50代の女性が夫とのセックスで
言われたひと言とは
OurAge読者の皆さん、こんにちは。富永ペインクリニック院長、富永喜代でございます。
何かと衝撃発言の多い連載だったかと思いますが(笑)、皆さんの性にまつわるQOLを高める一助となっておりましたでしょうか?
何かひとつでも、不安や疑問の解消につながることがあれば幸い。
半年間おつき合いいただき、本当にありがとうございました。
さて、最終回となる今回。皆さんへのメッセージとして、私のクリニックに来院した、とても印象的な二人の患者さんのケースをお届けしたいと思います。
一人めは、50代既婚の女性。
彼女の悩みは、次のようなことでした。
「私と夫は今も愛し合っていて、週に一度セックスをしています。それが最近、夫が射精まで至らずに終わるようになってしまいました。夫からは、“お前のあそこが緩いから”とも言われています…。私の女性としての性的魅力がなくなったから、夫は最後までいけなくなったのでしょうか?」
性交痛外来は腟萎縮の悩みだけではなく、こういったご相談の患者さんもおるんよね。ホント、人生いろいろです。
で、夫に「緩い」と言われたその彼女。「セックスで夫を満足させる自信がなくなった」と、ちょっと極端な方向に走っていました。
それまではしたこともない、手やら口やらのプレイに励んでいるというではありませんか…。けんど、夫は引いてしまい、「そんなことはしてくれるな。今まで通りでいいんじゃ」と言われる始末。なんだかごっつい空回りをして、こじらせてしまっている様子だったのです。
女性だけが自分を卑下するのはおかしい
「夫を満足させられない」ということで、自分を責め立てているように思えた彼女に、まずはその考えを改めてもらおうと、私はこんなふうにお伝えしました。
「あなたの気持ちはわかります。でもね。ダンナさんはあなたを“緩い”と言うけども、実は彼自身も、若いときとは同じ勃起力を、もう維持できなくなってきている年齢であることは理解していますか?
男性も50代になったら、セックスの途中でいわゆる“中折れ”して、射精しにくくなる。だから、そういう治療を受ける人って、たくさんいるんですよ」と。
本当は彼女にではなく、夫を呼びつけて、「ヨメのせいにしとるけど、お前のペニスが縮こまっとるせいや!」と叫びたいのをグッとこらえ(笑)、冷静に説明いたしました。
読者の皆さんにもお伝えしておきたいのは、性交痛外来の現場を通じて見てきた、こういうちょっとずるい男性心理のこと。
「お前が緩いから」とか、「お前のあそこは黒ずんでるな」とか、セックスのコンプレックスを女性の体のせいにして、心理戦で優位に立とうとする男性って…少なからずおるんです! ムカつくわぁホントに(怒)。
だから私は、その患者さんにはさらにこう続けました。
「腟の緩みが気になる人は、おへそから下の筋肉を運動で鍛えることが改善策なんですよ(腟トレは前回に載っているので、未読の方は参考にしてね♡)。
そして、ウォーキングでもピラティスでもいいので、運動を習慣化しましょう。そのうえで、“私は、自分がやれることはやっとる。文句があるなら、お前も努力しろ!”というくらいの心持ちを持ってほしい」と。
年齢で自分を卑下したり、相手が自分の恥ずかしさを隠すために発した心無い言葉で自分を責めたりしとる場合じゃないんですよ。
…まぁ、この人の場合は相手がダンナで、「愛している」ということだから、いたずらに事を荒立てる必要はないんですけどね。
でも中には、離婚後にできたパートナーとか、ワンナイトの相手から、そんなことを言われる女性もようけおるんです。
「この期に及んでそんな失礼なことを言う男なんて、こっちから願い下げじゃ! それぐらいのことは言うたれ!」と、診療でもつい熱がこもってしまうわけなんですが…。
けんど。そういうことが言えるかどうかということも、大人の女性としては非常に大切なことだと思うんですよ。
運動とかストレッチとか、あらゆるフェムケアの習慣を続けることは、体を鍛えると同時に、「自分を守っている」という心を育むことでもあるんよ。「私はやるべきことをやっている!」という自信にもつながるし、もちろん健康のメンテナンスにだってなる。
スポーツ選手のトレーニングもこれと同じでしょ? スランプのときだって、「自分はこれだけ練習してきたんだ」という努力に裏打ちされた自負こそが、選手の背中を押してくれるわけじゃないですか。
60歳には60歳なりの、
幸せなセックスがある
さて、二人めの患者さんのお話です。
彼女は60歳既婚。この方は、夫とのセックスのときに性交痛があってほぼ挿入ができないので、いわゆる一般的な市販のゼリーでマッサージをしているけれども、改善せずに困っている…ということで来院されました。
そこで、本連載でも紹介した腟のマッサージ、セルフプレジャートイを伝授。彼女は毎日努力して、2カ月後。「先生に教えていただいたケアを続けたら、保湿感が出てきて、濡れるようになり始めました!」と報告してくれました。
この彼女はね。以前は更年期症状に悩んで、婦人科でHRT(ホルモン補充療法)もトライしていた人だったわけ。で、妻のそうした努力を知っていた夫が、私のクリニックを調べて、勧めてくれたという協力体制もあったんよ。さらに半年後の来院では、性交痛はほぼなくなったそうで、こんな話もしてくれました。
「先生。私、今回の体験ができてよかったです。先生の本やブログを読んで、お互いにもう若い頃とは違うんだということが、私も夫も認識できたんです。おかげで、お互いを思いやることがベースになったセックスが、ようやくできるようになりました。痛いときは痛いと言える関係になれた。だから、今のセックスのほうが、若い頃よりも気持ちがいいんです。意識を変えることができて、本当に幸せです」
…どうですか? いい話でしょう(涙)。
この患者さんは、先述のセルフプレジャートイを使って、腟の奥を押し広げるトレーニングをされたんやけんど、「昨日はここまでできた。今日はここまでできた」と、ダンナさんに報告して、いつも応援してもらっていたとのこと。
だからね。60歳には60歳のセックスがあって、それは若い頃には味わえない、心と体が深くつながる大人のコミュニケーションなんよ。
相手のせいにしたり、年齢のせいにしたり、性をあきらめてしまう必要はない。正しい知識を学んで、情報もアップデートして、自分に必要なことは堂々とする。そんなシンプルなことの繰り返しが、男女ともに幸せな性へとつながっていくんよね。
セックス、腟、オーガズム、セルフプレジャートイ。それらのワードをいつまでもはしたないとか言うとったら、若い世代の人たちに、「え! 恥ずかしいんですか? 意味がわかりません」なーんて言われちゃう日がホントにやってきますよ?
更年期にはHRTという武器もあるし、アソコのにおいには乳酸菌もエストラジオールもあるし、腟の緩みにはセルフプレジャートイだってある。
そして、私のような専門家もいます。皆さんもどうか学び続けて、「女性の性の未来は明るい」と信じてください。
ではまた、お目にかかる日まで。
幸せな性を、あきらめずにいてくださいね。
【教えていただいた方】
富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会専門医。 1993年より聖隷浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人を超える(通常1日2名のところ、1日12名)臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。痛みの専門家として全国でも珍しい性交痛外来を開設し、1万人超のセックスの悩みをオンライン診断している。性に特化したYouTubeチャンネル『女医 富永喜代の人には言えない痛み相談室』は、チャンネル登録者数28万人、総再生数は6600万回超。SNS総フォロワー数44万人。真面目に性を語る日本最大級のオンラインコミュニティー『富永喜代の秘密の部屋』(会員数1.6万人)主宰。『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など著書累計98万部。
撮影/天日恵美子 角守裕二(花) 取材・文/井尾淳子