内容を理解して、聞き手を想像して読むことが大事
アナウンサーのように美しく日本語を話し、人と楽しく会話ができるといいと思いませんか? それをサポートしてくれるのが「早口言葉」です。
なかには「早口言葉」に苦手意識を持っていたり、人と話す機会が少ない環境で必要性を感じない、滑舌よく話せたらいいけれど諦めている、という人もいるかもしれません。
「実は、早口言葉といっても、必ずしも早く読む必要はありません。ゆっくりでいいので、言葉をはっきり、正しく発音することが重要です。さらに内容を理解して、聞き手の理解を想像し、イメージを描きながら読むことです。
例えば、『りんご』という言葉が出てきたら、どんなりんごなのか頭に浮かべます。真っ赤な小さなりんごですか? それとも大きな黄色いりんごですか? 味は? 香りは? 産地は青森? そんなことにまで想像力を働かせると、同じ内容を読んでもニュアンスが変わりませんか?
黒柳徹子さんはあれだけ早口でも、内容がきちんと伝わってきます。それは、話す内容を頭で整理して、固有名詞や重要な部分をはっきりと強調しているからです。そのように、内容を理解したうえで、相手に伝えようとして話すことが最も重要です。
早口言葉もその状況、情景のイメージを膨らませて読んでみてください」(佐藤正文さん)
では、次の早口言葉を言ってみましょう。
【早口言葉】
先週の選手数と 先々週の選手数 難易度★★★
あなたが想像したスポーツは何でしたか? 野球? サッカー? バスケットボール? 会場は? 選手は学生? プロ? イメージを膨らませると楽しくなりませんか? 実況中継のアナウンサーになった気分でトライしてみてください。
「この早口言葉では、サ行が重要になります。サ行は上の歯茎と舌の間の隙間を息が抜けていくときに出る音です。この隙間が広すぎたり、息が弱いときちんと発音できず、『しぇんしゅうのしぇんしゅしゅう』になってしまいます。
最初はゆっくり、正確にはっきり発音して、少しずつ早くしていくといいでしょう」(佐藤さん)
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言葉を操るのは人間だけが持つ能力
「人とかかわって、会話をすることが脳の機能を活性化して、認知症の予防になることが医学的にも証明されています。特に重要なのは、自分の思いをまとめて、相手にどう伝えるか? 相手がどう感じるかまで推測して、コミュニケーションをとることです。
言語能力は『FoxP2(フォックス・ピーツー)』という遺伝子が関連していると考えられています。これは私たち人間(ホモサピエンス)だけが持っている遺伝子で、『ヒトらしさを決める遺伝子』といわれています。
ヒトと最も近いと考えられているネアンデルタール人でも、この遺伝子を持っていません。ネアンデルタール人はホモサピエンスよりも体格が大きかったにもかかわらず絶滅したのは、この言語能力、コミュニケーション能力が低かったことが原因ともいわれています。
人間だけが持つ高いコミュニケーション能力をいつまでも衰えさせないよう、積極的に人とかかわり、言語機能をフルに活用してください」(福山秀直先生)
【教えていただいた方】

市立野洲病院相談役、京都大学名誉教授。1975年京都大学医学部卒業。2001年高次脳機能総合研究センター教授に就任。PETやMRIなどを活用して脳内の機能を画像化するなど、脳機能研究の第一人者。認知症の研究にも取り組み、現在は、京都市内の病院で神経内科の臨床医として認知症治療にも尽力している。共著に『「早口ことば」で認知症予防』(ART NEXT)など。

1970年、桐朋学園大学演劇専攻科卒業。劇団 俳優座、安部公房スタジオを経て日本大学芸術学部非常勤講師、尚美学園大学客員教授。大手芸能プロダクションで演技レッスンを担当し、多数の俳優を育成。ほか、アマチュア劇団や朗読サー クルなどで、高齢者を含め約5000人を指導。トレーニングのひとつとして「早口言葉」を取り入れている。共著に『「早口ことば」で認知症予防』(ART NEXT)など。
協力/「早口ことば」で認知症予防(ART NEXT)
イラスト/midorichan 取材・文/山村浩子