手指の痛みや変形の治療法はあるはず。
富永喜代先生が「10秒神経マッサージ」や簡単セルフケアの方法を生み出すまで
愛媛県松山市にある「富永ペインクリニック」の院長で麻酔科医の富永喜代先生は、痛み治療のスペシャリストです。
クリニックでは、日本初の「ヘバーデン結節外来」を開設しています。
富永先生によると…
「その昔、整形外科の教科書に、手指の病気に関する記述はとても少なかったんです。
今ようやく知られてきた『ヘバーデン結節』についても、電話帳の厚さほどある教科書の中に、小さなコラムのような感じで1ページあるだけ。
そこには『中年女性に多い原因不明の病気で治療薬なし』と書いてありました。
その後、私は痛み治療の専門家になったんですが、富永ペインクリニックには、他院に行って『リウマチではありませんよ』と言われ、何も治療してもらえなかった患者さんがたくさん来ます。
疼痛(とうつう)を緩和する薬が進化したとはいえ、手指の痛みにはロキソニンやボルタレンなどの鎮痛薬は効きません。
手指の症状は、神経が痛みを訴えている病気だから、慢性疼痛の薬のほうが効くんです。
手指にトラブルが出る人は、血流が悪くなっていることもわかってきたので、温めるとかマッサージが効くはずだ、と想像がついたんです。
治療法は絶対あるはずだと。
そこが、私が手指の悩みに対する治療法を考え出した原点です。
基本は、薬と組み合わせて、セルフケアとして『神経マッサージ』を自宅でやっていただく。
(『10秒神経マッサージ』の詳しい方法は、この連載の第3回を参照)
ライフスタイルを見直して、なるべく手指に負担のかからない工夫やケアをしてもらう。
職業や生活環境によって、できることとできないことがあるから、その人のできる範囲で工夫してもらいたいですね。
アイデアはいっぱいあるんですよ」
手指の痛みに悩むライター蓮見もその効果に驚いた、
「10秒神経マッサージ」を簡単にできる「ゆび関節ローラー」
富永先生が考案した「10秒神経マッサージ」、この企画を担当しているライター蓮見も実は体験ずみです。
蓮見も数カ月前に、ずっとパソコンを打ち続ける作業が続いて手指が痛くなり、そのうちに指の関節が腫れて太くなり…。
「いよいよ私にも来たか」と思っていた頃のことでした。
そんなときに知ったのが、富永先生が開発した便利アイテム。
購入したところ、使って数日で、あっという間に指の腫れが消えていったことに驚きました。
そのアイテムは、「10秒神経マッサージ」が簡単にできる「ゆび関節ローラー」でした。
あまりに感動し、こんな写真付きでSNSに投稿していました。
これは、富永喜代先生の著書『手指の痛み・しびれが消える! 10秒神経マッサージ』( 1320円 永岡書店)。
私のSNSの投稿を見た友人や知人が、「私も指が痛いから買う」「私にも必要だ」「妻に買ってやろう」などとコメントをくれ、優に10人以上は購入してくれました。
手指の痛みに悩む人がそれほど多いんだな、と改めて思ったものです。
「10秒神経マッサージ」の効果を底上げする、家でできるセルフケア
富永先生の「10秒神経マッサージ」はセルフケアの基本ですが、それを後押しするケア法もまだまだありました。
ここからは、また富永先生に解説してもらいます。
「私自身も実践している方法を紹介しましょう。
最初は、神経ポイントとなっている場所をほぐすこと」と先生。
「イラスト左は『脇の下ほぐし』。脇の下の奥をしっかりほぐすと腕の疲れも取れます。
イラスト右は『乳輪マッサージ』。神経線維の末端が集中している乳輪も、実は「神経ポイント」のひとつ。
親指と人差し指でつまみ、乳頭ではなく乳輪を外側へキュッと強めにひねります。
次は、基本中の基本。手指から腕を温めることです」
手や手首はもちろん、ひじから下を冷やさないことです。
冷えやすい人は、たとえ夏でも徹底的に温めましょう。
ひじまでお湯につける、手袋(指なしのミトン型が便利)をつけて眠る、リストバンドをつける…などです。
そして最後は、ハンドマッサージです」
「リラックスしながら、優しくハンドマッサージするのも、手指のトラブルのケアに十分効果があります。
好きな香りやテクスチャーのハンドクリームを使って、ゆったりした気分でマッサージしましょう。
自分をいたわるように、手指、腕、ひじまで優しく優しくね」
──富永先生が教える、日常の中でできるセルフケアのさまざまなアイデア。
手指に悩みを抱えている人はもちろん、まだ問題がない人も、少し違和感を感じ始めた人も、ぜひ実践してみてください。
撮影/天日恵美子(富永先生) イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/蓮見則子
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。