指、手、腕の使いすぎはもちろん、冷えがいつしか手指のトラブルを招きます
愛媛県松山市にある「富永ペインクリニック」の院長で麻酔科医の富永喜代先生。
クリニックでは、日本初の「ヘバーデン結節外来」を開設しています。
ヘバーデン結節とは、手指のトラブルの中でも特に、40代、50代の更年期世代の女性に多く見られる病気(詳しくはこの連載の第2回を参照)。
富永ペインクリニックには、ヘバーデン結節をはじめとする手指の痛み、しびれ、変形などに悩む女性が、日本各地から訪れています。
「患者さんの職業は、調理人(特に給食センターなど)、美容師、看護師、掃除人、ジーンズ職人、飲食店の皿洗い担当、スーパーの冷凍食品売り場担当、花屋…などです。
トラブルのおもな原因は手指の使いすぎです。
傾向としては細かい作業、力のいる作業などで手を酷使する人が多いですが、水仕事をする人、体が冷える場所で働く人、重い荷物を持つ人も意外と多いのです。
主婦の方もいます! 主婦だってきつい仕事ですよね。
買い物をして重い荷物を運ばなきゃならないし、水仕事は不可欠だし、重いフライパンを持つなど、手に負担がかかることばかり。
また、結果として指に痛みや変形が出てはいても、手首や腕を酷使したことが原因で、指のトラブルにつながっていることもよくありますね」と富永先生。
先生が言うように、よく考えれば家事にもリスクがいっぱいです。
フライパンを持つ手に力が入らない、レジ袋が手にくい込んで痛い、水に手をつけるのがつらい、包丁を握ると痛む…など、思い当たることはたくさんあります。
つらいことを続けるのは、手指のためによくないと肝に銘じましょう。
また、家事の中で意外に多いのが、掃除機など重いものを持ったり、洗濯物を干す際に腕を肩より高く上げる動作。
これらも腕から手への負担が大きいのだそうです。
家事のちょっとした工夫が、手指の痛み予防に!
「たいていの人は、家事を休むわけにいかないので我慢して続けていますよね。
だから、手指の痛みは、家族にさえもなかなか目を止めてもらえないんです。
病院に行っても『年だから仕方ない』などと言われることが多く、治療がないのだと思い込んで、行き詰まってしまう。
そう、手指の痛みは誰にもわかってもらえず、窮地に追い込まれることが多い痛みなんです!
でも、あきらめないで治しましょう。
手指の痛みには、『10秒神経マッサージ』(詳しくはこの連載の第3回を参照)を行うと効果的。
患者さんなどを見ていると、このマッサージを行うと改善する人が多いので、まずはぜひ試してみてください。
そして日常生活の中でできることは、家事を楽にすること。
手指、腕にも負担をなるべくかけないよう、手を抜けるところは抜く。その工夫をしていきましょう」
富永喜代先生も実践している、手指の負担を減らす家事の工夫とは?
今まで行っていた方法にとらわれず、下記のように少し変えるだけで、手指への負担はだいぶ軽減できます。
●包丁を長時間握って切る
→ピーラーやスライサーを使う。たまにはキッチンばさみも使う。
●硬い野菜を切る
→レンジでチンして柔らかくしておく。カットずみの食材を使う。
●フライパンで食材をあおる
→あおらず、ターナーやへらで混ぜ炒めする。
電子レンジ料理、炊飯器料理、オーブン料理などに調理法を変える。
●食器洗いをする
→つけ置き洗剤を利用してすすぐだけにする。食洗機を購入する。
●冷たい水でお米をとぐ
→水に手をつけず、泡立て器などでとぐ。
●固い瓶のふたを開ける。ペットボトルのキャップを回す。
→キャップを開けやすくするオープナーを使って開ける(100円ショップなどでも売っています)。
●高い位置にある物干し竿に洗濯物を干す
→肩よりも低い位置でピンチハンガーに干し、最後にハンガーごと竿に吊す。
●掃除機をかける
→重量の軽い掃除機を使う。
フローリングはワイパー型シートで、カーペットは粘着クリーナーで掃除する。
●食材などの買い物
→スーパーでは、かごを持たず、カートを利用する。
まとめ買いするときは配送サービスを利用する。
こんなちょっとした工夫でよいなら、今日からできますね!
100均の便利アイテムで、手指がグッと楽に!
ちなみに、富永先生が自分でも実践し、おすすめしているのは、100円ショップの便利アイテムを使うこと。
この企画の担当ライター蓮見(最近ずっと手指の痛みに悩まされています!)が近所の100円ショップで見つけたものを紹介します。
以下、蓮見の感想付きです。
❶水に手をつけずに、お米をといで水をきることができる「なるほど米とぎ」。
冬でも冷たい思いをしないですみますね。
❷いろいろな大きさのふたに対応できるオープナー「ビンオープナー」。
握力が弱い蓮見は、15年以上前から使っていました(でも案外、力は必要…)。
❸テコの原理で楽ちん「瓶オープナー」。
表と裏で4種類のサイズに対応。これは驚くほど簡単に瓶のふたが開いてびっくり〜。
❹包丁を握ると手が痛くなる人は、キッチンばさみを使うのも手。
100円ショップのものでも切れ味はかなりGOOD!
❺約0.3mm ~ 約2.5mmの7段階の厚さでスライスできる「厚み調節スライサー」。
スライド式のつまみを動かすだけなのが便利〜♪
❻キャベツのせん切りには「ワイドピーラー」。
蓮見の家にはもともと、もっと大きなタイプがありますが、とんかつ屋さんみたいに大量のキャベツのせん切りがあっという間にできちゃいます。
皆さんも、このような便利アイテムをたくさん見つけて、手指の負担を少しでもやわらげてくださいね!
撮影/天日恵美子(富永先生) イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/蓮見則子
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。