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閉経前に更年期の症状が出たら、ホルモン補充療法(HRT)はやるべき?

ホルモン補充療法(HRT)は、女性ホルモンのエストロゲンを薬で補う療法。低用量ピルのおよそ10分の1程度のエストロゲンを、飲み薬や貼り薬、塗り薬などで補います。閉経前の女性には向くの? 向かないの? ホルモン補充療法に詳しい二人の産婦人科医師に伺いました。

閉経しているいないにかかわらず、更年期不調があれば始め時です!

【教えていただいた方】

対馬ルリ子
対馬ルリ子さん
産婦人科医・医学博士
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1958年生まれ。対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座・新宿理事長。女性の生涯にわたる健康推進活動に積極的。『「閉経」のホントがわかる本 更年期の体と心がラクになる!』(集英社)が大好評。

 

更年期の入り口にいる人の不調ですね。個人差はありますが、閉経してからよりも閉経前のほうが症状が重い人は多いんですよ。

閉経していてもいなくても、卵巣の働きが低下していて更年期の症状があると医師が判断したら、それはホルモン補充療法(HRT)の始め時です。

閉経は月経がこないことではなく、本当は卵巣年齢で判断すること。卵巣の状態は受診してみないとわからない。婦人科の医師が一緒になって考えてくれないと、自己判断は難しいですよね。

 

一般的にホルモン補充療法始める理想的なタイミングは、閉経前から閉経した後の早い時期。閉経後10年以上たってから始めるより、健康上のメリットが大きいんです。

以前、乳がんのリスクが高まるとして、ホルモン補充療法の継続は5年まで、なんて言われていた時期も確かにありました。現在は、日本女性医学学会のガイドラインでも、期間に制限はないんです。何年続けてもいいの。

そして、がんのリスクも上がるより下がるもののほうが多いです。むしろホルモン補充療法によって、病気もリスクの下がるほうが多いしメリットのほうが大きい。それくらい常識が変わってきているわけです。

 

2021年11月から発売されている、天然型黄体ホルモン剤(エフメノ®カプセル)なら長期間飲んでいても乳がん発生率はホルモン補充療法を行っていない人と変わらない、という研究結果があります。

ただ、残念なことに、保険適用の更年期治療は「説明に時間だけかかって収入にならない」ので、積極的に取り組まない医療機関も多いようです。

ホルモン補充療法をしてみたい人は、女性医学学会専門医や、ホームページなどで治療内容にHRTを掲げている、更年期治療に前向きな医師をかかりつけ医に選びましょう。

 

〈むやみに怖いイメージを持たないで。ホルモン補充療法は安全です〉

そもそも日本人女性はピルさえも見たことのない人が多く、ピルは避妊のためだけに飲む、危険な? ものだと思っている人がまだいます。

「ピルで月経は軽くなるし、体調もメンタルも安定するし、なんて楽なの!」ということを経験したことがある人は、ホルモン補充療法もやってみようと、わりとすんなり思えるようです。

 

なぜだかわからないけれど「HRTは怖い」「ホルモンは怖い」「乳がんになるんじゃないか」と、古い知識が邪魔してる。全員が乳がんになるみたいな勢いで怖がっている人もいますよね。

ホルモン補充療法を5年間続けた場合、乳がんリスクは1.28倍。わかりやすく言うと「1万人当たりに30人の乳がんリスクが38人に増える」という程度。

それは飲酒など生活習慣による乳がんリスクと同じかそれ以下。ほとんど生活の中でのリスクと変わらないんです。

 

でも、心配と不安で思考が固まっているときにそんな説明をしても、全然頭に入っていかないんです。ずっと不安感とか焦燥感みたいなものがあってイライラしてるのに、数字なんて聞いていられないみたい。

 

クリニックに来ている患者さんによっては「あなたの場合、ホルモン補充療法をやってもリスクは全然低い。そもそも毎年検診をちゃんと受けてるんだから、まったく大丈夫よ〜」って言うと、「そうなんですね、よかったぁ〜」と、ホルモン補充療法を1カ月お試しすることになったりすることもあります。

自分のこととして言ってもらえると、やってみたいと思えるんです。そういうことを伝えながら、次回は漢方薬もやってみたりしてね。

そうすると「やっぱり漢方じゃいまいちです。漢方はこういうところがよかったけど、もう少しこうなるといいな」とか、だんだん意欲が出てくる。

あれもこれもやってみたい。「ついでに院内の皮膚科で美容もやりたいです」みたいになるんです。美容までいくと、かなり調子がよくなった証拠。

 

更年期世代の女性は今、社会的な重要性が増しているし、医者のほうもきちんと更年期に向き合えるような環境が徐々に整いつつあるので、これが全国に広がるといいなと思いますね。

 

 

安全な薬も出ているのだから、ホルモン補充療法をやらない手はない!

【教えていただいた方】

八田真理子
八田真理子さん
産婦人科専門医
公式サイトを見る

幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行う地域密着型クリニック「 聖順会 ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」院長。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。

 

つらい症状が女性ホルモン(エストロゲン)の低下によって起きているのであれば、ホルモン補充療法(HRT)で断然、改善が見込めます

逆に、ホルモン補充療法を試しに1カ月やって、それで改善されないのならホルモン低下による症状ではない可能性もあるということ。

どちらにしても「更年期の症状かも…」と婦人科を受診したら、内診をしたり血液検査でホルモン値を調べたりして、体が更年期レベルにあるかどうかを調べます。

 

乳がんの経験者や治療中の人、血栓症や動脈硬化がある人、重い肝臓病の人など、ホルモン補充ができない人もいますけど、できる人はやったほうがいいといえます。
子宮筋腫がある人でさえも、確認しながらホルモン補充療法ができる時代です。

ホルモン補充療法は、経皮タイプのエストロゲンと天然型プロゲステロンを使えば、血栓症や乳がんリスクを上げないことがわかってきました。

より安全で使いやすいお薬が登場しているから、もう、やらない手はないのでは? と思います。

 

私自身もホルモン補充療法をやっていますが、一生続けていくつもりです。今後、年齢に従って少しずつ減量しながらですけれど。

ホルモン補充療法というのは、ホルモン量の揺らぎが大きくてアップダウンを繰り返している時期に少しホルモンを補って、揺らぎを少しなだらかな波にするのが目的。閉経前でももちろんやってOKです。

補う量はほんのちょっぴり。30代と同じホルモン値にもっていくわけではないの。低用量ピルよりホルモン量は少ない薬なんです。

 

〈知識の差が、見た目の若さにも反映されてしまう時代です〉

ホルモン補充療法(HRT)の存在はだいぶ知られてきましたけど、躊躇している人はまだ少なくありません。

「そこまでしなくてもいいかな」のそこまでって何? とか。

「がんのリスクがあるんですよね?」って。安全なことは明らかなのに、とか。

あと、「お金がかけられないし」とかね。なぜか高価なイメージがあるの。

健康保険がきく処方薬なので、3割負担で、ひと月2000円から3000円ですよ。

あとは「通院がめんどくさい」も、よく言われます。「3カ月に1回の通院でいいんですよ?」と言っても「忙しいし〜」なんて言われてしまいますね。

 

40代、50代は働き盛りだし、まだ子育ても残っているし、親の介護が始まったりで、大変な時期ではあります。

でもね、不調があるまま年齢を重ねたら、今度はもっと医療費がかかる。本当に病気になっちゃうんです。病気とはいえない更年期の症状を抑えたほうがよっぽど得策です。

 

ほかにも「夫がうんって言わない」という理由。これは自分のことじゃない、自分で決めましょうよ、って伝えたいですね。

私は患者さんに「なんでなんで?」「なんでやりたくないの?」としつこく聞いてしまうんです。だって、絶対やったほうがいいと思ってますから。

 

自分の中で、医療の進歩を受け入れられない、でも不調で困っている。それがよく言われる知識のなさ、リテラシーの低さ、ではないでしょうか。

「私はこのままでいいわ、これは仕方ない」なんて言っていたら落ちていくばかり。残念ながら、前向きでない考え自体が自分を苦しめていると言わざるを得ません。

それは知識不足、健康リテラシーが低いということですよね。逆にリテラシーの高い人も増えているから、格差はかなり広がってる。つまり、二極化するのが更年期なんです。

60歳を越えてもきれいな人、いっぱいいるでしょう?  知識がなくてみるみる老けていく人と若くいられる人の差が、どんどん開いていくってことになっちゃいますよね。

 

 

イラスト/Shutterstock  取材・文/蓮見則子

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