エストロゲンが減ると血管にも変化が起きます!
更年期に差しかかって、頭痛が起きるようになった…そんな人は少なくないのではないでしょうか?
「よくあるのが、頭の片側が波打つようにズキズキ痛み、光や音に敏感になる『片頭痛』や、頭全体を締めつけられるように痛む『緊張型頭痛』があります。これらは20代~30代から発症する人もいます。
実は、更年期の女性にこうした頭痛がよくみられる原因は、はっきりわかっていません。
一方で、片頭痛に関してはエストロゲンとの関連が考えられています。エストロゲンが変動することにより、脳の神経系における炎症性の物質が変化すること、エストロゲンレベルの低下がさまざまな頭痛と関連する物質に関与している可能性が示されています」(小川真里子先生)
ところが、エストロゲンの減少による血管への影響はそれだけではない、と小川先生。
「血管の柔軟性が低下して、拡張がうまくいかなくなることで、いつのまにか高血圧になっているケースがあるのです。
実際にあった患者さんのケースでは、頭痛がするので年齢的にも更年期だと思い来院されました。検査の一環で久しぶりに血圧を測ったら、拡張期血圧が100mmHg~収縮期血圧が160mmHgもあったことがあります。以前はまったく正常値だったので、本人も驚いていました。その人はほかの更年期の症状がなかったので、高血圧をきちんと治療すると言って内科に行きました。
高血圧はエストロゲンの問題だけでなく、生活習慣や加齢による老化の影響もあると思います。30代くらいまでは無理をしたり、多少の不摂生も問題なく過ごせていた人も、その積み重ねにより、40歳を過ぎたあたりからさまざまな形で体に現れてきます。
健康意識が高く、食事や運動などに気をつけている人でも、測定したらいつのまにか血圧が上がっていた…という人は少なくありません。
血圧の測定は、更年期世代になったら年に一度の健診だけでなく、家庭血圧計を用意して毎日家で測る習慣をつけることをおすすめします。血圧は睡眠中、朝、昼、夜と一日のうちでも変動し、食事や感情の変化などの影響も受けて、つねに変動しています。そうした中で、家庭で朝の安静時に測る家庭血圧を把握することが最も大切です。
高血圧を放っておくと、さらに血管の柔軟性が失われ動脈硬化が進行して、心臓への負担が増大します。やがてそれが重度の心不全に発展したり、心筋梗塞や脳卒中といった命にかかわる疾患のリスクにもつながります。更年期世代から血圧をきちんと管理することが大切です」
吐き気を伴うようなら脳腫瘍の可能性も!
「決して頻度は高くないのですが、脳腫瘍ということもあります。脳腫瘍は脳の中にできるできものの総称です。
腫瘍は悪性度により良性脳腫瘍と悪性脳腫瘍に分けられます。脳の組織からできた腫瘍を原発性脳腫瘍、体のほかの部位にできたがんなどの細胞が血液で運ばれて脳に入り、脳内で大きくなったものを転移性脳腫瘍と呼びます。
初期には症状はないことが多いのですが、次第に大きくなり脳が圧迫されると、頭痛が起きることがあります。特に頭痛が慢性的で朝方に強まる傾向です。また、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。
腫瘍ができている部位により、その部位特有の症状が現れます。
例えば、大脳にできると呂律が回らない、言葉が出にくくなるといった症状が。小脳にできると手足のしびれや動きが悪くなるなど運動器に問題が。視床下部や下垂体、視交叉(しこうさ)などにできると、視力や視野に障害が起こります。
もしも症状が頭痛だけで、ホットフラッシュなどのほかの更年期症状がない場合には、まずは内科もしくは頭痛外来、脳腫瘍が疑われる場合には脳神経外科などを受診することをおすすめします」
頭痛→すぐに治ってしまう+ほかの更年期症状(ホットフラッシュ、のぼせ、冷え、肩こり、不眠、イライラなど)がある→婦人科へ
頭痛→長引く+ほかの更年期症状なし→内科、頭痛外来、脳神経外科へ
更年期世代になって頭痛がするようになったら、一度は医療機関を受診して、原因になるような病気がないか検査すると安心です。自己判断で更年期と決めつけて我慢せずに、専門医と相談のうえ適切に対処することが重要です。
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子