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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン5 大人女子の恋愛事情 第2話 桂子のリモート恋愛

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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2年ぶりに瞳の家で集まった桂子と美穂。3人の大人女子たちが、コロナ禍で拾った愛とは。作家・横森理香の連載小説「mist」シーズン5は、コロナ禍の東京を撮影した写真集が話題の写真家・初沢亜利氏の作品とコラボ。写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」の作品と一緒にお楽しみください。

初沢亜利

撮影/初沢亜利 写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」より

 

第2話 桂子のリモート恋愛

 

瞳は何十年ぶりかに再会した幼馴染、お茶屋のケンちゃんと付き合い始めた。

とはいっても、たまに遊びに行くだけで、結婚するつもりはまだない。

 

「もうちょっと年取って、寂しくなったらとか?」

美穂に聞かれても、

「いやー、猫たちと一人暮らしが一番ラクだからさぁ」

と嫌な顔をする。正直、ケンちゃんのお母さんのお世話は瞳には無理なのだ。

ケンちゃんは、母親に介護が必要になったら施設に預ける、なんなら瞳の父親とおんなじ施設はどうかと、酔うたび迫っているのだが。

 

「あ、そういえば今日タミコ来てないじゃん」

桂子がその存在を思い出して言った。

「タミコ猫拾っちゃってさ。一人で置いとけないからって、今日は来ないよ」

「えー?! あれほど猫おばさんになっちゃうのヤダって言ってたのに」

「そうなんだけどさ、なんか。ショックなことあったみたいで。そのタイミングで子猫拾った」

 

 

タミコは12月の頭にキジトラの子猫を拾ってしまい、猫なんか飼ったこともないものだから、瞳にSOSを出した。瞳はラインで指示して子猫のトイレから猫ミルクから餌から用意させ、とにかく子猫が無事育つような環境を整えてもらった。

 

しかし、

「どーしよー、小虎がいない💦

と早朝にライン電話があることもあれば、

「どーしよー、目がこんなことになっちゃってる」

と動画で見せられたりした。

 

瞳はその映像を皆に見せた。子猫の左目が閉じ、右目は赤く腫れている。

「えー、可哀そう」

「タミコ部屋の掃除しないじゃん? 猫は慣れるまでベッドの下に隠れたりするもんなんだよ。埃で目がやられちゃって、ヤニでくっついちゃってた」

「ひどいね」

「まず掃除させて、動物病院連れてかせたんだけどね。今度はその先生がイケメンだとか大騒ぎでさー」

「相変わらずだねぇ」

「さすが魔性の女」

 

桂子は腰の軽いタミコを、どこか気に入らないのであった。

ハプニングの連続で、結局瞳は、タミコのマンションに通い、落ち着くまでお世話をしなければならなかった。

「いや、大変だったよ。よっぽどうちに引き取った方が楽だった」

「だよねー」

美穂がもう一つの富山名物、鱒のお寿司を開いた。

「いい香り~」

笹の葉にくるんである熟れ寿司だ。

「これも日本酒に合うよね」

「うんうん」

 

 

三人は鱒のお寿司をほおばりつつ、酒を酌み交わした。

「あとで天ぷら揚げるからさ。海老もすみいかも下処理してある」

「やったー! 蕎麦も手打ちでしょ?」

「うん」

美食家の瞳は寿司だけでなく、コロナ禍の自粛生活で蕎麦打ちまでもマスターしてしまったのだ。

 

「で、桂子のインド人の彼、どうした?」

瞳がガリをカリリとやりながら、聞いた。

「いや、国に銀行送金しようとしたんだけど、うまくできないから手伝ってくれって言われてね」

「あ~、日本語ヘンだって言ってたもんね」

「そうそう、今日カレーすくりました、とか言うから、作りましただよって、いちいち直してたんだけどね」

「んで?」

 美穂が鱒のお寿司をほおばりながら急かす。

 

「私もこの二年、どこにも出かけてないから、新幹線で静岡にサクッと行ってきたのよ」

「いいなぁ。私なんてケンちゃんちしか行ってないよ」

ケンちゃんちは浅草の近く、瞳の故郷だ。

「地下鉄で行ける、観光地てか?」

「それなー」

「んで?」

「でさ、静岡銀行一緒に行って、国際送金一緒にやってあげたんだよ」

「へー、優しい~」

「驚いたことにやつ、金持ちでさ」

「マジで!?

「貯金、一千万円ぐらいあるの」

「うっそ」

「大学出てから五年間、一人暮らしじゃん? この二年はコロナ禍で出かけてもいないから、たまり放題だよ」

「んで?」

美穂は話を急かし、瞳は天ぷらの準備をし始めた。

 

 

「正月二年ぶりに国に帰るから、500万ぐらい送金したいって。どうせリモートワークだから、しばらくインドにいるみたいよ」

「へえ、親孝行だね。500万って、インドじゃ相当の価値でしょう?」

「いや、実家に入れるわけじゃないと思うよ。実家も金持ちなんだもん。サーバント付きの邸宅だよ」

桂子はライン上の写真を探して見せた。鬱蒼としたトロピカルな庭の中に、なんだかクラシックな豪邸が建っている。

「うっそー」

「え、どれどれ見せて」

 

瞳がキッチンから手をふきふきやってきた。天ぷら粉が床に舞い散る。

「スゴイ!  桂子その子と結婚して、私たちを招待してよ!」

「結婚とかありえないでしょう。二十歳年下だよ?」

「えー、でも愛されてるんでしょう? その・・・」

「さっちゃん?」

「そうそう、サッチャブラータに」

「カワイイ可愛いって、言われてるんだよね」 瞳が桂子をからかうように言う。

 

「そうなの。お前の母親ぐらいの年だよって、言ってんだけどね」

「でもあれでしょ? 日本女性はもっと自分に自信を持った方がいい、外国人から見たら信じられないぐらい若いし、カワイイから。肌がきれいだし、仕草もすごくカワイイって、言われてるんだよね」

「そうなんだよ、困ったもんだよ」

と言いつつ、桂子は嬉しそうだ。

 

なんだかしばらく会わないうちに、髪にピンクのインナーカラーを入れ、服装もジーンズにパーカーとなっていた。太っていてもち肌で、皺もないから、ともすると大学生に見える。

 

「で、銀行送金したあとどうしたの?」

美穂が聞く。

ハッテンしたのかしないのか、それが問題だった。

 

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

◆次回は、3月22日(火)公開予定です。お楽しみに。

 

★初沢亜利さんの写真集「東京 二〇二〇、二〇二一。」は、こちらからどうぞ。

 

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