甲状腺の機能が低下することがある橋本病に要注意!
冷えやむくみ、だるくてやる気が起きない…というのは更年期世代によくある不調です。程度にもよりますが、昔から冷え症だからと我慢して、医療機関を受診しない人も多いのではないでしょうか?
「こうした不調の場合、橋本病※1であることがあります。
橋本病は自己免疫疾患のひとつ。甲状腺に慢性的な炎症が起こることで、甲状腺の機能に異常が起こる病気で、慢性甲状腺炎とも言われています。甲状腺は全身の新陳代謝を促進する働きがある甲状腺ホルモンを分泌しています。
橋本病になると、この甲状腺の機能が低下する甲状腺機能低下症に陥ることがあります。そうなると体にさまざまな症状が現れます。しかしながら、低下症になるのは約10%で、軽度の低下症が約20%。約70%は甲状腺機能は正常なままです。
発症する原因やきっかけははっきりわかっていません。罹患の男女比は男性1:女性20~30と圧倒的に女性に多く、特に40代~50代に多発するため、更年期の症状とよく間違われます」(小川真里子先生)
※1 橋本病の名前の由来は九州大学の外科医・橋本策(はかる)博士が、1912年に世界で初めてこの病気の論文をドイツの医学雑誌に発表したため、博士の名前がつけられました。
※甲状腺について詳しくは第1回参照。
ホットフラッシュがなく冷え一辺倒な場合は要注意!
橋本病で甲状腺機能低下症になっている場合は、さまざまな症状が現れます。
【甲状腺機能低下症のおもな症状】
「寒がりで常に体が冷えて汗がかけない、顔や目元がむくみ、首の前側の腫れや不快感、圧迫感が典型的です。ほかに、思考力の低下、脈が少ない、便秘、皮膚の乾燥、筋力低下、月経過多、頭髪や眉毛の脱毛、食欲が低下してたくさん食べていないのに太る…といったことが起こります。
これらが全部出るわけではありません。病状は徐々に進行していくので初期では気づきにくく、健診などで甲状腺の腫れを指摘されたり、更年期だと思って婦人科を受診して、血液検査で判明することもあります。
私の婦人科にいらした方は、体がとにかく冷える、気力が出ずに落ち込みがひどく、月経不順もあったので、更年期だと思って来院されました。
通常の更年期だと、体が冷えたと思ったらカーッと熱くなるホットフラッシュもあるなど、体温が不安定になります。ところがこの方はホットフラッシュがまったくないことに少し疑問に思いました。
そうしたら婦人科の血液検査※2で甲状腺ホルモン値が異常を示したので、内科を紹介したところ、橋本病だったことがわかりました。
※2 婦人科で甲状腺ホルモンの値まで検査するかどうかは、各医療機関によって異なります。気になる場合は、医師にその旨を伝えるとよいでしょう。
内科の専門医での検査と診断は、血液検査、甲状腺の大きさを確認する超音波検査(エコー)、心電図検査などを行って、総合的に判断されます。
治療は甲状腺機能の低下がある場合には、足りない甲状腺ホルモンを補充する薬物療法を行います。甲状腺機能が正常で甲状腺の腫れのみの場合は、程度にもよりますが、経過観察になることが多いと思います。
甲状腺機能低下症を放置すると、血液中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が多い状態が長期続くことで、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患につながりやすくなります。医師のもとでしっかりと治療することが大切です」
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子