【教えていただいた方】

北里大学大学院 医療系研究科整形外科学教授。日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本リウマチ学会認定専門医および指導医、日本人工関節学会認定医。専門は股関節で、最小侵襲手術 (MIS)、運動器リハビリテーション、スポーツ医学に精通。著書に『股関節痛 こわばり・ だるさ・ 脚長差 自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。

股関節は人体最大で、大きな荷重がかかる過酷な関節
現代は人生100年時代といわれていますが、自立した生活を死ぬ直前までまっとうするのは容易なことではありません。誰もが避けたいと思うのが「寝たきり&介護生活」。その最も必要な条件といわれているのが、「自分の脚で歩けること」です。
そのために大きな要素となるのが、健康な「股関節」だと高平尚伸先生。では、股関節とはどんな特徴があるのでしょうか?
「股関節は両脚の付け根にある人体最大の関節です。ちょうど体の中央にある骨盤と最も長い骨である大腿骨をつないでいます。

股関節は骨盤にある寛骨臼(かんこつきゅう)というお椀形をした骨に、大腿骨の先端の球状をした大腿骨頭(だいたいこっとう)がすっぽりはまり込んだ形になっています。これを球関節と呼んでいます。この形状があるからこそ、脚は前後左右、回すといったさまざまな動きができるのです。
寛骨臼と大腿骨頭との間には関節軟骨があり、これがクッション役となって、重い上半身を支え、歩いたり体を動かすなどの衝撃を吸収しています。
例えば、片足立ちをすると股関節には体重の約3~4倍、つまずいた体を支えるときは約10倍の負荷がかかります。このことから、股関節は荷重関節とも呼ばれ、その荷重を関節軟骨が緩衝材となって支えています」(高平尚伸先生)
日本人女性は股関節の構造上、ダメージを受けやすい
特に女性は40歳を過ぎた頃から、急に股関節に違和感を覚える人が増えるようです。それはどうしてでしょうか?
「それには股関節の構造が関係しています。骨盤にあるお椀の形をした寛骨臼が、球状をした大腿骨頭を受け入れるようになっているのですが、この受け皿になるお椀形が、生まれつき、あるいは成長の過程でなんらかの要因により、浅い形状の人がいます。これを寛骨臼形成不全といいます。
寛骨臼形成不全は特に女性に多く、股関節を支える筋力が弱いこともあり、関節にかかる負荷が大きく、クッション役となる軟骨がすり減りやすくなります。これが変形性股関節症で、痛みを発症する大きな原因です。
変形性股関節症は40歳を過ぎた頃から増えてきます。
その理由は、仕事と子育てや家事の両立などで、女性の体への負担が大きいことが一因でしょう。30代はまだ筋力や気力があり、多少の違和感なら放置してしまいがちです。そこに運動不足や体重増加、長年の体の使い方の癖などが加わり、40歳くらいから症状の悪化が顕著になると考えられます」
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生活を見直して痛みを発症させないことが大事!
このように、股関節の特殊な形状と負荷が大きいことで不調を招きやすいのです。ひとたび不調が起こると、今までのように歩けなかったり、動きが制限されます。そのため、日頃から股関節をいたわることが大切だといいます。
「股関節の痛みの原因には、体重増加、運動のしすぎ、重労働といったことが関係しています。いずれも股関節への負担が問題です。
体重が増加すると、立っているだけで股関節への負担が増加します。運動のしすぎは主にスポーツ選手に多いのですが、一般の人も急に激しい運動をするのは負担になります。
重労働は職種に加え、子育てや家族の介護などのライフステージも関係します。例えば、一日中立ちっぱなし、重い物を運ぶ仕事に従事する人。保母さん(子育て中)や介護士さん(家族の介護中)なら、立ったり座ったりを繰り返したり、子どもを抱っこしたり、重い体を支えるといったことも股関節に過大な負担がかかります。
こうした環境の人は特に注意が必要です。生活上やらざるを得ないとはいえ、体を壊しては元も子もありません。普段から股関節に負担のかからないように動作に気をつけたり、関節の柔軟性を高めるストレッチ、軽い筋トレなどで筋力を維持するなど、総合的に体をケアしていくように心がけてください」
イラスト/green K 取材・文/山村浩子


