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誤嚥性肺炎とは? 原因と症状、そしてどうして生命にかかわるのかを医師が解説

高齢者の死亡原因として、よく耳にする「誤嚥(ごえん)性肺炎」。誤嚥には“喉の筋力低下”が大きくかかわっているって、ご存じですか。実は、40代、50代にとっても他人事ではないのです。そもそも誤嚥とは、また、誤嚥性肺炎とはどのようなものなのか。耳鼻咽喉科専門医の西山耕一郎先生に伺いました。

【教えていただいた方】

西山耕一郎
西山耕一郎さん
西山耳鼻咽喉科医院院長
公式サイトを見る

東海大学医学部客員教授、藤田医科大学客員教授。耳鼻咽喉科頭頸部外科専門医、日本嚥下医学会嚥下相談医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、医学博士。現在は複数の施設で嚥下外来と手術を行うかたわら、教鞭をとりながら、学会発表や医師向けセミナーを行う。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)など多数。

 

 

嚥下とは? 誤嚥とは?

 

「嚥下(えんげ)」とは、食べ物や飲み物、唾液を飲み込む動作のこと。私たちが「ごっくん」と飲み込むと、瞬間的に喉の筋肉が上下して、口の中の食べ物や水分が食道に送り込まれる仕組みがあります。

 

実は飲み込む瞬間、喉仏の周囲筋が持ち上がって、気管の入口にある喉頭に蓋がされ、食べた物や飲んだ物、唾液が食道に送り込まれるメカニズムがあるのです。この間、わずか0.5~0.8秒というのですから、驚きです。

 

「生まれたばかりの赤ちゃんは誰にも教わらなくても、お母さんの母乳を『ごっくん』と飲むことができます。嚥下は反射運動のひとつ。生まれながらに備わっているすばらしい機能ですが、加齢とともに衰えてしまうのです」と西山耕一郎先生。

 

では、誤嚥はなぜ起こるのでしょうか?

 

「食道と気管は並んでいます。私たちが飲み込むときには脳に信号が送られ、気管の入り口にある喉頭が閉じて、食道が開き、食道に送り込まれる仕組みがあります。ところが、食道にいくはずの食べ物や飲み物、唾液が気管に入ってしまうのが『誤嚥』。気管に蓋がされるタイミングが遅れたり、蓋がしっかりと閉まらないなど、ちょっとしたはずみに食べた物や飲んだ物、唾液が食道にいかず、あやまって喉頭に侵入して、気管に入ってしまうのです。

 

いわば誤作動によって『誤嚥』が起こるわけです。そして、『誤嚥』が原因となって発症するのが『誤嚥性肺炎』です」

 

 

誤嚥性肺炎とはどんなもの?どうして生命にかかわるの?

 

「誤嚥性肺炎」とは、食べた物や飲んだ物、唾液や胃液が侵入して気管から肺に到達し、肺で炎症を引き起こしてしまった状態。咳や黄色っぽい痰、発熱、倦怠感などの症状を伴うのが特徴です。

誤嚥性肺炎の起こる仕組み

 

↑食べた物や飲んだ物、唾液とともに侵入した細菌が肺に到達し、炎症を引き起こしてしまうと「誤嚥性肺炎」に

 

症状が進むとまったく動くことができず、食事もとれずに衰弱し、入院が必要になります。重症化すると呼吸困難を引き起こし、酸素吸入が必要になるケースもあるのです。

 

私たちが吸い込んだ酸素は、気管、気管支を通って、「肺胞」と呼ばれる肺の中の無数の小さな袋にたどり着きます。肺胞では“吸い込んだ酸素”と“体内の二酸化炭素”のガス交換が行われていますが、細菌感染が肺胞にまで及ぶと、ガス交換に支障をきたす恐れがあります。すると低酸素になり、生命維持に危険が及んでしまうのです。

 

「そうはいっても、高齢者の病気でしょう?」と甘く見てはいけません。肺炎と誤嚥性肺炎を合わせると、日本人の死因の第3位(平成30年(2018)厚生労働省「人口動態統計」より)。がんや脳血管疾患、老衰が死因とされる場合も、実際には誤嚥性肺炎を併発して亡くなるケースが少なくありません。

 

どんな人に誤嚥性肺炎のリスクがあるの?

 

西山先生によれば、食べた物や飲んだ物が気管のほうに入ってむせたり、咳き込むのは、異物を外に吐き出そうとする防御反応なのだそう。健康で体力がある人は、誤嚥しかけても咳き込むことによって誤嚥した異物を吐き出し、誤嚥性肺炎の発症をくい止めることができます。しかし、体力が衰えていたり、免疫力が低下していたりすると、気管に入った異物を吐き出すことができず、誤嚥性肺炎を起こす可能性があるのです。

 

「実はコロナ禍以降、高齢者に限らず、『食べたり、飲んだりするときにむせやすくなった』といって受診する人たちが増えています。むせやすくなるのは、飲み込むときに上下する“喉の筋肉”が衰えているサイン。将来的に誤嚥性肺炎の発症リスクがあると考えられます。今回の連載を通して、自分でできる誤嚥性肺炎の予防法をぜひ知っていただきたいと思います」

 

食べ物を喉に詰まらせてしまうのも「誤嚥」?

 

食べ物が喉に詰まり、喉の入口を塞いでいるのは、多くの場合、「誤嚥」ではなく「窒息」です。窒息とは気管の入口に食べ物が引っかかって、塞いでいる状態。気管の入口には声帯があるため、ここに食べ物が引っかかってしまうと声が出せなくなり、しかも呼吸ができずに低酸素に陥る危険が!

 

毎年正月になると、餅を喉に詰まらせて救急搬送される「窒息事故」が後を絶ちません。他人事と思わずに、万一のときの対処法を知っておきましょう。

 

「特に、喉に食べ物を詰まらせたときに絶対にやってはいけないのが水を飲むこと。水が気管に入ってしまったり、喉の入口に引っかかった食べ物が気管に入って誤嚥する危険があるからです」

 

もしも家族が食べ物を喉に詰まらせた場合は、上半身を水平に倒した前屈位で、大きく咳をするように促しましょう。

 

↑喉を詰まらせたら、前かがみになって咳き込んで!

 

立っているのがつらいときには、横向きに寝た姿勢でもOK。本人が自分で咳き込むことができない場合は、背中を叩いてあげてください。これは「背部叩打法(はいぶこうだほう)」と呼ばれる方法。左右の肩甲骨の真ん中を手のひら(手の付け根に近い部分)で力強く連続して叩くことで、喉につかえているものを吐き出しやすくなります。

 

また、座った状態で腹部に圧を加える「ハイムリッヒ法」という方法もあります。

誤嚥_ハイムリッヒ法

 

 

一方の手で握りこぶしを作り、他方の手で包んで、喉を詰まらせた人を後ろから抱きかかえます。手で腹部に圧を加えて横隔膜を押し上げ、胸腔内圧を押し上げて気道を塞いでいる異物を除去します。

 

そして、併せて覚えておきたいのが「喉に異物がつかえて、息ができない」と周囲に知らせるチョークサイン。喉を両手の親指と人差し指でつかむジェスチャーを家族みんなで覚えておきましょう。

 

↑家族みんなで共有しておきたい「チョークサイン」

 

家族が呼びかけに反応することなく、意識を失ってしまった場合は、一刻も早く心肺蘇生をスタートする必要があります。そのためにも、喉に食べ物を詰まらせた時点で迷わず119番通報し、救急車の到着を待つ間に背部叩打法を行うのがポイント。このような知識を前もって知っておくことが、いざというときの助けになります。

 

イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/大石久恵

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