水を飲むときにむせやすい人は要注意!
誤嚥は高齢者のトラブルと思われてしまいがちですが、実は “喉の老化”は40代~50代から始まっています。もし、「水を飲むときにむせやすい」「錠剤が飲み込みにくい」などの自覚がある場合は、“喉の老化”が進んでいるサイン。しかも、食べた物や飲んだ物が食道ではなく、あやまって喉頭に侵入して気管に入ってしまう誤嚥を繰り返すことによって、将来的に誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあるのです。
まずは、あなたの喉が老化していないか、セルフチェックしてみましょう。
「最も簡単にできるのは、水を飲むチェック法です。『ひと口飲んでむせないかどうか』『100mlの水を10秒以内にむせないで飲めるかどうか』を試してみてください。
どちらもクリアできれば、あなたの喉は若々しくて正常な状態。でも、『水を飲むとむせやすい』『水を飲むと咳が出る』『10秒以内に水を飲みきれない』という場合は、“喉の老化”が始まっています」と西山耕一郎先生。
下記の項目も、併せてチェックしてみましょう。この中で、ひとつでも当てはまるものがあれば、喉の老化が進んでいるサインです。
※『水を飲むとむせやすい』と自覚がある人は誤嚥の危険があるので、「水を飲むチェック法」は行わないでください。
【喉の老化 セルフチェック】
食事中にむせたり、咳が出ることがある
水を飲むときにむせることがある
唾液でむせてしまうことがある
上を向いて飲み物をゴクゴクと飲むとむせやすい
以前よりも食べるのが遅くなった
最近、大きめのサプリメントが飲みにくいと感じる
食べ物を飲み込むとき、たまに喉につかえそうなときがある
以前よりも声が小さくなった、または、かすれるようになった
「ごっくん」したときに喉仏が上がりにくい
手の指を当てて、喉仏の動きをチェック!
喉の老化をチェックするには、喉仏の動きを確認するのがおすすめ。まずは、喉仏のあたりに手指を当てて、唾液を飲み込んでみましょう。指を当てて確認すると、わかりやすいですよ。実は私たちが「ごっくん」と飲み込むたびに、喉仏の周囲筋(喉頭挙上筋(こうとうきょじょうきん)群)が持ち上がる仕組みがあるのです。どのくらい上下するかは個人差もあり、一概には言えませんが、喉仏が動かないようであれば、“喉の筋肉”が衰えている可能性が大。
「私たちの喉は、『ごっくん』と飲み込んだ瞬間に『喉頭蓋(こうとうがい)』という、“喉の防波堤”が反射的に気管の入口にある喉頭に蓋をする仕組みがあります。そのおかげで、食べた物や飲んだ物が気管には入らず、食道に送り込まれていくのです」
一方、喉の筋力が衰えて、喉仏が持ち上がらなくなってしまった人、喉仏の位置が若いときよりも下がってしまった人は、「喉頭蓋」が気管の入口に蓋をする反射が鈍ってしまいがち。そのため、食べたものや飲んだものが気管に入り、むせやすい状態に。
そして、喉には「嚥下機能」だけでなく、「声を出す機能」もあります。気管の入口には声帯があり、喉の筋肉のしなやかさを保つことによって、張りのある声を出すことができるのです。
でも、喉の筋肉が衰えると、声が小さくなったり、声がかすれたりすることがあります。すると、コミュニケーションにも影響し、社会参加する楽しさが半減することになりかねません。
さらに、嚥下機能には肺に空気を出し入れする「呼吸機能」も間接的にかかわっています。
「もしも誤嚥しかけたとしても、肺活量がある人なら、上半身を曲げて大きく咳き込むことによって、吐き出すことができます。そうすれば、食べ物や飲み物が気管を通って肺に侵入するのを防ぐことができます。喉筋と呼吸筋の若さを維持していけば、誤嚥性肺炎を予防することにもつながります」
嚥下機能を鍛える“喉の筋トレ”については、連載の後半で改めてご紹介します。
神経系の疾患によって、嚥下機能が衰えるケースも
喉仏を持ち上げる筋肉は加齢とともに衰えていきますが、神経の難病にかかったことが原因でのどの筋力が低下し、嚥下反射に支障をきたすこともあります。例えばパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など。これらは全身の筋肉を動かす神経系の働きの低下を招くことで知られる疾患です。喉の筋肉を動かす神経がダメージを受けることで、嚥下反射が衰えてしまうのです。
また、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血をはじめとした脳血管疾患を起こすと、障害を受けた部位や範囲によって、嚥下にかかわる中枢神経がダメージを受けることがあります。すると、嚥下反射が間に合わずにむせやすくなるなど、誤嚥が発生しやすくなります。
「飲み込むという動作は、いわばバランス運動。一般的に、体力が落ちるとバランスが悪くなって歩けなくなり、飲み込む力が衰えることが知られていますが、寝たきりの人に限らず、車椅子生活になった人も、飲み込む力が衰える傾向があるのです。ですから、40~50代の今のうちから、体力や歩行力を衰えさせないことが重要です」
【教えていただいた方】
医学博士、東海大学医学部客員教授、藤田医科大学医学部客員教授。耳鼻咽喉科頭頸部外科専門医、日本嚥下医学会嚥下相談医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。現在は複数の施設で嚥下外来と手術を行うかたわら、教鞭をとりながら、学会発表や医師向けセミナーを行う。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)、『のどを鍛えて肺炎を防ぐ』(大洋図書)、『誤嚥性肺炎に負けない1回5秒ののどトレ』(宝島社)など多数。
イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/大石久恵