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ドキドキしてるのは私? それとも森? 大小島真木さんの個展「森臓」で、無限の鼓動に触れる

オチャリーナ

オチャリーナ

お茶好き、カフェ好きで、お茶のんで仲間とおしゃべりするのが至福。
コリ症、冷え性なので、鍼とかお灸で癒しています。
一番最近の担当は、翻訳のシリーズ本『こんにちは! 同意』&『こんにちは! 生理』。既刊の絵本『子どもを守る言葉「同意」って何?』も含め、「自分も相手も大切にする関係」に役立つ本を手がけたいと思っています。

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スウっと風が吹くようで、自分を委ねたくなるような、青い肖像

 

人でもモノでも作品でも景色でも、「なんで今まで出会えなかったんだろう!」と思うことがありませんか?

私にとって、今回初めて展覧会「森臓」で生で見られた、現代美術家の大小島真木(おおこじま・まき)さんの作品は、まさにそのひとつでした。

 

展示ごとに作家が壁に絵を描くアートスペースで、大小島さんがその壁いちめんに描いた横顔、複数の目、葉、根、器官?、ひと? そして…。
繊細な線で描かれているのに、全体の印象はとても力強い! 美しい水のように透き通った青と、大きな目に、スゥっと自分を委ねたくなります。

 

 

今にも息遣いが聞こえそうな横顔。そこに大小島さんが初めて手がけたという陶器による作品や枝が不思議な一体に

 

よく見ると不思議ではあるのですが、疑問より何よりまず感じるのは、気持ち良さや親しみ。

「やっぱり生で見られてよかった!」とニコニコしてしまいました。

 

しかもこの日は、会場である「ツォモリリ文庫」の壁に描く壁画の公開制作の最終日。(展覧会は11月22日までなのでご安心を!)

ほぼ、仕上がっているように思える作品の前で、脚立に乗った大小島さんが、見えるか見えないかギリギリのような銀色の線を描き加えていく。すると、確かにその線が、なくてはならない線になる…。

 

完成直前の制作風景。グリーンが配されたギャラリーの中で、時に賑やかに歓談しながら、時に黙々と、制作は進む

 

最初に大小島さんの作品を見たのは確か、数年前の「ウォール・アート・フェスティバル」の展示を知らせる記事でした。年に1度、インドの学校に滞在し、現地でアート作品を制作して開かれるフェスティバル。教育や地域の文化に貢献する活動として、年数を重ねて開催されてきたこのシリーズに参加した大小島さんの壁画に目を奪われたのです。

教室の四方の壁を使って様々な動物や植物と人や空、雲などが、ところせましと躍動する絵を映し出す動画を見て「うわあ、すごい! 実際に見たいなあ〜」と思ったのがヴァーチャルな「出会い」でした。

 

その動画は2013年の作品だから、もう8年も前。以降も、アニエスbが実施する自然保護プロジェクト参加者に選ばれて海洋探査船「タラ号」に乗り、その旅に触発されて鯨を描いた「鯨の目」シリーズなど、ますますフィールドを拡げて活躍する大小島さんの作品に興味が増して、何度も展覧会の記事など見ていました。

でも「行こう!」と思ってもなぜかタイミングが合わなくて行けずで。そしてようやく、このアートスペースで開催中の展示で出会えたのです!

その作品、そしてアーティストご本人からも、やはりとても強いインパクトを受けました。

 

著書『鯨の目』を手に、サインにこたえる大小島さん。マスク越しにもパワーが伝わります。そしてサインにはなんと、「目」が描かれて!

 

そこに草が、動物がいて。身体の中にいたはずの心臓は「森臓」になる

 

ふと、改めてよく見ると、先ほどの壁画作品の右上には、何やら不思議に目立つきれいなものが。

 

人? それとも? と不思議に感じる何かの左胸にあるそれは…

*以下、全ての作品は、作者及びギャラリーの許可を得て掲載しています

 

今回の展示のタイトル「森臓」(=しんぞう)は、お気づきのように「心臓」がモチーフ。このカラフルな物体、飛び出しているように見えるのは、陶製だから。

 

同じ部屋の左手の壁には、大きな木のインスタレーション。枝に実がなるように、様々な陶器の「森臓」がなっています。

 

リアルな枝、それもかなり大きな枝に、実のように成っている「森臓」たち

 

 

本物の心臓みたいな形の「森臓」を近くでよく見ると…、わ! っと驚きました。

熊と熊のような人?が、心臓と共生してる?

 

寄り添う2つの生き物は似たような濃い毛に包まれているけど、ひとつは人間にも似ていて

 

こちらには、別の動物が、奥の森臓には草が。

 

絵と同じで、不思議だけど可愛らしくて親しみのわく「森蔵」たち

 

 

こんもりした「森臓」をひとつひとつ見ていたら、ふと、何年か前に自分の心臓の「M R I画像」を見たときの驚きが蘇ってきました。背中の強い痛みで、すわ心臓が原因か! と専門病院に駆け込むも幸い問題なく。(ただの「コリ」説が有力…でした・笑)

医師のPCに大きく映し出されたその「MY心臓」は、濃いピンク色の本体に、薄いピンクの血管が、まさに「根っこ」のようにまとわりついていたのが、印象的でした。

 

ものすごく重要なのに、ほぼ目にすることのない「心臓」。それが今回、木や、熊、などなどと一体になっている「森臓」を見たとき、なんかすごく納得、というか、「そうだったんだ!」という気がしました。

 

大小島さんが今回の展示に寄せた言葉が、シンプルながら「腑」に落ちます。

 

〈身体の中にある森と、

身体の外にある心臓。

夜という名の太陽と、

朝という名の新月。

全てはもつれあい、絡まりあいながら、明滅を繰り返している。

…(中略)

内と外を交差させながら渦を巻く、生命のとぐろ。

音もなく鼓動する“森臓”のリズム。〉

 

 

大小島さんは実は「心臓」とも縁が深いよう。

「心臓は学生時代からのテーマでした。今回は初めて取り組んだ陶器での表現ですが、心臓を形どりながら、中で様々なものがひしめき合っていく。種は違っていても、自分たちの祖先のイメージ。それに呼応して息をしている大きなもの。大きな木を描きたかった」と大小島さん(以下、「」内は完成記念トークより)。

 

自然の動植物や環境の混沌の中で輝く命。森や森の生き物と、地球やその先にあるもの、そして私たちって、分けられない、分けてはいけない、あらかじめ一体な何か。では、それは何?、どこが違うの?と。「森臓」に問われているような気がします。

 

 

こんな可愛らしい森の動物たち、草花たちも、楽しく集っているギャラリー内

 

 

 

広い世界と自然に触発され、どこまでが自分? と問い続ける

 

当日は、壁画完成記念で行われた、大小島さんと、人類学者で映像作家の太田光海(おおた・あきみ)さんのトークイベントにも参加しました。太田さんは、ペルーのアマゾン地域でフィールドワークとして一年強滞在して現地の人々と暮らし、記録した映像を映画にした(博士論文でもある)作品、『カナルタ 螺旋状の夢』で話題を呼んでいます。

 

左から、ツォモリリ文庫の統括ディレクターおおくにさん、大小島さん、右奥が太田光海さん。『カナルタ』の予告動画も紹介されました

 

 

ある時はインドの広ーい空と乾いた大地に、ある時は遠い海で偶然出会った鯨の亡骸に、触発され表現を続ける大小島さん。近代文明とは違う文明のもとに生きるアマゾンの部族と暮らし、女性たちが唾液で発酵させる酒や、それをめぐる習俗を自ら体験し伝える太田さん…。

パリ、イギリス、メキシコ、熱海(!)…、と様々な地域に広がるおふたりのトークは、共通するものがたくさんあり、文化や環境の境界を越えていくだけでなく、身体の内と外、意識の奥にも話題が及んで、とても刺激的。

 

中でも印象的だったのは、大小島さんが語っていらした、「どこまでが自分なんだろう?」という問いでした。ハッキリ分かれているようでいない自分たちの身体と森(自然)の関係は、つきつめると

「条理も不条理も巻き込んだもの。エコロジー、ポジティブだけでは語れない、腐ること、発酵すること、そこから育っていくこと。それって家づくりや人間関係にも言えることかな、と思っている」

 

うん、うん。花や畑の野菜と同時に土や虫も身近に感じる自分としては、すごく共感。文化人類学が専門の太田さんとの対話は、さらにヘーゲルや、フレイザーの『金枝篇』(教科書で見かけて以来の邂逅!)、岡本太郎へと、次々と広がり、いろんな角度から刺激を受けたトークでした!

 

その先の「猪苗代へ」と、つながるこの場所で体感する鼓動

 

大小島さんはその後、福島県の猪苗代町に向かったそうです。

インドに続いて2018年から、やはり学校を舞台に行われている「ウォールアートフェスティバルふくしまin猪苗代」に招聘されているから。
3週間、現地に滞在して作品を制作されるアートイベント自体、日本ではまだ貴重ですが、特に自分の学校でその間ずっとリアルタイムで「壁画」の制作を見て、ワークショップなどを通じてアーティストと一緒にその世界に浸れる子どもたちは、日本中でここだけじゃないかな? うらやましいなあ!

地域以外の大人や子どもも、フェスティバルが開催される11月6日、7日には過去の同フェスティバルで制作されたもの含め全13作が公開されてしっかり見られます。それらをめぐる現地発のツアーもあるそうです。とても楽しそう!

 

実は、「森臓」の展示の一部になっている木の枝は、この猪苗代から運ばれてきたのだそう。最初に目にした2013年以来、関連プロジェクト含めてインドとつながってきた大小島さんは、「森臓」の展示にあたり、それぞれの場の意味を考えたのだそうです。

「猪苗代は磐梯山の爆発で作られた土地。水が美味しくて、大いなる自然への畏敬の念を感じる場所。そこに向けての今回の『森蔵』の東京での展示は、インドから猪苗代へと、つながる場所なんです」と。

 

いろんな場所をその目で見て、体感したものを発酵させ、「また次の土地に身体を運び、その先で出会ったことを描きたい」という大小島さん。その身体を動かしているのも鼓動、その外にも無数にある「森臓」の鼓動。そして誰しも持っている赤い心臓が、部屋中の植物や、飛んでくる鳥や、蛇口の水や、木の床など、いろんなものといろんなところで一緒に「ドキドキ」していると思うと、なんだか嬉しくなるよね、と。そんな気持ちで帰路につきました。

 

民族が大切にするシンボリックな動物「トーテム」たちと森臓が、森でパーティ? みたいな展示も可愛いです!

 

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