ベン・アフレックは最近、“The Way Back” という映画の中で、アルコール依存症から立ち直れない高校のバスケットボールのコーチを演じ、迫真の演技を見せました。
公開直前に“ニューヨークタイムズ”のインタビューで、ベンはこの映画のコーチ役と自分のアルコール依存症との戦いが似ていて、この役が通過するアップとダウン、周辺の人達に与える理不尽な苦労などが手に取るようにわかるので、この役を引き受けた、と言ってます。
「アルコール依存は僕の人生の20年間に、出たり消えたりし続けた問題だ。今、始まったことではなく、解決した問題というわけでもない。依存症というのは終わりのない闘いで、それを自分がコントロールするしかないと受け入れてはじめて、ベターな人生がスタートすることなんだ。治らない持病と共に生きるということなんだ」と静かに語ってました。
彼のアルコール依存が10年の結婚に終止符を打ったことは、メディアが書きまくりました。このインタビューの中でも「ジェン(ジェニファー・ガーナー)との離婚は、生涯最悪の間違いだったと後悔している」と言ってます。正式に離婚したのは2018年です。
ベン・アフレックに初めてインタビューしたのは『グッド・ウィル・ハンティング』(1997)の時でした。細長い顔に優しそうで繊細で、そのくせちょっといたずら好きな感じの目が印象的でした。
幼なじみの親友で共に役者を目指したマット・デイモンのような、俳優として一際目立つ才能の閃きは感じなかったのですが、なんだかのんびりしてる気さくさと寛容な雰囲気が心地よく、何か袖の中にトリックを隠し持ってるマジシャンのような面白さも感じました。
監督デビュー作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007)が公開されたとき、実はびっくり仰天しました。社会性があり、見る人をぐんぐん引き込むよくできた作品。勝手につくり上げていたベン・アフレックのイメージから、軽い作品に違いないと決めつけてたからです。 監督として歩き出したベンのインタビューを通して、彼の複雑さ、細かい人間観察、繊細さ、政治性が見え始めました。
2007年、初監督作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の頃。まだ若くすがすがしい雰囲気。(C)HFPA
3年後、2010年『ザ・タウン』監督の頃。(C)HFPA
その前は出演作自体、人生を深く考えるタイプのものはベンにはありませんでした。インタビューといえば、当時つき合っていたグウィネス・パルトロー、婚約までしたジェニファー・ロペスなどの話が大きな割合を占めてました。ベンもけっこう正直に「グウィネスはお嬢様だからちょっと我儘だけど、すごく洗練されてて僕なんか足元にも及ばない」とか、気楽なものでした。
この時期に彼のお父さんがアルコール依存症だったこと、それが両親の離婚の原因だったことを教えてくれたんです。あれはまさに、人の良いベンが素直に気さくに、なんのてらいもなく、どんな質問にも答えてくれていた昔昔の話なのです。
”ベニファー”と呼ばれパパラッチに追いかけられてたJ-LOとのお付き合い時代、あまりの軽薄さに「ベンのキャリアはこれで終わり」とまで言われてました。その後マットにインタビューしたとき、「あの時は僕達周りもずいぶん心配したんだ。いい加減にした方がいい、と助言もしたよ。彼は『ダメージはわかってる、でも自分だけの問題じゃない。彼女を傷つけるようなことはできない』と変に律儀でね。ベンってそういうヤツなんだ」と言ってたのが忘れられません。
2016年、『バットマンVSスーパーマン/ジャスティスの誕生』ではバットマン役を。ムキムキの胸筋にバットマン役が垣間見えます。(C)HFPA
2017年、『夜に生きる』では監督・製作・脚本・主演を。なのにどこか表情は虚ろ。(C)HFPA
『ゴーン・ベイビー・ゴーン』の後『ザ・タウン』(2010) も話題になり、ベンは着々と監督しての腕を磨いてました。アカデミー賞作品賞をもらった『アルゴ』(2012) は、主な映画賞を独占するくらい完成度の高いものでした。3本目でアカデミー賞とは快挙と言えるでしょうね。この3本はジェニファー・ガーナーと結婚してる間の作品です。
『アルゴ』でオスカーを受賞した頃。監督としての名誉も得て、順風満帆に思われたが…(C)HFPA
「僕の人生で一番大切なのは子供たち。僕もジェンも、何があっても子供たちにきちんと説明するように心掛けているんだ。子供たちも小さい頃から、パパラッチやゴシック記事のことを教えられてるから、それなりにナビゲートできるんだよ」と笑ってます。
今年の暮れ公開予定のサスペンススリラー“Deep Water”で共演した次のボンド・ガール、キューバ生れのアナ・デ・アルマス との交際を、ロックダウン中マスクをつけて一緒に犬の散歩をしたりして、世間に知らせたベン。
「ある時点で前に進むしかない、と納得したんだ。過去にしがみついて自己嫌悪にさいなまれる時期はもう終わりにしたいと思ってる。人間は誰でも基本的には幸せになりたいと思ってるんじゃないかな」と言ってます。
最近、ベンの子供たち2人とアナと一緒にプライベートジェットでどこかに旅立って行った写真がメディアに出ていました。
ベンには苦しい闘いを乗り越えて、もっともっと名作を届けてもらいたいものですね。(C)HFPA