筋膜同士のつながり=筋膜ラインに沿ったストレッチを!
「筋肉をはじめ、各臓器はファシアという薄い膜のような結合組織で包まれています。その中で筋肉を包んでいるものを『筋膜』といいます。特定の筋肉同士でファシアがつながっていて、これを筋膜ラインといいます。
筋膜ラインは筋肉同士で力や情報を伝え合い、筋肉を効率よく動かすネットワークを生み出しています。股関節を健康に保つためには、特に股関節の動きに関係する筋膜ラインを意識して、そのラインに沿ってストレッチを行うことが大切です。
※筋膜ラインについては第3回参照。
特に、股関節に違和感や痛みがある人は、筋膜ラインの中の『フロントライン』が拘縮していることが多いので、ここを効率よくほぐすストレッチがおすすめです」(高平尚伸先生)
それが、壁押しフロントライン伸ばしです。
「筋肉や関節が連動して動くことでパフォーマンスを発揮することを運動連鎖(キネティック・チェーン)といいます。ここで紹介するストレッチはCKC(クローズド・キネティック・チェーン)に属します。
CKCは体の末端部分、手や足が床や壁などに接して固定した状態で行うものです。スクワットや腕立て伏せもこれに属します。反対に、手や足が固定されないで行うものをOKC(オープン・キネティック・チェーン)といい、代表的なものが横になって重量を上げるベンチプレスなどです」
CKCは体に負担が少なく初心者でも行いやすく、家などで手軽にできるのがうれしいところ!
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壁を使って上手に負荷をかけるのがポイント!
「壁押しフロントライン伸ばし」は壁に手をつき、そこで生まれる抵抗を使って体をストレッチします。
【やり方】
【1】 壁のコーナーに立つ

壁のコーナーに向かって立ち、右側の壁に右手、左側の壁に左手を肩の高さにつき、両ひじを伸ばします。
【2】 体の前部分を伸ばす

「右脚を一歩前に出し、左脚を後ろに下げて、腰を落とし、かかとをつけて伸ばします。ひじは伸ばしたままで上体を後ろに反らし、顔を上げて視線も上に向けます。
この状態で20秒キープ。脚を替えて同様に。これを、1日3セットを目安に行いましょう。
【POINT】
後ろに伸ばした脚、胸、首にかけてのフロントラインと腕の筋肉が伸びていることを意識してください。
「このストレッチは猫背や巻き肩、首や肩がこる人にもおすすめです。『3Dジグリング』と合わせて行うとより効果的です」
※3Dジグリングについては第4回参照。
【ストレッチの5つの注意点】
〇硬い関節を無理に伸ばさない
各関節には可動域があり、個人差もあります。無理やり伸ばすと思わぬ痛みを発症することがあります。
〇呼吸を止めない
呼吸を止めると筋肉が硬くなり、ストレッチ効果が薄れます。自然な呼吸をしながら行いましょう。
〇強く反動をつけない
小さな動きから始めていくことが大切です。反動をつけると関節に無理な負荷のかかることがあるので注意が必要です。
〇いきなり行わない
体が冷えた状態だと関節がうまく動きません。あらかじめ体を軽く動かして、筋肉を温めておくことが大切。お風呂上がりに行うのもよいでしょう。
〇やりすぎない
やりすぎると筋肉や関節を痛めることがあります。決められた回数やタイミングを守って、無理のない範囲で行うことがとても大切です。痛みを感じたときには中止してください。
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【教えていただいた方】

北里大学大学院 医療系研究科整形外科学教授。日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本リウマチ学会認定専門医および指導医、日本人工関節学会認定医。専門は股関節で、最小侵襲手術 (MIS)、運動器リハビリテーション、スポーツ医学に精通。著書に『股関節痛 こわばり・ だるさ・ 脚長差 自力で克服! 名医が教える最新1分体操大全』(文響社)など多数。

イラスト/green K 取材・文/山村浩子


