よい呼吸のポイントは「横隔膜」の動き
肺の下、肋骨にくっついている横隔膜は、その名前から想像するような「膜」などではなく、れっきとした筋肉です。筋肉なら、例えば腹直筋のように自分の意思でぐっと力をこめたり緩めたりできるのでは?と想像しますよね。
ところが、横隔膜はインナーマッスル(体の深いところにある筋肉)のひとつ。表面から触ることもできなければ、ちゃんと動いているのかどうかを確認することもできません。脳の指令が届いても、横隔膜には受容体と呼ばれるセンサーの数が少なく、そもそも自分で動きを把握しにくいのです。
呼吸(肺の動き)を助けるメインの筋肉が横隔膜なのに、その動きがわからないとすれば、いったいどうしたら…?
その答えを知る手がかりが、肋骨の位置です。
「肋骨がポコッと浮いている、つまり開いてしまっている状態というのは、その時点ですでに息が肺にたまっているということです。肺に息がたまっていたらこれ以上は吸えないはずなのに、首や肩、腰、背中など体のさまざまな筋肉が本来の動きではない動きでサポートしてくれる。そのため、そんな状態でも息をどうにか吸えてしまう。これが浅い呼吸をしているということなのです。
これを1日約2万回繰り返し続け、変な呼吸のクセがついてしまえば、それを無理にサポートしている筋肉が疲弊して、肩こりや首・腰の痛みなど、さまざまなトラブルにつながることは容易に想像できますよね」(大貫崇さん)
そのことを頭に入れて、呼吸の練習をしてみましょう。
【STEP1】
「吐いて・止めて・吸う」をリピート!
長くしっかり吐ききることを第一に考えて
【STEP2】
息を吐いて「肋骨を下げる」練習。
慣れたら下げたまま「吐いて・止めて・吸う」
見ておわかりのとおり、やり方は簡単。なのに「そう簡単にはうまくできない!」という声が多数聞こえてきます。
「呼吸の“クセ”は十人十色。どこがどううまくいかないのかはその“クセ”によって変わってきます。以下のような悩みは、よくあることなので、安心してください!」
≪うまくいかない呼吸「あるある」≫
●どうしても長く吐けない
●吐けないので呼吸が止まってしまう
●吐ききる前に、必ず吸ってしまう
●ゆっくりと呼吸ができない(苦しい)
●苦しいので口から吸ってしまう
●肩で息をしてしまう
●肋骨が下げられない
●肋骨を下げたまま吸うことができない
●横や後ろ、360度まで息が入っていかない
●どうしても腹筋に力が入ってしまう
●腰や背中が反ったまま息をしてしまう
●どうも呼吸に集中できない
【対策1】
「もっと吐ける」ことに気づく
「息を吐くとき、まだ空気が残っているのに『もう無理ーっ』と吐けなくなる人もいます。これは『もっと吐けるはず』と気づいていないから。途中でやめずに、ちょっと苦しくても吐き続けていると、意外と吐けるようになったということが多いのです」
【対策2】
呼吸の邪魔をしている背中の筋肉をストレッチする
「横隔膜が自然に動いてほしいのに、どうも動いていない、肋骨が下がっていてくれないという人。何か邪魔をしている筋肉があります。それは背中や腰の筋肉のことが多いのです。邪魔者には黙っていてもらいましょう。体側から背中を伸ばしてストレッチ。もし相手がいれば手と手を握り合い、脇を伸ばしてお互い引っ張り合って。一人なら、ドアノブなどに片手をかけて伸ばしましょう」
【対策3】
先に動いてしまう「腹直筋」の付け根をほぐす
「横隔膜は、息を吸えば動く、前述のとおりのインナーマッスルです。動いているのか動いていないのかは、外からはよくわかりません。よくあるのは、頑張って動かそうとして、アウターマッスルである腹直筋に力が入ってしまうパターン。この場合の邪魔者は腹直筋です。腹直筋は肋骨についているので、みぞおちを肋骨に沿って手でほぐしてみると、腹直筋が勝手に入ってしまうのを避けられますよ」
【対策4】
「吸わなくても死なない!」と思い直す
「どうしても吸いすぎる。吐いたらすぐに吸いたくなる。『吐いて〜』と言われると、先に吸ってからしか吐けない。などは特によくあるパターンです。吸いすぎるのは、息を吐いているうちに苦しくなり、怖くなってしまうからだと思います。でも、そう簡単に死んだりはしません。ちょっと苦しいな、と思ったところから意外と吐けるものです。
僕自身、息を吐きすぎて大変なことになったことがありません(笑)。案外、『そんなに吸わなくても死にはしない』ものですよ」
【対策5】
「そのうちできるようになる」と気楽に考える
「今日練習を始めて、すぐに呼吸の“クセ”が改善できる人はいません。なにせ、40年も50年も無意識にやってきた呼吸です。歩くなどの日常動作以上に、修正するのは難しいもの。焦らずに地道にコツコツ、肋骨や呼吸を気にしながらで生活してみてください」
「呼吸が変わった」が近づく!ビフォーアフターを自分でチェック
第1回、第2回で紹介したセルフチェックを行う習慣をつけましょう。
「1分間の呼吸数や、呼吸のクセなどは、日によっても変わります。また毎日地道に続けていれば、2、3週間で変化に気がつけるはずです」
【習慣にしたいセルフチェック】
(こちら(第2回)参照)
□1分間の呼吸数
□呼吸のクセ
□胸の傾き
□肋骨の開き
□お腹と胸の動き
まとめ★呼吸が変わると、こんなイイコトが起きます!
「呼吸が変われば、体にも心にも変化が起きることは数えきれません。更年期の不調も呼吸が変わるときっとよい方向に向かうはず。これだけ呼吸だけをやってきた私が言うのだから、本当です。一見、呼吸と関係のなさそうな悩みが解決してしまった人をたくさん見てきています。
整形外科的な痛みのある人が改善したり、メンタル面でクリニックに通っていた人がすっかり元気になったり、スポーツのパフォーマンスがアップするなんていうのはもちろんです。
40代以上の女性が感じる不定愁訴などは、呼吸改善によってよくなることがいっぱいでしょう。『呼吸が変われば人生が変わる』。そう言っても過言ではないのです」
≪呼吸が変わるとこうなれる!≫
心が落ち着く
自律神経が整う
ポジティブになれる
ストレスに強くなる
集中力がアップする
姿勢がよくなる
疲れにくくなる
体温が上がる
血圧が下がる
免疫力がアップする
腰痛や関節痛が改善する
胴まわりが引き締まる
背中のぜい肉が取れる
↓
40代、50代女性の更年期特有のさまざまな悩みが解決するのです!
【教えていただいた方】
1980年神奈川県生まれ。呼吸コンサルタント。アスレティックトレーナー。京都にある呼吸専門サロン「ぶりーずぷりーず」主宰。大阪大学大学院医学系研究科 健康スポーツ科学講座スポーツ医学教室 特任研究員。呼吸に関連した企業研究や商品開発など法人向け呼吸コンサルティング事業を展開し、アスリートから高齢者まで呼吸目線でのコンディショニングに従事。著書に『きほんの呼吸 横隔膜がきちんと動けば、ムダなく動ける体に変わる!』(東洋出版)など。
【呼吸についての悩みや質問、大募集】
この連載では、大貫さんへの質問を募集しています。
●連載の内容でよくわからなかったこと、うまくできなかったこと
●自分の呼吸についての悩みや困ったこと
●呼吸についての素朴な疑問
連載内容についての感想などもOKです。大貫さんにお答えいただく予定です。
こちらからお気軽にどうぞ!
撮影/露木聡子 取材・文/蓮見則子