【教えていただいた方】
日本産婦人科学会専門医。医学博士。妊娠・出産はもちろん、思春期、更年期、老年期の女性に寄り添い、40年以上診療を続けている。著書に『婦人科医が不安と疑問にやさしく答える 更年期の処方箋』(ナツメ社)、『50歳からの婦人科 こころとからだのセルフケア』(高橋書店)など多数。
閉経までの道のりは、人によってさまざま。
トラブルや不安がある人も多く、それを我慢しないでどう対処していくか。これについて考えていくにあたり、まずは、閉経ってそもそもどういうこと? という疑問から考えてみました!
Q 閉経とは文字通り「月経がなくなること」ですよね?
「そうではあるんだけど、それには『ただし』がつくんです。手術も何もしていない自然の状態で月経がなくなったら、なのね。
閉経するのはなぜかというと、老化とともに卵巣が働きを止めてしまうから。自然消滅という感じかな。
卵巣が満足に働けない。働いたり働けなかったりするから、閉経に向かっているときはイレギュラーな月経になります。
そしてとうとう卵巣がホルモンを作らなくなって排卵もしなくなる。その影響を受けて、赤ちゃんのベッドである子宮内膜はもう厚くならない。
厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちる、つまり出血することを月経というのだけど、もう厚くならないから月経もこない。だから、月経と直接関係してるのは子宮だと思われるけど、実は、月経は卵巣に依存してるわけです。ここ大事ね」
Q 手術して子宮を取った人は、その時点で月経がなくなります。これは閉経といえますか?
「だから、前で説明した通り、それは閉経とは言わないの。なぜなら、卵巣が働きをやめた時点を閉経というからです。
つまり、正確には月経が止まることが閉経ではないということね。卵巣で決まるのだから、卵巣が働いていたらたぶんまだホルモンが出てるし、排卵もしてる。
『子宮を全摘して生理がないんだけど、おっぱいが張ります』っていう患者さんがいるけど、それはまさに卵巣からホルモンがまだ出てるから。閉経じゃないんです。
卵巣を取ったら? ひとつ残っていればまだ機能はあります。両方の卵巣を取ったら? それはもう“自然体じゃない”閉経。外科的に閉経したということになるんです」
Q 自分の閉経がいつなのかを知るには?
「本来は、月経がなくなって1年たったら『最後に月経がきたとき』を閉経とみなします。
例えば、昨年10月に月経があって、それ以来今年の10月になってもこない場合、1年前が閉経。『昨年の10月に閉経した』ということになります。そしてその最後の月経のときが閉経した年齢。
閉経の年齢は個人差が大きいけれど、だいたい45~55歳の間。平均すると50歳。
地球上の全女性の閉経年齢は平均50歳なの。北極でも赤道直下でも、欧米人でもアジア人でもみんな50歳。これ不思議でしょう。
50歳以上で子どもを産んだら子育てが大変だものね。これはほんとうまくできてるのよね」
Q 子宮を取って月経がこなくなった人の閉経は、いつになりますか?
「月経では判断できないので、これは卵巣の機能を調べないとはっきり言えないですね。
血液検査でホルモン値を調べたら、閉経しているかどうかはだいたいわかります」
指標にするふたつのホルモン値
●E2(卵胞ホルモン=エストロゲン)
卵巣から出る女性ホルモンのうち、女性の生殖器と全身の健康に大きな影響を与えるホルモン。
●FSH(卵胞刺激ホルモン)
脳から出るホルモンで、卵巣に対して「エストロゲンを出せ」と命令する役目。
「全体像を見るのにLH(黄体形成ホルモン)も調べることは調べるけど、閉経しているかどうかは、このふたつだけでわかるんですよ」
閉経しているかどうかの目安は?
「血中E2は、ご存じエストロゲンの数値。これは閉経に向けて下がります。
若い頃は80~100なんだけど、閉経に向かうと40とか30とかに下がります。閉経したら10以下の1桁。
閉経前は乱高下するので、日によって50だったり100だったり数値はかなり変わるけれども、目安にはなりますね。
FSHのほうは、閉経に向かって数値が上がっていきます。卵巣の働きの低下に敏感に反応するのね。エストロゲンの分泌が少ないと『出せ出せ』と増える。
エストロゲンが出ている若い頃はFSHは1桁なんだけど、エストロゲンが乏しくなると2桁の数が大きくなる。閉経したら3桁になることもあります。
FSH が高い値の人は、さすがにエストロゲンも10以下。ほとんど砂漠状態に近くなります」
Q 月経がしばらくこない人が、閉経が近いかどうか知る場合も検査でわかる?
「婦人科に行ったらいろいろわかります。内診したり血液検査したりして。月経が不順で困る、なんていうのも全部コントロールできるんですよ。
不妊治療でもやるAMH検査(抗ミュラー管ホルモン検査)という血液検査でも、閉経かどうかを予測することができます。卵巣に残っている卵子の数を測る検査です。
残っている卵子の数が多ければ閉経はまだ先だけど、残り少なかったら閉経が近いことになるわけね」
「女性はね、お腹の中にいる胎児のときにすでに卵子を持っているんです。胎児のときがいちばん多くて卵巣に300万~700万個もの卵子を持ってるの。卵子を持って生まれてくるんだけど、生まれてくる頃にはもう30万~200万個になってしまう。
思春期にはもっと減り、20代で10万個、30〜40歳くらいだと3万個。
卵子は月に1回、1個排卵されるから、1年に12個ね。だいたい15〜50歳までに、12個×35年で400個以上排卵される計算。
一生で400個の卵しか出さないのになぜ3万個もあるかというと、1回1個排卵するたびにたくさんの卵子が消費されて、いちばんタイミングのいい子だけが排卵されるからです。
40歳くらいで3万個あった卵が、閉経が近づくにつれて5000個になっちゃう。その後も500個400個300個…と、ジリ貧になりながらもなんとかホルモンを作っているのが閉経前後。更年期ね。
閉経したら卵子の数はゼロになっていく。だから検査で、卵巣に残っている卵子の数を測れば閉経の時期がだいたいわかるのです。
閉経とは、卵巣の中に卵子がもう残っていない状態ともいえますね」
月経の乱れがどうして起こるかもわかりました。
次回からは、月経が不順で困る、なんてお悩みをどうコントロールできるのかについて、毎週金曜に伺っていきます。
グラフ作成/小柳東子 取材・文/蓮見則子