外出自粛期間中、本棚の整理をした。
仕事の資料本は結構マメに整理をしているが、仕事とは関係なく読んだ本についてはずっと後回しにしていたので5月の連休中にやっと片付けた。
20代、30代のときに読んだ本が出てきた。
今も内容を覚えている本もあれば買ったことすらすっかり忘れていたものもあったが、この本が出てきたときはハッとした。
『生きがいについて』。
著者は神谷美恵子。
精神医学を修め、らい病患者の施設「長島愛生園」で診療にあたりながら精神医学の研究を続けた人である。
『生きがいについて』が世に出たのは1966年。
以来、たくさんの人に読み継がれてきただけではなく「この本に魂を救われた」という声がひきもきらずあったことから伝説の本、名著といわれている一冊である。
ためしにこの記事を書くにあたり、ネットのクチコミをチェックしてみたら
「生きる上での気づきを得られた」
「折りにふれて読み返したい人生の伴走者といえる名著」
「子どもの本棚にそっとしのばせておきたい本」
と賞賛の声がたくさん。
病気や事故で九死に一生を得た人、危うく命を落としかけた経験がきっかけで読んだという人も何人かいた。
私がこの本を読んだのはおそらく今から20年前、30歳くらいだったと思う。
新聞の文化欄やテレビの教育番組などで神谷美恵子という人が取り上げられているのをちらっと見たことがあったので名前は知っていたが、いよいよ著書を読む気になったのは、ちょうどその時期私にも〝人生の山と谷〟といえるようなことがあり、それを乗り越えるための答えを探していたからだ。
(この本が出てきたとき思わずハッとしたのは、その頃抱えていた苦しさが瞬時によみがえったせいだと思う)
ところが……
私の心には全く響かなかった。
そのため本棚にしまったままになっていた。
なのにこのたびこの本を20年ぶりに読んでみようと思ったのは、世の中の状況のせいかもしれない。
世の中の状況というのは、いうまでもなく世界が直面しているコロナ渦、コロナの脅威のことである。
毎日更新される感染者と死亡者数
誰が罹るかわからない
この数字に含まれるのは明日こそ自分かもしれない
そういった背景があり、50歳を過ぎてあらためて読んでみたいと思ったのだとおもう。
結果は……
沁みた。
読むといっても小説やエッセイを読むときのように出来事やストーリーをわくわくしながら追っていくのとは違う。
今回わかったのは、自分の心に訴える一文、響く言葉を見つけていくのがこの本の読み方だということ。
やりがい、幸福感、はりあい。
これらはいわゆる充実した人生が含んでいるものであるが、〝生きがい〟とはまた違う。
では生きがいとは何なのか?
そういえば私の生きがいは何だろう?
そもそも生きがいってもっていないといけないの?
このように自問自答することが、この本を読むということ。
つまり答えは自分の中にあり、この本はそれをひっぱりだす鉤なのだ。
……。
20年前の自分にこの本が響かなかった理由がわかった。
最後に本の中の一文を紹介する。
哲学者ルソーの著書『エミール』から引用されたものだ。
もっとも多く生きたひととは、
もっとも長生きをしたひとではなく、
生をもっとも多く感じた人である
コロナであっけなく命を奪われてしまう人がいる一方で、人生100年時代にも直面している今、この言葉をかみしめるのは私だけだろうか。