股関節痛の予防・軽減には筋肉維持と滑液の循環を促すこと
「股関節は重い上半身を支え、さまざまな動きに関係して、大きな負荷がかかる過酷な関節です。加齢などで、その関節を支える筋肉が衰えると、さらに負担が増し、やがて関節軟骨がすり減ったり、骨が変形して痛みを発症するようになります。これが変形性股関節症です。
変形性股関節症については第2回参照。
それを予防、進行をくい止めるために大切なのは、股関節を支える22の筋肉の維持と、もうひとつ、関節の滑りをよくして、関節軟骨の摩耗を防ぐことです。
関節には動きをスムーズにする働きがある滑液(かつえき)が分泌されます。滑液は関節包の内側にある滑膜から分泌される、透明もしくは薄い黄色をした、少し粘りけのある液体です。この滑液は動きをなめらかにするとともに、関節軟骨に栄養を供給する役割があります。
ですから、関節軟骨の健康を守るためには、この滑液の循環をよくしておくことが大切です。
よくあるのが、椅子から立ち上がるときや、歩き始めに違和感や痛みを覚えるケースです。これをスターティングペインというのですが、こうした人は滑液の循環が悪くなっている可能性が高いです。
滑液の循環を高めるためには、関節を動かすことが最も効率的。その方法のひとつがジグリングです。ジグリングとは関節を上下に揺すること。いわゆる貧乏ゆすりです。
椅子に浅めに座り、つま先を床につけたまま、かかとを小刻みに上下させます。あまりよいイメージのない貧乏ゆすりですが、変形性股関節症の改善に役立つ運動として、患者さんにすすめていて、とてもよい結果が出ています」(高平尚伸先生)
立体的な動きを加えた「3Dジグリング」が最強!
股関節の痛みを改善するには、関節軟骨の維持・再形成を行うことです。それには、股関節周辺の筋肉を保ち、滑液の循環をよくすること…というお話をしました。
「さらに加えたいのが、拘縮した筋膜とそれにつながる4大筋膜ラインを緩めることです。
4大筋膜(ファシア)ラインについては第3回参照。
そのすべてに対応できるようにまとめたのが、3Dジグリングという体操です。3Dは立体的という意味で、通常のジグリングは上下の動きだけですが、これに前後左右上下さらに回旋の動きをプラスしたものです」
では、そのやり方を見ていきましょう。
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【3Dジグリングの方法】
「フラダンスのように、腰をしなやかに大きく動かす体操です。ただしフラダンスと違う点は、上体を垂直に立たせずにやや前傾にし、腰ではなく股関節を回します。そのため手は股関節に当てます。
股関節を全方向に動かすことで、筋膜をほぐし、滑液の循環をよくします。スクワットに近い姿勢も含まれるので、股関節まわりの筋肉を鍛えることもできます」
【1】腰を落とす

両足を肩幅くらいに開き、背すじを伸ばして立ちます。やや上体を前傾させ、両手は股関節の上に。両膝を曲げて腰を落とします。
【2】骨盤を右に回す

骨盤を右回りに大きくゆっくり回します。顔を正面を向け、背すじは真っすぐに伸ばしたまま、股関節の動きを意識してください。これを10回繰り返します。
【3】骨盤を左に回す

次に、左回りに大きくゆっくり回します。これを10回。
1~3を1セットとして、1日3セットを目安に行います。
【これはNG!】

骨盤を大きく回すことが目的ではありません。大きく回すことに気を取られて、上体が過度に前に傾かないようにしてください。上体を真っすぐ伸ばして、股関節を軸に骨盤を回す要領です。
「無理をせず、回せる範囲でOKです。やりすぎは厳禁。痛みを感じるようなら中止してください。
この体操はどんなタイプの股関節痛にも効果があります。予防にもなるので、毎日の習慣にするといいと思います。一日のうち、行うタイミングはいつでもかまいません。朝起きたとき、夜寝る前など、習慣化しやすいタイミングで行ってください」
【教えていただいた方】

北里大学大学院 医療系研究科整形外科学教授。日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本リウマチ学会認定専門医および指導医、日本人工関節学会認定医。専門は股関節で、最小侵襲手術 (MIS)、運動器リハビリテーション、スポーツ医学に精通。著書に『股関節痛 こわばり・ だるさ・ 脚長差 自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。

イラスト/green K 取材・文/山村浩子


