更年期の動悸はすぐに治まりますが、長びく場合は一度検査を!
普段、心臓の鼓動は感じられませんが、動悸とは脈がドキドキと強く感じたり、心臓が一瞬止まるような、つまずいて脈が飛ぶように感じることをいいます。
「動悸は、更年期によく現れる症状のひとつですが、はっきりとした原因はわかっていません。更年期の症状として多いのが、夜寝ているときに突然、鼓動がドキドキして目が覚めるケース。しかしだいたい短時間で落ち着きます」(小川真里子先生)
動悸を感じたときは、まず深い腹式呼吸を行うといいそう。鼻から大きく息を吸い、ゆっくりと時間をかけて吐き出します。これを何回か繰り返してリラックスします。
一方で、動悸の症状がある場合には、貧血を疑ってみるべきだと小川先生。
「閉経が近づいてくると、月経周期が乱れて、短い周期で訪れる頻発月経や出血量が増える過多月経になる人がいます。出血量が増えると貧血(鉄欠乏性貧血)が起きやすくなります。 ほかに、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮がんなどでも出血が多くなることがあります。
貧血の診断基準ではヘモグロビン値が正常範囲でも、体内の貯蓄鉄フェリチンが不足している『隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)』の場合もあります。貧血になると、酸素を体中へ十分に巡らせることができないので、心臓が脈を早めます。これを動悸と感じることがあります。
貧血が疑われる場合は血液検査を行い、鉄不足が確認されれば鉄剤などが処方されます。出血が多い場合は、婦人科で月経をコントロールする治療を行うことも。子宮内に装着して黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する、ミレーナという薬を使用するのもいいでしょう」
鉄分不足には日頃から鉄分の多い食材を意識的にとることも大切。鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄があります。
ヘム鉄はレバーや赤身の肉や魚に多く、非ヘム鉄は野菜や豆類、穀物、海藻に多く含まれます。吸収率はヘム鉄のほうが高く、非ヘム鉄をとる場合はビタミンCや、肉などの動物性タンパク質と一緒にとると吸収率が高まります。
不整脈のこともあるので要注意!
一方で危険な動悸もあります。それは不整脈です。
「更年期症状による動悸はだいたい短時間で治るのが特徴です。一方で、30分や何時間も続く場合や、脈が飛んだり胸部に圧迫感、めまいなどを伴う場合は不整脈や心疾患の可能性があります。
心臓は1分間に60~70拍くらいで規則的に収縮します。一方でこのリズムがくずれる状態を総称して不整脈と呼んでいます。長びく動悸や息切れ、めまいがあるようなら内科を受診してください。
内科では、必要に応じて心電図検査に加え、胸部X線、血液検査、ホルター心電図検査※1、運動負荷検査※2、心臓超音波検査※3などを行います」
※1:ホルター心電図検査は携帯式の心電計をつけて帰宅し、体を動かしているとき、安静時、寝ているときにどう変化するかをみる検査です。
※2:運動負荷検査は階段を上り下りしたり、歩行や自転車こぎなどの運動時にどのように不整脈が生じるか、狭心症の症状が出るかなどをチェックします。
※3:心臓超音波検査は心臓の形や動きを診て、心臓の病気を判別する検査です。
「不整脈の治療は薬物療法を中心に行い、必要に応じて心臓ペースメーカー、埋込み型除細動器、カテーテルアブレーション※4などの治療を行うこともあります。
※4:カテーテルアブレーションは異常な部分にカテーテルを用いて、不整脈を抑える手術の一種。
不整脈を放置していると、将来的に心臓の機能が低下する心不全に進行することがあります。こうなるとQOL(生活の質)が著しく低下するので、早い段階できちんと治療することが大切です」
【教えていただいた方】
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。日本産科婦人科学会・日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医。専門は更年期医療学、女性心身医学、女性ヘルスケア。相談やカウンセリングを中心としたケアサポートとともに、最新のテクノロジーや視点を取り入れて、更年期を取り巻く環境や文化を積極的にアップデート。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/山村浩子