ここ数年で2匹の愛犬を看取ったという作家の森絵都さん。紡ぎだしたのは、飼い猫を失った少年の悲しみと回復の物語でした。
『生まれかわりのポオ』
著者インタビュー
物語は現実ではないですが、
時には人を支える力があります
森 絵都さん
もり えと●1968年、東京都生まれ。’90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。『宇宙のみなしご』『つきのふね』『カラフル』『DIVE!!』など、代表作多数。
2006年に『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、’17年に『みかづき』で中央公論文芸賞を受賞。日本ペンクラブ常務理事
Interview
9歳の主人公・ルイが生まれる前から、ママが飼っていた猫、ポオ。
ポオが天国に旅立つと、ルイはショックを受けて…。愛する者を失った悲しみと、回復への道のりが、優しさたっぷりに描かれていて、読み手の心を潤す最新作。大人の女性にも響く内容です。
「ライフスタイルが多様化する今、ペットも家族の一員ですよね。本作は『小学校低学年の子向けに』という依頼から挑戦した児童書でしたが、完成したのは、命全般についての物語になりました」
興味深いのが、ルイのために、ママが「ポオのその後」を綴る展開。物語が人の心に与える力に気づかせてくれます。
「そうですね。ママがルイに与えるお話は空想ですが、空想や物語って、どこか深いところに作用して、人の心を救ったり励ますパワーがあると思っています。本作は『猫の死』という悲しさがベースにあるので、ママが書く作中の作品は明るく、気持ちの切り替えになるような風景を提示できたらと思いました」
実は森さん自身も、この何年かで2匹の愛犬を看取ったといいます。
「特に2匹目を見送ったあとが、コロナの自粛期間と重なり、つらかったです。ずっと私生活が犬中心だったので、旅行でもして心を落ち着かせようと思っていたのですが、それすら難しい状況に。そこで観葉植物を育て、朝必ず水をやるなどのルーティンをつくり、日常で喪失感を埋めていきました。その結果、植物が増えすぎてしまったんですけどね(笑)」
22歳で児童文学の世界にデビューし、大人向けの小説の書き手としても第一線で活躍中。50代の今、自身の健康や体力維持で心がけていることは?
「自宅の腹筋マシーンで鍛えています。コロナでジムに通いづらくなったのと、犬の不在による散歩不足がきっかけでした。1日50回から始め、今は200回できるように。早く終わらせたいから、午前中にさっさとやってしまいます(笑)。実は閉経前後から全身がムチッとしてきた感があったのですが、それも腹筋を1年ほど鍛えたらすっきりしました」
冷え症改善のために食事はタンパク質を中心にバランスよくとる、徹夜はせずに、執筆は夕方までには終わらせるなど、自分に合う生活習慣や働き方を、試行錯誤しながらつくってきたそう。
「私は書きたいことを形にするのに時間がかかるタイプ。想像力に筆が追いつかず、もどかしいときもありますが、しっくりこない場合は潔くボツにして、自然と書ける日がくるまで待ったりもします。小説って、生ものだなと思いますね」
『生まれかわりのポオ』
森 絵都 作 カシワイ 絵/金の星社
1,540円
ルイとママと背中にハートマークのある猫のポオは、いつも一緒だった。でもある日ポオが亡くなって、泣き続けるルイに、ママが物語を書いてくれた。はたしてポオが生まれ変わったのは? 人気イラストレーター・カシワイさんのイラストも作品の世界にぴったり
撮影/露木聡子 取材・原文/石井絵里