恵みの雨で穀物がすくすくと育つ時期
4月下旬から5月初旬が「穀雨」です。
春分が過ぎ、日ごとに昼間の時間が長くなるにつれて気温も上昇。それに伴い雨が多くなる、春の最後の節気になります。
「『穀雨』とは『百穀春雨(ひゃっこくはるさめ)』という言葉が由来とされ、その名のとおり、穀物を育てる雨が降る時期です。この雨はまさに穀物を育てる天からの恵み。大地を潤し、種まきや苗を植えるのに最適な気候になります。
七十二候では、『葭始生(あしはじめてしょうず)』と、水辺の葭が芽吹き始め、野山の植物が新緑に輝き始めます。『霜止出苗(しもやんでなえいづる)』は、霜が降りないほど暖かくなり、苗がすくすくと育つ様子を表現しています。さらに、『牡丹華(ぼたんはなさく)』と、大きく美しい牡丹の花が咲き始めます。
新緑に光る野山と色鮮やかな牡丹の花に彩られた景色を背景に、農家は田畑の準備に忙しくなる様子がうかがえます」(齋藤友香理さん)
熱を帯びてくる体にはデトックスが必要
4月から学校や職場では新年度が始まり、そろそろ新しい環境に慣れてきた頃でしょうか? それでも、生活のリズムが乱れがちになります。
「この時期は、日ごとに陽の気が増してきて、体は熱を帯びてきます。そのため、ニキビや肌あれ、頭痛、めまい、目の充血といった症状が現れることがあります。
そんなときは、規則正しい生活を心がけることに加えて、五臓の『脾』や六腑の『胃』の負担になる、糖質や脂質のとりすぎに注意してください。
自然の甘味のあるものは 、春に負担がかかる『脾胃』を助けてくれます。いちご、なつめ、にんじん、春キャベツ、新玉ねぎなどは、この時期におすすめです。
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ほかに積極的にとりたいのは、体に過剰になった熱を冷まし、デトックス効果のあるものです。例えば、どくだみ茶やはぶ茶、緑茶など、お茶でとると手軽です。
どくだみ茶は日本各地に広く分布するドクダミ科の植物で、日本三大薬草(ドクダミ、ゲンノショウコ、センブリ)のひとつ。解毒、利尿作用があるので、むくみや便秘の解消をはじめ、肌あれや老化防止などにもよいといわれる万能茶。
はぶ茶は漢方で決明子(けつめいし)と呼ばれる、エビスグサの種子から作られています。 古くから、便秘や高血圧、眼精疲労が気になるときに用いられてきました。
緑茶は含まれるカテキンの苦味に、炎症や目の充血、のぼせをしずめ、興奮した気分を落ち着かせる働きがあります。
こうしたお茶を水筒に入れて、こまめに飲むといいでしょう。
4月17日から立夏の前である5月4日までの18日間は、季節の変わり目となる『春の土用』です。春の土用には『戌(いぬ)の日』にちなんで、『い』のつく食べ物と、ほかに白い色の食べ物を食べるとよいとされています。
『い』がつく食べ物は、いちご、イワシ、イカ、いんげん豆、いも、いなり寿司など。
白い食べ物は、大根、かぶ、白きくらげ、白ごま、しらす、豆腐などです。
土用の食養生にはそれぞれの季節の変わり目に合わせて、その時期にくずれやすい体調を癒すものが多いのでおすすめです。あまり難しく考えずに、旬の食材をおいしく食べることを意識しましょう」
二十四節気の養生法とは?
旧暦の1年を24等分して、季節の移り変わりとそれに伴う生活の知恵を結びつけた「二十四節気」の養生法。この考えは紀元前の中国で生まれ、日本でも古くから親しまれています。
二十四節気はまず1年で昼の時間が最も長い日を夏至(6/21)、最も短い日を冬至(12/22)と決め、そこに昼と夜の長さがほぼ同じになる日である春分(3/20)と秋分(9/23)を加えて、1年を春夏秋冬の4つの季節に区分。さらにその中を、気温の変化や気象現象、動植物の様子などで6つに分けたものです。(詳しくは第1回参照)
※日にちは国立天文台発表の2025年のもので、年により多少前後します。
「二十四節気は長年の生活経験や知識で導き出した、農作業の目安にするための『気候・天気の予報』であり、それに従った養生法は、『人は自然の一部で、自然と調和して生きることが大切』という考え方に基づいた健康管理の知恵です。これらは漢方の陰陽論や五行説ともつながっています」
【教えていただいた方】

東京理科大学薬学部卒業後、薬日本堂入社。10年以上臨床を経験し、平成20年4月までニホンドウ漢方ブティック青山で店長を務め、多くの女性と悩みを共有した実績を持つ。講師となった現在、薬日本堂漢方スクールで教壇に立つかたわら外部セミナーも担当し、漢方を学ぶ楽しさを広めている。また「養生を指導できる人材」の社員育成、『薬日本堂のおうち漢方365日』『薬膳・漢方検定 公式テキスト』など、書籍監修にも多く携わっている。
イラスト/河村ふうこ 取材・文/山村浩子