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「ストレスフリー」が病気や死亡リスクの上昇を招く!?

ストレスをただよくないものとらえていると、病気のサインに気づくきっかけを失ったり、健康を害するリスクを放置してしまうことに。ストレスを受けるのは健康に悪い、と思い込むことの危うさを、ストレスとホルモンの働きに詳しい伊藤裕先生が解説。

「寝てストレスケア」は筋力低下を招く

ストレスがあるから生きていける、成長できる─そう聞いても、ピンとこない人のほうが圧倒的に多いかもしれません。
実際、厚生労働省の「労働安全衛生調査」では、労働者の8割以上が「強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある」と答えています。
※厚生労働省 令和5年 労働安全衛生調査(実態調査) 個人調査より

 

「近年はメンタルヘルスへの関心の高まりもあり、多くの人がストレスと健康の関係を意識するようになりました。
美容や健康、ダイエットなどの分野では『糖質オフで痩せる』といったわかりやすいワンワードが受け入れられやすい。

その影響もあって、『ストレスは悪い』というイメージが浸透しているように感じます」(伊藤裕先生)

でも、このとらえ方にはリスクがあると言います。

 

「ストレス自体を”病気のもと”のように考えてしまうと、ストレスの本質を見誤って正しく対処することができなくなります。

その代表的なものが『ストレスを感じたらとにかく休む』というもの。

休む=寝る、家でのんびりする、という人も多いでしょう。
本当に疲労がたまっていたらもちろん休養は必要ですが、体を動かさないことのデメリットは、筋肉量の低下、生活習慣病のリスク上昇など計り知れません。

普段体を動かしている職種の人はともかく、平日デスクワークの人が休日まで体を動かさないでいたらどうなるか。
まして筋力体力の低下が加速する50代はなおさらです」

 

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ストレス=体に悪いと考えると死亡リスクが上昇

ほかにも、ストレスを誤解しているとさまざまなデメリットが。

 

「例えば、体調がよくないのに『忙しくてストレスがたまっているせいだ』と思い込み、すぐに治療が必要な病気を見逃してしまうということは、ままあります。

また、体調をくずしたり生活リズムが乱れているときにストレスを口実にして、『だから仕方がない』とばかりに改善しようとしない。
自己管理能力が低下して、セルフネグレクトのようになってしまうということもあります。

 

ストレスで食べてしまう

ストレスのはけ口を食べることに求める人も多いことでしょう。

私たち人間が、生物として生きていくうえでの最も大きな目標は、『定期的に必要な栄養素をとり込むこと』です。

物を食べることは、その目標を手軽に達成できる行為です。
簡単なわりに快感が大きいので、ストレス発散として物を食べる人が多いのですね。

 

でも、更年期は女性ホルモンの減少や代謝の低下の影響から、ただでさえ太りやすい。
2~5kg程度なら医学的に見て許容範囲ですが、10kgなど一定以上太ってしまうと膝や股関節に負担が大きくなることは確かです。
そもそも、『お腹が空いたら食べる』というのは体に本来備わっているリズムです。
空腹感と関係なくどうしても食べずにいられない、という人はそのリズムが狂ってしまっているからで、治療が必要な状態かもしれません。
『ストレスがあるからしょうがない』とストレスを口実にして暴飲暴食を放置してしまうのは、問題の本質を見えづらくしてしまいます」

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さらにストレス=悪との思い込みは、死亡リスクをも高めるという話も。

 

「アメリカで成人3万人の動向を追跡した調査があります。
1998年に『過去1年間にどの程度のストレスを感じたか』『ストレスは健康に悪いと考えているか』を聞き取ったデータを、2006年までの全国の死亡率データと突き合わせて分析したところ、『ストレスが体に悪い』と答えた人たちは、他のグループに比べて死亡率が高いという結果でした。

一方で、ストレスを感じているものの『健康の一部や成長の機会』ととらえている人たちは、死亡リスクの増加は見られませんでした。

 

これはストレスそのものより、ストレス=悪ととらえることが健康に悪影響を及ぼしている可能性を示しています。
ストレスを心配することが逆にストレスになり、過度に恐れることで受け入れられるストレスの量が少なくなり…という負のスパイラルに陥ってしまうのかもしれません。

 

ストレスフリーという言葉ありますが、ストレスをフリーにする=なくすことは不可能です。
であれば、ストレスのポジティブな面に目を向け、自分の受け止め方や適応力を変化させていくというのが、健康に長生きしていける秘訣といえるでしょう」

 

イラスト/ツルモトマイ 取材・文/遊佐信子

 

伊藤 裕
伊藤 裕さん
医学博士

慶應義塾大学名誉教授、同大学予防医療センター特任教授。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。1983年京都大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、スタンフォード大学で博士研究員。京都大学医学部助教授を経て、慶應大学医学部にて教授、2023年より現職。著書やメディア等でホルモンの仕組みや体の働きなどをわかりやすく解説。著書多数。

 

伊藤裕先生の話題の著書はこちら

なぜストレスフルな人がいつまでの若いのか書影

 

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