植物療法士・森田敦子さんによる最新刊『私のからだの物語』(ワニブックス)では、女性が一生つきあう体と性として、老年期のこと、さらに介護の現実にも触れています。
そして、医療介護の現場でも使用されているフィトテラピー(植物療法)ケアブランド「Mesoins(メソワン)」 をともに開発しているのは、医療法人社団 八千代会の副理事長・姜(かん)慧(へ)さん。「フェムケア」と「医療介護」それぞれの視点から、OurAge世代が気になる「介護脱毛」について、現場からの貴重な声を届けていただきました。
──── 40代50代にとって、介護脱毛の賛否は大きな関心事になっています。
森田さんはこれまでの著書でも、「スムーズな腟ケアのためにも、アンダーヘアはないほうがいい」というご意見でしたね。
森田:個人的な見解では、アンダーヘアはないほうが腟まわりにも意識が行きやすくなって、日常のケアも行いやすくなると考えています。腟まわりは汗や皮脂、おりものを分泌するところ。むれやすい条件が揃っていることに加えて、アンダーヘアもあるとさらに熱がこもり、においやかゆみ、炎症の原因になってしまうからです。
日本では、アンダーヘアをなくすことに抵抗のある人がまだ多く、私が20代の頃では、アンダーヘアを処理するのは「玄人の女性のすること」という考え方もあったほど。一方のヨーロッパでは、すでに「ないことが普通」です。健康面においても、ないほうがメリットも大きいということは、八千代会さんとの関わり、医療介護の現場から、目の当たりにしました。
──── 高齢者の医療や介護をトータルでサポートする医療法人社団 八千代会で、副理事長を務めておられる姜さん。
介護の現場におけるアンダーヘア問題の現状についても、ぜひお伺いしたいです。
姜:はい。その部分については、日頃から実際に患者さんのケアに当たっている、当院の看護部長の浜崎の声をぜひ聞いていただきたいと思いますので、一旦バトンを渡したいと思います。
浜崎:よろしくお願いします。アンダーヘアの量には個人差があり、年齢を重ねるにつれて、薄くなっていく方はたしかに多いと感じています。けれど、たとえその薄い毛であっても、おむつの中に便を排泄した後、「全くついていない状態にまできれいにするのは、とても難しい」という現実があるんですね。その理由は、排便後に毎回、必ずお風呂に入れてさしあげることは難しいこと。そして、おむつを長くはいていることで、アンダーヘアがパリパリに固くなってしまっている方もおられます。
──── それは衝撃的なお話ですね。
浜崎:アンダーヘアが固くなると、おむつの中でも違和感が出ます。森田さんがおっしゃったように、そこでもむれてかゆくなり、掻きむしってしまうことが多いんです。掻いてしまえばそこから雑菌が入る可能性があるし、抵抗力が弱っている時であれば、べつの病気の原因にもなってしまいます。そういったことから、医療介護や看護の立場から見ても、やはり「アンダーヘアーは、なくしておくに越したことはないのかな」と感じます。
森田:私が担当しているラジオ番組でも、「(最新刊著書を読んで)この先、自分の娘や施設の方にお世話になることを考えると、介護脱毛を今のうちにやっておいた方がいいですか?」という質問が増えてきています。
日本の文化から、「全部なくしてしまうのは恥ずかしい」と考える方もいると思いますので、私はいつも、「Vラインは残してもいいので、IラインやOラインはなるべく、なくしておいてください」とお答えするようにしています。
姜:「介護脱毛」という言葉が出てきたのも、人生100年時代になってきたからこそ、ですよね。寿命が50年60年の時代は、おむつをはく老後、アンダーヘアの関連についても、そこまで大きな議論にはなっていなかったと思います。でもこれからは、年齢を重ねた人がアンダーヘアについて考える時には、森田さんのおっしゃる腟ケアの大切さに加えて、「どうすれば自分の体を清潔に保つことができるのか」という視点から、考えていかれるのがいいのではないでしょうか。
浜崎:そうですね。実際に婦人科では、衛生面が原因で、高齢者の方が腟カンジタになるケースも非常に多いのです。
──── 「毛は大切なところを守るためにある」という意見も根強くあります。現代において、そもそもアンダーヘアの役割については、どう変わってきていると思われますか?
浜崎:私たち看護師は、医学の解剖生理を習う際、「アンダーヘアは思春期に、体が大人になる時に生え始める」という過程を学びます。ホルモンの作用から、アンダーヘアが生えるのは成長過程の一つとして捉えられているんですね。
けれども、衣類を身につけるのが当たり前になっている現代では、性器を保護するという意味でのアンダーヘアは、すでに役目を終えている、と考えてもいいのではないでしょうか?
森田:同感です。脇の毛のことを考えるとわかりやすいのですが、今はもう、ほとんどの方が脇の毛の脱毛を当たり前と捉えています。それと同様にアンダーヘアについても、今後は「ないのが普通」と変わっていくと私は考えています。見た目の問題としても衛生上の問題としても、これからは不要になっていく。今はその過程、過渡期にあるのではないでしょうか。
姜:そうですね。これからの方は、ぜひアンダーヘアについて考えていただくいいタイミングを迎えていると思います。でも今現在、高齢者で当院のような医療介護施設に入っておられるような方々は、みなさんアンダーヘアがあるのが普通。そういった方々のケアの改善についても、森田さん、そして浜崎と共に、新たな取り組みが始まっているところです。
──── アンダーヘアについては、長生きになったこと、ライフスタイルの変化に合わせて、40代50代もアップデートが必要な時期を迎えているのかもしれませんね。
撮影/石原写真事務所 石原慎太郎 取材・文/井尾淳子