関節の痛みは筋膜(ファシア)の癒着が大きな原因
「ファシアという言葉を聞いたことがあるでしょうか? これは薄い網目状の結合組織で、筋肉をはじめ、骨、内臓、血管、神経など体のあらゆるものを包んでいます。そのなかで、筋肉を包んでいるものが筋膜です。
ファシアはコラーゲン線維、エラスチン線維などのタンパク質と基質でできています。基質がゼリー状をしているため表面がツルツルしていて、それぞれの組織同士がくっつかないようになっています。
今まで、ファシアは筋肉や臓器を包んで保護する役割だと考えられてきました。ところが、最近の研究により、体を動かす機能に深く関与していることがわかってきました。
例えば、私たちの体には約400個もの骨格筋があります。ファシアがそれらを個々に包むことで、隣の筋肉同士が癒着しないような役割を果たしています。しかし、その働きは筋肉を分離するだけでなく、互いにつなげて連動させていることがわかったのです。
このシステムがあるからこそ、体をスムーズに動かすことができるのです。一方、この各筋肉のファシアが隣と癒着して拘縮(こうしゅく)する(こわばって硬くなる)と、スムーズな動きができなくなります。
ファシアには感覚受容器があるので、癒着を起こすと痛みやこりの症状が現れます。
このような筋肉の動きを伝えるファシアのネットワークを筋膜(ファシア)ラインといいます」(高平尚伸先生)
4つの筋膜(ファシア)ラインに注目!
「特に股関節痛に関係する筋膜(ファシア)ラインには次のようなものがあります。1フロントライン、2バックライン、3ラテラルライン、4スパイラルラインです」
それぞれの特徴を見ていきましょう。
【股関節痛に関係する筋膜(ファシア)ライン】
1「フロント(前面)ライン」

上から、胸鎖乳突筋、胸骨筋、腹直筋、大腿直筋、大腿四頭筋、前脛骨筋、長趾伸筋などのラインで、主に股関節の屈曲(脚を前方に上げる)、膝の伸展(伸ばす)、足を背屈させる(反らせる)動きに関係します。
チェック!
両足を腰幅に広げて立ち、腰に両手を当てて上体を反らせます。これが苦手で顔を上に向けられない人は、フロントラインが拘縮しています。
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2「バック(背面)ライン」

上から、脊柱起立筋、ハムストリングス、腓腹筋、短趾屈筋などのラインで、主に背骨と股関節の伸展(背中を反らせる、脚を後方に上げる)、膝と足関節を底屈させる(足首を曲げる)に関係します。
チェック!
両足を腰幅に広げて立ち、前屈します。これが苦手で、指先がすねの中心まで下ろせなければ、バックラインが拘縮しています。
3「ラテラル(側面)ライン」

上から、胸鎖乳突筋、頭板状筋、内・外肋間筋、内・外腹斜筋、大臀筋、大腿筋膜張筋、股関節外転筋、腓骨筋などのラインで、主に背骨の側屈(横に倒す)、股関節の外転(体の中心軸から脚を外側に開く)、脚の挙上(外側に位置を上げる)に関係します。
チェック!
左足を右足の小指側につくように、両脚をクロスして立ち、右腕を真上に伸ばします。真っすぐ姿勢を保てなければ、ラテラルラインが拘縮しています。右足を前にして、左腕を上げ、左右差もチェックして!
4「スパイラル(らせん)ライン」

頭板状筋、頸板状筋、大菱形筋、小菱形筋、前鋸筋、外腹斜筋、大腿筋膜張筋、前脛骨筋、長腓骨筋、大腿二頭筋、脊柱起立筋などのラインで、体幹の回旋(回転させる)、背骨のバランスを支えます。
チェック!
椅子に座り、右脚を上にして脚を組み、上体を右に回して、左手で椅子の背もたれをつまみます。これができない場合はスパイラルラインが拘縮しています。左脚を上にして、上体を左に回し、左右差もチェック!
「特に股関節に違和感や痛みがある場合、1のフロントラインが拘縮していることが多いようです。ここを柔軟にするストレッチを中心に行うといいのですが、それだけでなく、筋肉はそれぞれに影響し合っているので、1~4をバランスよくほぐすことが大切です」
【教えていただいた方】

北里大学大学院 医療系研究科整形外科学教授。日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本リウマチ学会認定専門医および指導医、日本人工関節学会認定医。専門は股関節で、最小侵襲手術 (MIS)、運動器リハビリテーション、スポーツ医学に精通。著書に『股関節痛 こわばり・ だるさ・ 脚長差 自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。

イラスト/green K 取材・文/山村浩子



