「夫婦のセックス感の違い」に対するお悩みを軸に、更年期世代の性の悩みに向き合ってきた富永喜代医師とフェムゾーンケアの第一人者、森田敦子さんにお話を伺います。
お悩み事例
いつの間にかすれ違っていた、妻と夫の「セックス」観
「子ども二人」夫婦の、夫からのご相談。子育ても手が離れ、「もう一度二人の時間を過ごし、セックスを楽しみたい」とのこと。ところが妻側は、「自分にとって、セックスは子どもを持つことが目的だった。出産はもう終わったし、もともと好きではないから、もうしたくない」という考え。さて、夫婦の落とし所はどうしたら? 今もカウンセリングが続いています。(富永喜代先生)
年齢を重ねるほどに、「女になっていく」
──お悩み事例(上記)のようなケースに陥ってしまった場合は、どうすればいいのでしょうか?
富永 セックスをする・しない以前のコミュニケーションの問題なんですよね。子どもが成人するまで20年近く、妻が「セックスが好きではない」ことを知らなかったということがまず問題。いかに“本音”を伝え合ってこなかったかという、典型的なケースだと思います。
森田 そうですよね。本当はしたくないのに、パートナーに悪いから「仕方なく合わせる」「(感じていないのに)イッたふりをする」という女性もとても多い。私が主宰するスクールの講座では、「性のフェイク」はイコール「自分に噓をつく生き方」。だからもうやめましょうと話すと、「私は今までそうでした」と、泣き出してしまう人も、とても多いんです!
富永 そういう人を決して責められません。なぜなら性は、女性の犠牲の上に成り立ってきた歴史の積み重ねでもあるから。あとぜひマインドリセットしてほしいのは「セックス=挿入」という思い込み。キスするだけ、ハグして添い寝するだけでも、心と体が満足するなら、それもセックスととらえていいのではないでしょうか。そういう点では、今はいい意味で、セックスの定義が揺らぎはじめた時代といえます。
森田 食欲や睡眠欲と同じように、性欲も自分から湧き起こる“欲”のひとつと、前向きにとらえて肯定していいと思うんです。セックスは、内側から湧き出るエネルギー交換。「閉経したら終わり」ではなく、もっとキュンキュンしていいし、年齢を重ねるほど、「女になっていく」と思います。
富永 「いい年をして、いつまでそんなことを言うのか」なんて、誰にも言われる筋合いはありません。体も心も健やかで、満足して生きること。それが「セクシャルウェルネス」の本質ですから。
性欲は、自分自身の中から湧き起こるもの。他者が決めるものでも、社会が線引きするものでもない(富永喜代先生)
セックスにまつわる文化を知る
◆映画『氷の微笑』から学ぶ、「感覚」だけのセックスとは?
「目隠しをされた主人公が、おへそ周辺に氷を当てられるシーンがおすすめ。セックスは挿入だけが目的ではなく、感覚を研ぎ澄ますことを教えてくれます」(富永喜代先生)
◆映画『ヒステリア』から学ぶ、バイブレーターの歴史とは
「19世紀末のイギリスでは、バイブレーターは女性のヒステリーを治療するために発明された医療器具だったという実話を元にした作品。2011年の作品です」(森田敦子さん)
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
日本における植物療法の第一人者。植物療法に興味を持ち渡仏、フランス国立パリ第13大学で植物薬理学を学ぶ。帰国後、デリケートゾーン&パーツケアブランド「アンティーム オーガニック」の処方・開発や、「ルボア フィトテラピースクール」、フェムテック・ウェルネスメディア「WOMB LABO」を主宰
撮影/天日恵美子 イメージアート/KAORUKO 構成・原文/井尾淳子