昭和のお風呂は“命がけ”!? なぜNG神話が生まれた?
こんにちは。斎藤糧三です。
「機能性医学」を専門に、日本機能性医学研究所の所長を務め、表参道のクリニックで診療しています。
昔は「風邪のときにお風呂なんてとんでもない!」と言われたものです。実際、1週間も「ノー風呂生活」を強いられて、髪はベタベタ、体はムズムズ、気持ちはどんより…。そんな経験、覚えのある人も多いのでは?

当時の家は、冬はとにかく寒くて脱衣所は想像以上の極寒ゾーン。浴槽でせっかく温まっても脱衣所で体が冷え、湯冷めで風邪がぶり返す…、銭湯の帰り道なんてまさに「命がけ」イベント!
冬の銭湯でケチってドライヤーなしで帰ると、髪の毛が凍ってシャラシャラ音がしてた…なんて思い出がある人もきっといるはずです。
一方、欧米では「風邪のときこそ、温かいお風呂やシャワーでしっかり温まる」が当たり前。日本だけが「風邪ならお風呂NG」ルールって、なかなかユニークな話ですよね。
そもそも日本では、江戸時代から昭和の頃まで家にお風呂がない家庭も多く、入浴といえば銭湯が主流。湯冷めしやすい環境だったからこそ、風邪のときは入浴を避けるという独自ルールが広まったのかもしれません。

「ぬるめ長め」入浴で、むしろ風邪に負けない体になる!
確かに、体温が上がることで白血球など免疫細胞の動きが活発になるのは事実。最近はホットヨガや温活サロンでも、「深部体温をじんわり上げることで免疫力が高まる」という考え方が広がっています。
深部体温を上げるためによいのは「39℃くらいのお湯に10〜15分、首までしっかりつかる」入浴法。
この「ぬるめ長め」のお風呂は、自律神経を整え、副交感神経が優位になって血流がよくなり、体もリラックス。加えて、体温上昇によって「ヒートショックプロテイン(HSP)」というタンパク質が増え、このHSPが免疫細胞(リンパ球など)の働きを後押ししてくれる――そんなメリットも見逃せません。
ちなみに入浴後は体を冷やさず、しばらくバスローブや暖かいパジャマを着て保温するのが、ヒートショックプロテインをより効率よく増やすコツです。
だからこそ、「じんわり温まる入浴法」で免疫力アップ&回復力UP!
風邪のひき始めは体がゾクゾクするものですが、実はこの悪寒は、体が自分で体温を上げてウイルスをやっつけようと頑張っている証拠。ならば、お風呂で手伝ってあげてもOK!という考え方もアリです。

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令和の新常識「風邪でも入浴OK」——ただし例外も
結論から言えば、「風邪をひいても、症状が安定していれば入浴OK!」です。むしろ適度に体を温めることで免疫力も高まり、筋肉のこわばりもほぐれ、夜はぐっすり眠れる。ただし、どんなときも“お風呂最強!”とはいきません。
いくつか気をつけてほしいポイントも。
・38℃以上の高熱のときは無理をしない。
・体力が極端に落ちているときは、おとなしく布団に。
・下痢や嘔吐、脱水症状があるときも、お風呂はしばらくお預け。
・乳幼児や高齢者は、温度差や長湯に要注意です。
理想は「お風呂と“いい距離感”で付き合うこと」。普段から、湯船の温度は最初は39〜40℃くらいに。10〜15分ほどで体がしっかり温まったら、もう少し温度を上げてもOKですが、長湯は避けて。

入浴前にはコップ1杯の水分補給。脱衣所や浴室も、できればあったかくしておいてください。そしてお風呂上がりは汗をしっかりふいて、湯冷めしないように。ここは今も昔も油断禁物です。
風邪の日でも、「今日はお風呂はお休み…」と我慢しすぎず、温める力を上手に味方につけて、風邪退治&リラックスにつなげてください。
■まとめ■ 令和の常識はこれ!
昭和の常識:風邪のときはお風呂はダメ、1週間我慢
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令和の常識:風邪でもお風呂はOK。しっかり温めて、免疫力も気分もアップ!
(ただし無理せず、“お風呂といい関係”で!)
【教えていただいた方】

1973年生まれ。日本医科大学卒業後、産婦人科医に。その後、美容皮膚科治療、栄養療法、点滴療法、ホルモン療法を統合したトータルアンチエイジング理論を確立。2008年「日本機能性医学研究所」を設立(2009年に法人化)。2017年、スーパーフードとしての牧草牛(グラスフェッドビーフ)の普及を目指し、日本初の牧草牛専門精肉店「Saito Farm」をオープン。2022年、機能性医学と再生医療を融合させた治療拠点として「斎藤クリニック」を開設。著書に『サーファーに花粉症はいない』(小学館)、『糖質制限+肉食でケトン体回路を回し健康的に痩せる!ケトジェニックダイエット』(講談社)、『病気を遠ざける! 1日1回日光浴 日本人は知らないビタミンDの実力』(講談社+α新書)ほか多数。斎藤クリニック、Saito Farm
イラスト/小迎裕美子 取材・文・画像制作/蓮見則子


