女性のアーティストたち、しかも、オーバー70!で今勢いのある作家の作品ばかりを選んだ美術展が、感染に配慮しながら開催されていると聞いて、森美術館に行ってきました。
1950〜70年代に活動を始めて今現在も現役で注目を集めている世界の16人の現代アート作家、それも女性の作家たちの作品を集めた展覧会、『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力ー 世界の女性アーティスト16人』です。
なんと、この16名「全員がキャリア50年以上」とのこと。一番若い方が現在72歳(展覧会開始時は71歳)ですが、70代〜と言えば、40代〜のOurAge読者には、ほぼ母親くらいの世代のみなさんです。そして最高齢のアーティストの方は、現在106歳! (展覧会開始時は105歳) オチャリーナの祖母(30年ほど前に70代後半で他界)と同世代の方が、今も現役でアーティストとして活躍されているなんて、素晴らしすぎです。
その作品がまた、どれも先鋭的で驚かされます。
え、こんな面白いこと、そんなに前からやってたんだ!みたいな発見と、こんなにすごい作品を、ごく最近作ってる!え、72歳? こちらは96歳? どんだけ明晰でパワーがあるのか!という、まさに「アナザーエナジー=彼女たちを突き動かす特別な力」を持つアーティストたち。
彼女らと、一般人の我々(いや、もうすでに人生終盤気分の自分?・笑)との違いに圧倒されて。「いや、もうこれはアナザーワールドだし」と、初めはちょっとぼんやりしてしまうほどでした。
ですが、作品とともに示されているそれぞれの来歴を知り、多彩な表現を見ているうちに、なんだか「年代も、立たれてる地平も、自分とは全然違うし、アーティストそれぞれも違うけれど、思いには同じものがある!」と感じられると、ジワジワと共感し、元気と勇気が湧いてきて。「姉さんたち、カッコ良すぎるぜ!」と乾杯したい気持ちに!
入ってまず、「おお!」と驚かされ、シビレる巨大な彫刻作品《アンダーカバー2》
最初の部屋にある作品からして、まずこのボリューム感と色に、圧倒されます。
フィリダ・バーロウ 《アンダーカバー 2》 2020年 Courtesy: Hauser & Wirt
展示風景:「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」森美術館(東京)2021年 撮影:古川裕也 画像提供:森美術館
展示室に入るとすぐ出会うこの作品、鮮やかな色とさまざまな素材の組み合わせが印象的。「彼女の作品が木材や布、プラスチックなど工業用材料を多く使っているのは大理石やブロンズを使用する権威的な彫刻への批判を暗示しています」と説明にあるのを見て、またシビレます
部屋いっぱいの、花のような、巣のような、なんとも表現するのも難しい「わからない」もの(ご本人がインタビューでその言葉を使われています)。だけど、カラフルで、パワフルで引き込まれずにいられない。制作年を見ると2020年、つまり昨年で、作家フィリダ・バーロウが76歳になる年の作品と知って、
「マジですか!」と、改めて作品をしげしげと見つめてしまいました。
しかもプロフィールを見ると、ずっと制作に取り組んできた彼女がアーティストとして世界的に注目されるようになったのは、5人の子どもを育てながらイギリスの大学で教え、定年退職してからのよう。たぶんどっぷりと「日常」に忙殺される年月も長かったのでは? と思われますが、その中でもたゆまず思考・制作を続け、エネルギーを蓄えてきたのだと思うと、ますます作品に凄みが増して…。
日々の雑事に追われる私たちも今、何かを蓄えているところなのかもね! と、ちょっと自分の頭の中をのぞき込んでみたくなりました(笑)
インタビューで触れる作家の言葉や表情から、作品がより大きく立ち上がってくる
で、この展示のいいところは、展示のその場で作家ご本人たちへのインタビュー動画が見られること。このフィリダさんの展示にはこんな感じで作家紹介が。
フィリダ・バーロウ 「アナザーエナジー展」展示室内のプロフィールとインタビュー映像
「教師でいたことで、その時々の流行に惑わされることが少なかった」と語っていらして。きっと歯がゆい思いも感じたからの言葉でしょう。おだやかな様子の奥に秘めたパッションがあふれ出して作品になっているよう。16人すべてにこうしたプロフィールとインタビュー映像がある
「アーティストになったきっかけは?」「若いアーティストに伝えたいことは?」など、様々な質問をそれぞれ16人に聞いて、その答えが語られるのですが、言葉はもちろん、姿や口調、笑顔なども、各人の個性が表れていてとても興味深いのです。アーティストによっては制作中の動画も入っていたりして、それも面白くて引きこまれます。
ひとりぶんが数分〜と、そこそこボリュームがあり、じっくり観ているとわりと時間がかかるので、行かれるならゆったりめに予定をとっておくと、堪能できるかも。
ただ幸いなことに、会期中は同じインタビュー映像が森美術館の公式YouTube「Mori Art Museum 森美術館」でも公開されているので、後からじっくりお家でも観ることができます。(とはいえ、言葉を聞くと、また作品が見たくなってしまうのですけどね・笑)
公式YouTubeには本展のキューレータートークも公開されており、企画の意図や、それぞれのアーティストの作品の解説も語られます。さらにさまざまなコンテンツがあるので、こちらもぜひ!
激動の時代を生き抜いてきた彼女たちの表現の深さにドキッとする瞬間、「アナザーエナジー」を浴びる!
当然ですがどの方のお話もすごくシャープながら包容力もあり、言葉にも存在にも強く太い芯を感じます。
私たちの親と同じか、それより前の世代というと、これまでの人生で、第二次世界大戦(人によっては第一次大戦も)の影響を受けていたり、中には政変や迫害、反戦運動やウィメンズリブにも多くの人が何らかの影響を受け、一方で宇宙開発やネット化も進んだし、消費社会とそれへの疑問などなど…、激動の時代を生き抜いてきた方々。
社会の大きな波を何度も何度も受けつつ、それらに対して常に考え、作品を作る中でもさまざまに問いや異議を発している様子が、作品の中にも現れています。
それはパッと見ではわからないものだったりもするのですが、そこに気づかされた時のドキッとする感じがたまらないのです。作品、解説、プロフィール、動画、と立体的に触れて「アナザーエナジー」を浴びるたび、生涯を通じて表現し続けるアーティストへの畏敬の念を抱かずにいられません。
こんなにきれいな抽象画を描いているアーティストがいたり…。エテル・アドナンは現在96歳。レバノンに生まれ、詩人、小説家として活躍する中で、独学で絵画を手がけるようになったそう。この作品は近年のもの。
エテル・アドナン《無題》 2018年 油彩、キャンバス 55×46 cm
Courtesy: Sfeir-Semler Gallery Beirut / Hamburg
作者のエテル・アドナンは詩を書くように絵画を描くことを思いついたそう
一方で、こうした動画作品も。
今、何度目かの勢いを見せているフェミニズム・ムーブメントの一角を生き生きと切り取ったかのような動画作品と、約40年前の今見ても画期的なウィメンズ・リブのインスタレーション作品が並ぶスザンヌ・レイシーの展示。連綿と続く意志の熱さと拡がりに、観る側もムネアツ!
スザンヌ・レイシー 《玄関と通りのあいだ》 2013/2021年 「アナザーエナジー展」展示室内風景
本作はクリエイティブ・タイム(ニューヨーク)、ブルックリン美術館エリザベス・A・サックラー・センター・フォー・フェミニスト・ アートの協賛によって2013年に制作されました。
動画だけでなく、さまざまに問いかける床も、ベンチも、含めての作品。多分、50年前にも同じ問いかけがなされていたはず…
本当に全部の方をご紹介したいほどどの方もすごくて、いろんな国の(日本の方もおふたりいらっしゃって、その作品もすごい)いろんな女性たちの生きてきた歴史や営みが作品を通じて少しですが理解できた気がします。
猛暑の日々で夏も盛りと思っていましたが、あっという間に9月に入り、この展示は今月26日まで。緊急事態宣言の続く東京ですが、ウェブ経由で予約可能なので、安心して見られます。
遠方で来場が難しいみなさまは、キュレーター・トーク&インタビュー動画だけでも観る価値は十分あります。ただ、先輩レジェンドのパワーをじかに感じるには、やっぱり会場での「アナザーエナジー浴」ができるといいですね。「祈・コロナ早期退散」!