【答えてくださった方】
幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行う地域密着型クリニック「 聖順会 ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」院長。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。
♦セックスをしないのは、体によくないのでしょうか?
パートナーはいるけどセックスレスの状態が続いているのか、そもそもパートナーがいないのか…。
どちらにしても、したくないということ自体はおかしくないし、年とともに性欲が弱くなっていくのもおかしいことではありません。
腟が緩んだり子宮脱になるのでは、という質問ですが、更年期世代の女性が長い間性交していないからといって、緩むわけではないですね。
そもそも腟は年齢とともに萎縮してくる。
つまり腟の中は逆に狭くなって入らなくなる傾向にあるからです。
また、セックスレスが原因で子宮脱(子宮脱とは、骨盤底筋が弱くなって子宮が腟の外に下りてきてしまう状態のこと)になるということもないはずです。
私の経験上、子宮脱が多く見られるのは、二人以上出産して骨盤底筋のダメージが大きかった方、大きな赤ちゃんを時間をかけて産んだ方、体質的にもともと骨盤底筋の筋繊維が弱い方など。
70代80代で子宮脱になっている人も少なくありません。
昔なら50歳で閉経して寿命が来ていたから、子宮が下りて困るなんてこともなかったんでしょうけれど、現在は閉経の後の年月が長いですから。
高齢で子宮脱になっている方なら、娘さんがいる場合、体質は似る傾向にあります。
私のクリニックは地域に根差しているので、母娘で通っている方も多いんです。三世代にわたって診ている方もいるほど。
親子で顔かたちがそっくりなように体型や筋肉の質やつき方も似ているように感じます。
子宮脱もある程度遺伝する傾向がありそうです。
確かにセックスをして腟と骨盤底筋を使っているほうが、子宮が下がりにくくなるかもしれません。
頻尿や尿もれなどの排尿障害になりにくいというデータはあります。
子宮脱だけでなく、膀胱や直腸が下がってきたりする「骨盤臓器脱」を予防するためのポイントは…
よい姿勢をキープし、骨盤底筋をいつも意識してキュッとしておくこと
排便に時間をかけない(3分以上いきまない)こと
骨盤底筋に負担をかけないよう体重を増やしすぎない、痩せすぎないこと
この3つが大事です。
♦気持ちいいセックスは美と健康にイイコトいっぱい!
そうはいっても、セックスは心身ともにいいことがたくさんあります。
年を重ねてもセックスをし続けている女性は、若々しいしあかぬけて見えます。何より「愛されている感」を醸し出している感じがするのです。
「女性は灰になるまで女」と言われるように、いくつになっても美しく若々しい人は、きっとそうなんだろうなぁ♡と思って見ています。
日本人はシニア世代になると「性生活があるほうがおかしい」なんて言う人もまだいます。いや、そっちのほうがおかしいでしょう。
これからは人生100年の時代ですから、年齢はもはやただの数。
セックスはプレジャー。優しくし合ったり喜びがあることが大切です。
腟を使うということだけでなく、精神的にもいいことがある。
気持ちのいいセックスをすると、脳からは愛情ホルモン「オキシトシン」と、幸せホルモン「セロトニン」が放出されます。
特にオキシトシンは、分泌されるとより優しい気持ちや幸せな気分になるため、「思いやりホルモン」「幸せホルモン」「ハッピーホルモン」「絆ホルモン」「恋愛ホルモン」とも言われています。
よく「セックスできれいになる」と言われるのは、女性ホルモンが増えるというよりも、幸せな時間を過ごすことでオキシトシンが増え、毎日が充実して表情も変わったり、外見にも気を使って美容やファッションに時間をかけたくなるためでしょうね。
もう一度恋愛したいか? というOurAgeの読者アンケートの集計結果を紹介した記事がありましたね。
「恋人やパートナーは欲しいけれどセックスまではしなくてもいい」という声も多かったようですが、やっぱり相手がいれば恋愛の延長上にセックスがあったほうが絶対いいと思うんです。
更年期世代で「もうセックスはしなくてもいい」と思っている人は、もしかしたら、腟の潤いがなくなり、セックスのときに痛みや出血があったり、あまりよくない経験があるのかもしれません。
または、パートナーがセックスを求めてきても、気分が乗らなかったり自分の気持ちを抑えてイヤイヤながら応じてしまうことが続き、嫌になっている人もいますよね。
自分の気持ちに反し、無理にセックスするのはおすすめできません。
長期間セックスレスだとしても、それで自分が不満を感じていなければまったく問題はないのです。
取材・文/蓮見則子