原因の追及(過去)ではなく、今後の対策(未来)に焦点を当てる
例えば、仕事でミスをした部下がいたとします。そんなとき、あなたならどのように叱るでしょうか?
「なぜ、そんな簡単なことができないの?」「社会人としての自覚が足りないのではないか?」「そのミスによってすべてが台無しだわ!」などと、できなかったことを責めたり、人格や能力を否定する、がっかりした気持ちを大げさに表現していませんか?
「大切なのはできなかったことを責めるのではなく、どうすれば同じ過ちを繰り返さずに、できるようになるかです。
できれば相手に解決策を考えてもらうのがいいでしょう。もしも守ってほしいことがあるのであれば、起きてしまった過去ではなく、『今度からは~』というふうに、未来の解決策に焦点を合わせて伝えることが大切です」(安藤俊介さん)
曖昧な表現を避けて、的確に指示を!
そして、やるべきことや締め切りを明確に伝えることも重要です。
「曖昧な程度言葉、『ちゃんと』『しっかり』『すぐに』『なる早で』など、人により基準が違う表現は避けたいところです」
上司「頼んだ書類はまだ?」
部下「今やっています」
上司「なる早でって言ったよね?」
部下「だから今、なる早でやっています」
上司「それでは会議に間に合わないよ」
部下「だったら、〇時までにって言えばいいのに…」(心のつぶやき)
「そんなすれ違いを避けるためには、6W3H(Whenいつ、Whereどこで、Who誰が、Whom誰に、What何を、Whyなぜ、How toどのように、How manyどれだけの数量、How muchいくらで)と、できるだけ具体的に伝えることです」
この書類作成のケースでは、「〇時に会議があるので、その前の〇時までに書類を作成して私に見せて。微調整がすんだら、会議に出席する〇人分のコピーを時間までにとってください」と指示をすれば、受ける側はそれに合わせて進めるでしょう。
すれ違いを避けるには密度より会う頻度
「こうしたすれ違いや、1 の指示で10の結果が出せるようになるには、何より信頼関係が重要です。コロナ禍を経て、リモートでの仕事が増えてきました。そんな中で実際に会ってのコミュニケーションの大切さも見直されています。
ある調査によると、1週間に1 時間の丁寧な話し合いよりも、毎日2~3分のたわいない会話のほうが、ずっと信頼関係が築けて、生産性が上がるというのです。
あのリモートで有名なZoomの会社では、フルリモートワーク会議が禁止されたといいます(笑)。密度よりも会う頻度が大切だというのです」
「私」を主語にすると相手は受け入れやすい
「もうひとつ、『I(アイ)メッセージ』で伝えるという手法があります。これは英語の『I=私』を主語にして相手に伝えるものです」
例えば、ミスをした部下を叱るとき、「あなたは社会人としての自覚が足りない!」と『あなた』を主語にするのではなく、「これだと私が困るんです」と『私』を主語にしたほうが、相手を責めるニュアンスが減り、リクエストが伝わりやすいというもの。
「自分と相手の両方を尊重しながら、具体的なリクエストが伝わりやすいと言われています。しかしながら、これは主語を重視する英語ではわかりやすいのですが、主語を省くことが多い日本語では、必ずしも当てはまらないこともあります」
ご近所やママ友の付き合いは、嫌なら逃げる!
「自分と違う価値観を持つ人と触れ合うことも、自分の許容範囲を広げる意味で、アンガーマネジメントには大切なことです。しかしながら、どうしても付き合うのがつらい場合は逃げることも手段のひとつです。
会う頻度や時間を減らしたり、触れたくない話題を避けて、当たり障りのない会話に終始するなど、付き合い方を変えるといいでしょう。
逃げることは卑怯なことではありません。それにより怒りの感情が減り、心が平穏に過ごせるのなら、その選択肢はありです。
相手が誰であれ共通することは、感情任せに怒りをぶつけたり、相手を打ち負かすことを目標にしないことです。それには、常に落ち着いて、低い声でゆっくりと話すことを心がけるといいでしょう」
【教えていただいた方】
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合う理論と技術をアメリカから導入。教育現場から企業まで幅広く講演、研修、セミナー、コーチングなどを行う。ナショナルアンガーマネジメント協会では世界で15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルの唯一のアジア人。『[図解]アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
イラスト/カケハタリョウ 取材・文/山村浩子