せん妄でも起こりやすくなります。せん妄とは認知症とは関係なく、脱水症状や薬の副作用などによる一時的な意識障害のこと。夕方から夜にかけて症状が悪化する傾向があります。

このせん妄の場合は数日~数週間で改善することが多いのですが、すでに脳の老化が始まっていることには変わりないので、健康管理に気をつけてください。

 

幻覚が生じてあまり混乱するようなら、血管性やレビー小体型の認知症※の疑いも。この場合は適切な治療で幻覚の症状は回復できるので、専門医に相談をしてください」

 

※レビー小体型認知症ではレビー小体というタンパク質が蓄積されて、脳の海馬や側頭葉が萎縮します。後頭葉の血流低下がみられることもあります。60~70歳に起こりやすく、約8割の人に幻覚があらわれ、ほかに、震えや動作がぎこちなくなるなどの症状が特徴的です。

 

 

説得するのではなく、本人が納得することが大事

では、妄想や幻覚の症状が出たら、周りの家族はどう対処したらよいのでしょうか?

 

「妄想や幻覚も本人にしたら事実なのです。基本的には否定せず話を合わせることです。それでは具体的によく起こる妄想と幻覚の事例と、それにどう対処したらいいのかみてみましょう」

 

●誰かに財布を取られたと疑う

置き場所を忘れたということを認めたくない気持ちや不安感からかもしれません。疑われたら傷つきますが、そこはぐっとこらえて、まずは「困りましたね」と相手の気持ちに寄り添います。そして一緒に探します。

ただし、疑われている人が見つけてしまうと、「盗まれた」妄想が確信になってしまうので、見つけやすいところに置き、一緒に探すふりをして本人に見つけさせるのがポイントです。

 

●配偶者が浮気をしていると責め立てる

配偶者が外出しただけで浮気していると思い込み、激しく怒り出したりします。これは嫉妬妄想の典型です。認知症の初期に多く見られます。これも不安感や孤独感、寂しさが生むものです。

この対処法で大切なのは、ちゃんと否定することです。しかし感情的になるのは逆効果。あくまでも優しい態度で安心させること日頃から一緒に出かけたり、一人にさせず、仲間と過ごす場をつくり、寂しさを感じさせない工夫が必要です。

 

●お嫁さんが意地悪をすると近所に言いふらす

これも抜け落ちた記憶を補うため、本人なりに納得がいく作り話をします。やはり否定したり責めたりすると、逆にムキになるだけです。

もしも本人がほかの人の悪口を言っても、さりげなく話題を変えて気をそらすようにします。近所の人には、誤解を与えないように、病状について説明しておくといいでしょう。

 

●屋根裏に「蛇がいる」「人がいる」と騒ぎ出す

夜中に突然、「屋根裏に誰かいる」、「蛇が壁を這っている」などと言い出します。異常に怖がったり不安がったりしていなければ、特に問題はありません。

本人にはこれも真実なので、逆に否定されると不安感が増すことも。部屋にできる影がそう見えることもあるので、明るくしたり物を片づけたりしましょう。

怖がって警察に電話しようとしたりするようなら、もちろん止めてなだめて、医師に相談を。薬物治療で改善が期待できます。

 

●肌に寄生虫がいるとかきむしる

「皮膚の中に寄生虫がいて動いている」と言い出した場合も、医師に相談するのがいいでしょう。薬物治療で改善できることもあります。

 

 

「認知症の人を相手にする場合は、『説得するのではなく、本人が納得すること』が重要です。

何を言い出しても否定せず、『お母さんには見えるんだ。すごいね~』などと言って、背中をさすってあげると落ち着く場合もあります。家族が慌てず冷静に対処することが大切です」

 

 

【教えていただいた方】

内門大丈
内門大丈さん
認知症専門医
公式サイトを見る

(うちかど ひろたけ) 医療法人社団 彰耀会理事長。「メモリーケアクリニック湘南」院長。 横浜市立大学医学部を卒業後、同大大学院博士課程(精神医学専攻)を修了。横浜での病院勤務、「湘南いなほクリニック」院長を経て、2022年より現職。認知症の人の在宅医療を推進し、認知症に関する啓発活動や地域コミュニティの活性化に取り組む。『家族で「軽度の認知症」の進行を少しでも遅らせる本』(大和出版)など著書多数。

 

イラスト/東 千夏 取材・文/山村浩子

 

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