痛いけれど効果抜群!? 上咽頭擦過療法(EAT)の3つのメカニズム
慢性上咽頭炎は、鼻の奥にある上咽頭の慢性炎症です。この炎症がさまざまな体の不調とかかわっていると考えられています。では、その慢性上咽頭炎はどのような治療法があるのでしょうか?
慢性上咽頭炎の症状については第1回参照。
「まだ有効な治療薬がなく、治療の第一選択肢は上咽頭擦過療法です。英文でEpipharyngeal Abrasive Therapyの頭文字をとってEAT(イート)とも呼ばれています。
1960年代に東京医科歯科大学の堀口申作先生が研究していた、日本オリジナルの療法です。当時は鼻咽腔炎(びいんくうえん)と呼ばれていたので、その頭文字をとってBスポット療法と呼ばれていました。現在でもこの名前を使っている医療機関もあります。
EATは0.5~1%濃度の塩化亜鉛溶液に浸した綿棒を鼻と喉から入れて、上咽頭に擦りつける方法です。軽く塗る程度ではあまり効果がなく、しっかり擦ることが重要です。そのため炎症がある場合は出血したり、痛みを伴います。なお、痛みの程度は上咽頭の炎症の具合に加え、個人差もあるようです」(堀田修先生)
EATのメカニズム
1 塩化亜鉛溶液による抗炎症作用
塩化亜鉛液には収れん作用と殺菌作用があります。これにより、上気道に入り込んだ細菌やウイルスを撃退します。
2 迷走神経を刺激する
上咽頭には迷走神経がたくさん分布しています。迷走神経は自律神経のうちの副交感神経がその大部分を占めているため、ここを刺激することで副交感神経の機能が高まります。
3 炎症物質を排出する
擦ることで、たまった炎症物質を血液とともに排出します。これを瀉血(しゃけつ)作用といいます。それにより、脳脊髄液やリンパのうっ滞を解消します。
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「EATは風邪やインフルエンザの感染による急性上気道炎にも効きます。また、ひいた風邪がなかなか治らない、風邪が何度もぶり返す、喉が痛いのに病院で原因がわからないと言われたときなどに、この療法は選択肢になります。
ほかに、咳ぜんそく、後鼻漏(こうびろう)、めまい、頭痛、慢性疲労症候群、IgA腎症、ネフローゼ症候群、アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの改善も期待できます。
症状によりますが、EATは通常数回繰り返す必要があります。EATが有効な病態であれば、約8割はEATのみで改善しますが、2割には効果が不十分なことがあります」
EATを行う医療機関は限られる
EATは1960年代、70年代には、有効な療法として脚光を浴びましたが、その後、『万病に効く』といううたい文句に、医師の間で懐疑心が生まれたことなどの理由で衰退しました。しかし、その高い効果に再注目したのが、今回監修に協力いただいている堀田先生です。
「私が慢性上咽頭炎の治療にEATを導入したのが、約20年前です。ここ10年余りでEATを実施する医療機関数は増加しており、現在、耳鼻咽喉科を中心に約600の医療機関が実施しています」
EATは慢性上咽頭炎の知識を持ち、手技を取得した医師が行う治療です。EATをしている医療機関は限られていますが、最近急速に増えています。実施している医療機関については、堀田先生の著書『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』に掲載されています。
【教えていただいた方】

防衛医科大学校卒業。2011年に仙台市にて、医療法人モクシン堀田修クリニックを開業。認定NPO法人日本病巣疾患研究会理事長。IgA腎症・根治治療ネットワーク代表。日本腎臓学会功労会員。2001年、IgA腎症が早期の段階であれば扁摘パルス療法により根治治療が見込めることを米国医学雑誌「AJKD」に報告。その後は同治療の普及活動と臨床データの集積を続ける。また、扁桃、上咽頭、歯などの病巣感染(炎症)が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。監修本『慢性上咽頭炎を治せば不調が消える』(扶桑社)など。ほかに著書多数。
イラスト/green K 取材・文/山村浩子